よく当たる占い師の噂を聞き、その住まいである長屋を訪れた侍の、奇妙な悩み事のお話。
時代もののお話です。人の技を超えた不思議な占いが登場するという点においては、ファンタジー(というか伝奇)的な魅力もありますが、お話そのものは硬派で堅実な時代小説してるのが嬉しい作品。
もうとにかくなめくじ絡みの描写がすごい。ゾワゾワ総毛立つというかもう「ホギャァァァァ!」と叫びだしたくなるようなこの不快感!
なめくじに限らず長屋の悪臭やぬかるみの感触など、とにかく細かいところからじわじわ詰めてくる悍ましさの、その質と量がもう本当に最高でした。文字情報だけでここまで感覚を揺さぶられることの気持ちよさよ……。
お話の展開そのものはホラー的ではないというか、例えば「直接恐ろしい怪異に脅かされる」という筋ではないのですけれど、でも「不快さや悍ましさの楽しみ」をぶつけてくるところが好きです。
主人公が占いによって知ろうとする悩みの内容とその真相も含め、ワクワクしながら(でもゾクゾクも同時に味わいつつ)読めた作品でした。筆致の細やかさとモチーフの使われ方が素敵!
じっとりとした時代小説や、伝奇小説のような雰囲気を持つ一作です。
物語は、日比谷稲荷近くの源助長屋に、おそろしく当たる八卦見がいると聞いて尋ねた一人の男を中心にして始まります。
助六と名乗る男の妙に妖しい魅力を孕んでいるところや、作品全体をじっとりと覆っている湿った空気、こういう時代の長屋という場所に漂う程よい不潔感がしっかりとした筆致で描かれていて、読んでいて世界にぐっと引き込まれます。
色鮮やかな描写や、なまめかしい描写、そして、タイトルにもなっている「蛞蝓うらない」がどのようなもので、一体助六と名乗る男は何者なのか、彼の元を訪ねた武家の男はどんな目的だったのか……。
作品を読んで楽しんで欲しいなと思います。
ジメジメとして暑い季節に読むと、ちょっと涼しい気持ちになれる作品でした。
恐怖とはまた異なった妖しさをはなつ、妖艶にてかる蛞蝓たち。
最後に曲亭馬琴の引用がありましたが、まさに彼らが収集した奇談の一編であるかのようでした。兎園小説のひと繰りに記されていてもおかしくありません。
時代小説を書きなれていらっしゃるようで、小道具や描写も違和感なく小説の中にはまり込んでいました。蛞蝓の描写にしても、気味が悪いだけではなく、ぬらぬらとした粘液の光に、奇妙な魅力を感じました。
またことの顛末についても、判然としない怪談そのもの、という感じで、ホラーとは異なる余韻を強く残すものでした。
時代物というジャンルで食わず嫌いをされている方にも、ぜひ読んでほしい作品です。
なめくじも、案外おいしいかもしれませんよ?