読了して思ったのは、「勧善懲悪とは?」でした。
人間というのは欲深く業の深い生き物で、一度でも味を占めると求めずにはいられません。
消去したはずのスマホやPCのデータ。しかし、それらは特殊な修復ツールを使えば復元することも可能なのだそうです。
リサイクル品として集めた機器から復元したデータ引き抜き、使う。
使い道はいくらでもあります。色事だろうが強請りだろうが、何にでも使えてしまいます。
そうして使い道のあるデータを、お宝に見立ててサルベージするのが大好きなヨウタ。親友で、リサイクル業を請け負うサトル。最愛の彼女ユミ。
物語を大きく動かすキーパーソンは、ヨウタとサトルでしょうか。
ただ人の営み、繋がりというのは、まるで点と線でできた電子データのように世界中を漂っているもので――どこで業を背負っているか、どこで徳を積んでいるか分かったものではありません。
きっと、人間とその人生を形作るだけの膨大なデータは、1テラバイトのSDカード容量を超えています。
人間を確実に観測できるもの、全てを記録できる存在なんてものは、どこにも存在しないのでしょうね。
最後まで読んだ時に「勧善懲悪だ!」「自業自得だ!」とスッキリするのか、それとも「勧善懲悪って難しいんだな」と気付くのか。
完全な悪人と完全な被害者、その定義はとても難しいです。
考えさせられる作品でした。
小説の紹介文に釘付けになりました。
その昔、1.44M(メガ)しか入らなかったFDが、今では128T(テラ)のSDカードに至っている。
それを読んで、あー……そうだった、そうだった。13センチほどの四角形の薄っぺらい黒いディスクを、大事に大事に扱っていたのを思い出しました。
それが、どんどん容量が多くなってきた記憶媒体に、どんどん、どんどん溜まったデーターを入れていく。
そのデーターが、点のままで線にも、それ以上にもならなかった結末が書かれています。
私自身、読了の後のこの何とも言えない、気持ちをどう言葉にすればいいのか……。色々な思いが点にはなっていますが、線にならない。そんな気持ちです。
この物語に出てくる、人物達も人生においてのターニングポイントが、点としてだけ存在して、線に出来なかったのだろうお話です。
視線と思考が、少しずつずれている。そのずれを何処かで直せれば良かったのに、直せなかった。
じゃあ、私は今までの大切なことを、線にできているのかな?点のままで放っているのかな?そんなことを考えました。
読む人によって、大きく感じることが違うお話だと思います。
12106文字の中で、あなただけが感じる、あなただけの感想を噛み締めてみてください。