第7話 汎銀河大戦

「まぁ、どうぞ、そちらの一番上等な椅子にお座りください」


 スクリーンに映る人工知能と名乗るハッタが指差す先は、俺が立っている場所よりフロワー全体が階段三段ほど高い位置に在る豪華な椅子だ。

 ツヤは無いが革張りのフットレスト付きの豪華な椅子。背もたれを倒してリクライニングチェアーとして使ったら、熟睡できそうだ。


 その豪華な椅子の背後には、ソファーが半円形に設置されている。

 前方を見渡すと豪華な椅子の真正面、少し低くなった場所に三人並びのコンソールデスクっぽい物が1セット。更にその前には、半円形を描くように三人並びのコンソールデスクが3セット設置してある。

 コンソールデスクは、人が座ると豪華な椅子に背中を見せるようになっている。つまりは豪華な椅子の正面を、前方と認識した配置になっている。

 って事は、えっと、これって、一番偉い人の席じゃない?


「どうされました、遠慮などされずに、さぁさぁお座りください」

なんだかグイグイ押してくるな、それにさっき主人様って言ってたし、なんだか座っただけで栄一さんが何人も居なくなってしまいそうな奥歌舞伎町のボッタクリーバーみたい。


 まぁ、でも立ったまま話をするのもなんだし、他に誰も居ないみたいだから遠慮なく座らせてもらおう。


「粗茶ですが、どうぞ」

椅子に座ったタイミングで、何処と無くアシモに似たロボットが、青っぽいお茶のような物を持って来た。


「渋みが無くまろやかで、発酵したような、枯れたような不思議な味がする」


「そうでしょう、1700年寝かせたビンテージ物ですから」

その言葉に思わず吹きそうになるが、ぐっと耐えて一番聞きたかった疑問を口にする。


「ええっと、ハッタさん質問しても良いですか? さっき総旗艦フラデツ・クラーロヴェーって言っていたけど、ここは船の中なの?」


「はい、その通りです。それと、私の事はハッタとお呼び下さい」

ハッタがそう答えるともう一つ大きなスクリーンが現れ、深く濃いメタリックブルーに彩られた宇宙船が表示された。


 何で宇宙船だって断言出来るかっていうと、スクリューとバルバスバウが無いから。バルバスバウって、喫水線下の船首に着いてる丸いやつ。引き波とかを打ち消して、燃費が上がるんだよね。


「色々と尋ねしたい事も有りましょうが、先ずは当艦に纏わる物語を語らせて貰いますので、ご静聴をお願い致します」

そう前置きをすると彼女は、静々と語り始めた。



「遠い昔、遥か彼方、この銀河の中央で……」

その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中にあの有名な映画、『スターウォーズ』のメインテーマ曲がジャーン!! と流れた。

 ヤバイ、このままだと怖い人がやって来る。


「ちょっと待ったー!! その話、大丈夫か? パクってないか? 俺、怒られるのやなんだけど!」


「ご静聴をお願いした筈なのですが、我慢の足りないご主人様ですね。でも大丈夫ですよ。パクッていても、細部を変更しているのでオリジナルです。

 強いて名付けるなら、他者の物をパクってオリジナルだと言い張るのでパクリジナルです」


「いや、それ言い訳にもなってないから! それに、さっきから思っていたんだけど何故ご主人様って呼ぶの?」


「ご懸念の点は、了承いたしました。、留意しつつ説明させていただきます。

 また、ご疑念の点につきましては、最後まで説明をお聞き下さればご理解いただけると思いますので、重ねてご静聴をお願い致します」

ここまで言われては素直に聞くしかないが、少しばかり心配になった俺は心の中で『お願いしますよハッタさん』と祈りながら続きを聞いた。




「この星の住人であらされる皆様が、天の川銀河と呼ばれている銀河の中央部、太陽系から約2万5800光年彼方から我々は参りました。

 銀河の中央部には、巨大な質量を持つブラックホールが存在しますが、その周囲を囲むように文明の発達した星間国家が幾つも成立しています。


 その星間国家の一つであるスウィン社会人民全体共和国が、嘗て支配していた星間国家を再支配しようと侵略を開始しました。

 他の星間国家はスウィン社会人民全体共和国を非難しましたが、効果は無く戦火が広がる一方でした。


 侵略を受けている星間国家と友好関係にある星間国家が参戦すると、スウィン社会人民全体共和国側にも大ンジェグ国が軍事同盟を結び参戦しました。

 更には、スウィン社会人民全体共和国の再支配に入った星間国家に傀儡政権を作り参戦させ、ついには銀河中央部全域を巻き込んだ汎銀河大戦と呼ばれる戦争になってしまいました。


