訳あり物件、探してます 二つ目

 今日寝るための布団を買ってきた後、日も暮れてきたので夕食にすることにした。


「先輩、何が食べたいですか?」


「小夜に任せる」


「じゃあ、外食に━━━」


「外食はなしで」


「……ピザでも頼みましょうか」


「おっけ~」


 先輩は慣れた手つきで、ピザ屋のサイトを開き、食べたいピザを選び出した。

 ちなみに、いつも先輩は外食を嫌う。本人曰く、幽霊のいない場所に興味はないとのこと。


「小夜はどれ食べたいの~?」


「シーフードで、マヨネーズはなしでお願いします」


「りょうかい」


 結局先輩が頼んだものは、一枚で二種類のピザを楽しめるハーフ&ハーフというものだ。

 半分が私のシーフードピザ、もう半分が先輩のパイナップルピザ。パイナップルピザなんて、おいしいのかな……。


「ねえ小夜」


「何ですか?」


「いや、呼んでみただけ」


「なんですかそれ」


「まあ、用はあるんだけどね」


 寝転がっていた先輩が、起き上がって私の前に座る。


「小夜はなんで私についてくるのか聞けてなかったなと思ってね」


 先輩の心霊現象探しに私が同行するようになったのは大体1年前くらい。先輩の事を知ったのは偶然だったけど、知ってしまったら放っておく事が出来なかった。

 だから、同じ高校にも頑張って入ったし、こうして色んなところについて行くようにしている。


「それは、えっと……」


 私が先輩について行く理由。

 正直言いたくない、というより言えない。言ってしまったら、先輩は私を遠ざけるから。私と先輩の目的は同時に成すことは出来ないから。

 

「…もしかして」


 何も言わない私に、先輩が口を開いた。


「私の事が好き…だから?」


「え?」


 え?


「だってそうでしょ。理由も無しに私について来るなんておかしいもん!だったら、言えない理由ってそうなるじゃん!小夜って同性愛者だったのか………いや、私は別に同性愛者がダメとかそんな風には考えてないよ?ただ、その対象が私なのかと思うとちょっと変な感じになってね………違うよ?!別に小夜が嫌いとかそんなのではないんだよ?!コレは私が慣れてないだけであって別に————」


 先輩が顔を真っ赤にしてめちゃくちゃ話し始めた。


「せ、先輩!落ち着いて下さい!」


「わしはいつも冷静だ!ただ、急にそんな選択肢があると思うと……」


「一人称変わってるじゃないですか!もう、ほらこの写真見て下さい。中学の時の彼氏とのツーショットです」


 私は中学の時に撮った同級生の彼氏とのツーショット写真を先輩に見せる。ちなみに、この彼氏とは既に別れている。高校が違うからね。しょうがない。


「え、小夜って彼氏いたの……」


「今度はそっちか…」


 先輩が普通にショックを受けている。


「さ、小夜は同士だと思ってたのに」


「ずっと部室に篭ってホラー映画見続ける人と同じにしないでください。私、部活がない時はちゃんと高校生やってますから」


「そんなぁ…」


 実のところというか、事実通りだけど先輩は学校では変わり者と認識されている。先輩が設立した心霊物件部は部員が私と先輩の二人だけ。教師を脅して設立を許可させたらしい。

 そして、その部に入っている私の立場は、不和鏡花と唯一意思疎通が出来る者として教師から信頼を受けている。

 信頼って大事だなあとつくづく思う。


「私だって、昔は超がつくほど真面目だったんだよ?」


「嘘ですね」


「ほんとだし!ちゃんと授業受けて、友達と話して、恋愛もして。それはもう花の高校生と言っても過言ではないほどで…………」


「今はどうなんですか?」


「うっ。だって……飽きたんだもん」


「でしょうね」


 この先輩は温まりやすく冷めやすい人だ。おおよそ、花の高校生時代の時期は高校生に憧れたり恋を知りたかったりしたのだろう。で、それが分かったからもうどうでもいいと。流石先輩だ。身勝手だ。


「ま、まあそんな話はどうでもいいとして!!」


 あ、露骨に切り替えた。


「お風呂の順番決め勝負を始めようじゃないか!!」


「……そうですね。確かにそろそろ入りたいです」


「勝負内容はこれ! 人生ゲーム〜孫の代まで編〜だ!」


「却下で」


「あ、はい。けどね、小夜。このゲーム誰もしてくれないから私も遊んでみたくって…」


「却下で」


「小夜〜、その笑顔怖いよ〜」


 何が怖いんですかね先輩。私は、精一杯の笑顔を作っていると言うのに。


 そうして、不破が騒いでいるとそれは起こった。


『きゃはははははははははははははははははあははははっははは』


 どこからか、女性に笑い声が響く。


 小夜の背筋が凍る。不破の目が輝く。


 笑い声は30秒ほど続き、急に止まった。


「…先輩、お風呂一緒に入りませんか?」


「……………」


「せ、先輩?」


 先輩の目は鋭く、この部屋を睨んでいた。



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