訳あり物件、探してます

薬壺ヤッコ

訳あり物件、探してます 一つ目

20XX年8月20日

 ある会社に勤めていた女性、立花たちばな 祥子しょうこさんが自宅で亡くなった。

 死因はどうやら過労だ。つまり、過労死だ。自宅で仕事をしている間に逝ってしまったらしい。

 勿論、その会社は社員に無理を押し付けていた事が公になり倒産。

 社員の殆どは別の会社に就職。このブラックな会社に比べたら、他の会社がホワイトで幸せだと語っていた。

 不謹慎だけど、祥子さんの死のお陰で多くの人が救われたと、テレビ番組にも取り上げられていた。

 誰もがハッピーエンドを迎えた。




 祥子さんを除いて。




 ♢


 

 ボク———姫乃ひめの小夜さよは、祥子さんの自宅だったアパートに来てしまった。

 アパートは年期が入ってて、所々錆びて茶色くて、はっきり言うとすごく不気味です。


 そのアパートを興味津々と見ている人がいる。


「ほえ〜、ここが立花祥子さんのご自宅ですか。いかにも訳ありですね〜」


 この人は不和ふわ鏡花きょうか先輩。ボクより一つ上の学年で、校内一、いや世界一頭のおかしい人だ。

 だって、夏休みの間に『幽霊見る!!』って言って日本を駆け回ってほぼ全ての心霊スポットに行ったり、幽霊が見れなかったから『幽霊が私を嫌うように、私も幽霊が嫌いだ!!!』と火炎瓶を心霊スポットに投げようとしたり(もちろん止めた)。行動力と発想がぶっ飛んでるよ。


 そして、今回目をつけたのがこの心霊アパート。数ヶ月前に立花祥子さんが亡くなってから、彼女の住んでいたこのアパートで心霊現象が見られるようになったらしい。


「よし、早く行こうか。幽霊ちゃんも私を待ってる筈だし」


「それは良いんですけど……先輩、どうしてそんな格好をしてるんですか?」


「え?」


 不思議そうに首を傾ける先輩。その服装は幽霊のコスプレ姿だった。


「だって、幽霊ちゃんに会いに行くんだよ?仲間だと思われた方が会えそうじゃない?」


「そう言うものじゃない気がしますけど…」


「多分、今までは現代風な服装だったから幽霊ちゃん達に避けられてたんだ。私から歩み寄ろうとしも、会ってくれなかったんだ。だから今回は仲間だと思わせて、向こうから来てもらうことにした」


「その説だと、幽霊が動物並みの知能しか持ち合わせていませんよ?」


 先輩の中では幽霊とは一体何なのだろうか。話を聞けば聞くほど分からなくなる。


「私の推測では幽霊とは、かまってちゃんの結晶のはずだ。ポルターガイストとかも構って欲しいからに違いない」


 そうなのかもしれない、と思ってしまった私はもうこの人に毒されているのかもしれない。

 これ以上、先輩の謎理論を聞いていたら更に頭がおかしくなりそうだ。少し強引だが、話を切らせてもらう。


「それじゃあ、そろそろ中に入りましょうか?」


「お、小夜も乗り気じゃないか。そうかそうか、君も幽霊ちゃんに早く会いたいんだね」


「いや、あんなのに会いたくなんて思ったことないですから」


 私と先輩は立花祥子さんの部屋だった、406号室へと向かった。印象としては、階段が錆びていて、とても怖かったです、はい。


「それではそれでは、おっじゃまっしま~す」


 先輩が勢い良くドアを開けて中に入る。(これは入るというより、突撃するというほうが近いかもしれない)

 私も先輩の後でゆっくりと扉をくぐる。


 そこは一見普通のアパートに見えた。一人暮らし用のこの部屋は、玄関の先にはキッチンがあり、風呂トイレ別らしい。扉が二つある。

 この玄関とキッチンが同接した空間の、一番奥の扉。その扉は開いていて、ここからでも奥の様子が見えた。

 奥のワンルームは畳部屋のようだ。中々広くて、私と先輩でも十分な広さがあるだろう。(確か、あそこの広さは10畳ぐらいだったはず)


「わ〜い、新居だ新居。しかも、広い!最高!!」


「先輩、ご近所さんに迷惑になりますから、お静かに」


 先輩のテンションがどんどん高くなっていく。

 その先輩を傍目に、私は部屋に不審な点がないかよく観察してみる。

 まあ、観察するより前に一つ。

 この部屋、めちゃくちゃ臭い。甘ったるくて、何かが腐った匂いが部屋の奥からする。想像以上に臭い。


 換気、換気しなくちゃ。


「そういえばさ~、ここってどんな心霊に出会えるの?」


 畳部屋の真ん中で、大の字で寝転がっている先輩が呟いた。

 換気のため、幾つかの窓を開けながら先輩の問いに答える。


「話題になっている心霊現象はですね、『突如聞こえる笑い声』『殴られる壁』の二つですね」


「ふむふむ、なるほど」


 先輩は思案顔になって、寝返りしたり、寝ころんだまま回ったりと。多分、広い部屋を楽しんでるんだろうな。

 そんな先輩を見ながら、私は生活をする為の準備を進める。先輩のことだから、心霊現象を見るまでここを離れようとはしないだろう。逆に、ここの心霊現象の正体が分かったらすぐに帰るかもしれないけど。


「小夜、布団あったよ!これで凍死は避けれるね!!」


 先輩の興味が、押し入れの布団に向いた。


「布団は……、一つだけですか」


「そうだね……一緒に寝る?」


「……………………やめておきます」


「明らかな間があったね」

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