第8話
オレは並行して別の手段も講じた。
あれほどのクズな男にも関わらず、ヨウタに好意を寄せる女。
東道ユミを利用しようと考えた。
一緒に食事をした際に、彼女のスマホに細工を施し、一定時間後に故障するように設定した。
自分のやっている仕事を理解してるヨウタは、予想通り故障したスマホを持ち帰ってきたので、こっそり同型機と交換しておいた。
その中には、画像編集ソフトで書き換えた、合成した東道ユミの、あられもない画像を入れた。
似たような体形の裸体画像など、ネットからいくらでも見つけられた。
後は賭けだった。
ヨウタがモミジの画像を見つけ、彼女を強請る。
東道ユミのスマホから、捏造された不貞の記録を見つけ騒動に発展する。
どちらに転んでもいいように準備をしていた。
ただ、最初から命をどうにかするつもりはなかった。
強請で立件されたり、ユミに愛想を尽かされる。
そんな罰を期待していただけだ。
仕込みはユミの方で動いた。
仕掛けた盗聴器は十分に機能を果たし、騒動の現場に押し入り、あわよくば警察沙汰にできれば上々。
そんなつもりでいた。
駆けつけた時、ヨウタのユミへの殺意は明瞭で、ユミの被害は最小限にしなければと焦った。
思いきり引き剥がし、ヨウタがパソコンの筐体の角に頭を打ち付けられ、出血と共に昏倒した際、取れる選択肢はいくつかあった。
すぐに救急車を呼べば、ヨウタは助かっていたかもしれない。
とり急ぎ判断を保留し、首を絞められて気絶しているユミを横目に、携帯ドリルで必要なパソコンのハードやスマホを壊した。
そんな中、プリントアウトされていたモミジの写真を見つけられたのは僥倖だった。
そして、ヨウタが何を思ってこれをプリントアウトしたのかを考える。
強請るためか? それとも大事な一枚だと思ってのことか?
少なくともあいつはこのデータを、ファイルフォルダの奥の奥に仕舞っていた中から見つけ出したんだ。
でもな、モミジ。お前は賭けに負けたみたいだ。
お前が提供してくれたこの画像データ。
お前と一緒に映っている男はヨウタだろう?
それと同じデータ、ヨウタのパソコンの中にもあったんだぜ?
モミジのように大事な思い出として残していた画像であれば、ヨウタはお前の意図に気付けた。
このパソコンの中に入っているはずのない画像。
ならば、このパソコンを持ち込んだオレも共犯だって理解できたはずなんだ。
でも、あいつが、ただのデータコレクションとして保存したまま、一度も閲覧していない状態であったならば……。
この写真が自分であることに気付くことはないだろう。
オレは、ヨウタがなぜプリントアウトをしたのか、それが知りたくて倒れたままのヨウタに近づいた。
彼はすでに事切れていた。
オレはそのまま警察に連絡し、モミジとヨウタの写真を眺める。
データを保存できる記録容量が増え続けていけば、いつか人の一生を全て、動画として記録できるようになるかもしれない。
そうなると、写真という存在はどうなるのだ。
一瞬だけを切り取られた場面。
写真の中で、モミジと、横顔だけのヨウタは笑顔だった。
世界がその瞬間に終わっていれば、二人の人生はハッピーエンドだったはずなのに。
いや、これはただの点集合。
配列によって意味を変えるただのデータだ。
オレは復讐を果たせたのだろうか。
かつての想い人の役にたてたのだろうか。
確かなのは、かつて親友と呼び、違う関係になる可能性のあった男を永遠に失ったということだ。
オレはパトカーのサイレンが聞こえる前に、確かに存在した幸せの残滓を燃やし、下水に流した。
灰になったそれは、やがて大海に注ぐだろう。
彼女の未練は、もう誰にも見つけられない。
点集合のかくれんぼ K-enterprise @wanmoo
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