 そんな戦乱の中、強国の一つであったシュクヴォル王国のオティーリエ・アンドルリーク王女は、多くの星間国家の利害関係の調整や融和などに奔走し、反スウィン社会人民全体共和国を目的とした星系連合軍を作り上げました。


 星系連合軍の総司令官となられたオティーリエ王女は、艦隊を集結してスウィン社会人民全体共和国側に決戦を挑み勝利しました。いえ、ほぼ勝利を確定させました。

 

 敗走している敵艦隊を追撃中に、敵ステルス艦の捨て身の奇襲攻撃を受け、主動力機関部が損傷し制御不能になり当艦は暴走しました。

 その時、敵艦が放っていた亜空間機雷が艦首前方にて爆破。ほぼ制御不能となった当艦は、オティーリエ王女の指示にて補助動力による進路補正で亜空間機雷が開いた亜空間に突入しました。



 我々の艦船には星間航行を行う為に、亜空間航行という位相空間座標のズレを利用して光速を超える速度にて移動する技術があります。

 亜空間機雷は、その技術を利用して、短時間だけ亜空間亀裂を作り出し、亜空間亀裂の消滅時に触れている物を空間ごと切断し消滅させる兵器です。


 通常の亜空間航行では、出入りする場所を宙間観測ブイからの精密な情報を元に座標計算をして航行しますので、何の下準備も無く亜空間に突入するのは自殺行為と言われても仕方の無い行為です。

 しかしオティーリエ王女の判断が、あともう少し遅ければ当艦は亜空間機雷により、右舷側の大部分を消失していた事でしょう。



 亜空間に突入した当艦には、二つほどしか選択肢がありませんでした。



 一、主動力機関部の修理を行う。しかし、敵艦からの攻撃で外部装甲が破損している為に艦外活動を必要とします。亜空間での大がかりな船外活動は出来ない為に実質不可能な選択でした。


 二、主動力機関部を強制停止させる。こちらの選択肢には、大きなデメリットが二つありました。

 先ずは、強制停止によってオーバーフーローしたエネルギーが、他の機器を損傷してしまう危険がある事。そして、強制停止により亜空間航行装置の保護機能が作動し、亜空間から強制排出される事です。



 亜空間から強制排出座標が安全な空間であれば良いのですが、恒星の側であったり、ガス状星雲や小惑星の中であったりするとその時点で全員死亡となる危険性を含んでいました。何せ、何処へ強制排出されるか、誰にも判りませんから。


そのような危険性がある中で、僅かにでも生存の確率を高める為にオティーリエ王女は賭けに出たのです。即座に主動力機関部を強制停止させ、通常空間に帰還しました。



 そして当艦は、この太陽系のアステロイドベルト近辺の座標に出現する事が出来ました。オティーリエ王女は賭けに勝ったのです。

 しかし、絶体絶命の危機を乗り越えたオティーリエ王女と当艦乗員に更なる危機が押し寄せてきました。

 余剰エネルギーのオーバーフローによる当艦の損傷、そして敵の攻撃で食糧庫が損傷し食糧不足が懸念される事でした」


そこまで語るとハッタは、一呼吸置いた。



 これまでの説明は、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーが映っていたスクリーンにハッタの説明に沿った映像が流れていたので、とても理解しやすかった。

 スウィン社会人民全体共和国に突然侵略を受け逃げ惑う人々、侵略に対抗し戦う人々と彼等に協力する人々、支配下におかれ、圧政に苦しめられながら戦場へ向かわされている人々。

 更にハッタに似た容姿の女性が、議会のような場所で多くの人達の前で演説している様子。演説を聞いて立ち上がる人々。

 そして、広大な宇宙空間で対峙する大艦隊。繰り広げられる死闘。勝利を確信し、歓喜に溢れる人々。そこに、捨て身で襲い掛かった小艦隊。危機的状況の中、希望を捨てない人々。


 それらに映る全ての人々が、俺には判らない言語で語り合っていたが、ハッタの説明もあり何故か判るような気がしていた。

 

 しかしながら映像を見ていて、ある疑問が浮かんだ。見慣れない人々、いや空想の中で……、ファンタジーな物語の中で、見た事のある人ぽっい方々が何人もいたからだ。なんじゃ、これ?


 そんなこんなで俺は、銀河の戦乱とファンタジーが入り乱れた現実を知った。

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