多分……、宇宙もの……。

わだつみ

第1話 チャンスに挑む者……、代償は栄一さん三人

西暦2020年代もあと数年で終わる。但し栄光や喜びとは無縁で。


 西暦2019年に中国由来のコロナウィールスは、瞬く間に全世界を席巻し終結までに1000万人近い死者と数年を要した。

 だが中国は、コロナウィールスが自国で発生したとは決して認めなかった。SARS、新型インフネエンザなどの拡散経過とコロナウィールス拡散経過を比較研究の結果、最初の流行地である武漢から発生したとの客観的な結果を示されても認めなかった。


 中国社会は、元来メンツを重んじる。その為かコロナウィールス関する他国の指摘は、中国共産党にとっては決して認められる内容でなく、ただ反発を強めていくだけだった。

 そして他国への不満を募らせた中国は、領土拡大政策を更に強力に推進していくのだった。


 その結果、中国を中心とした西太平洋極東アジア地域は、緊迫が日に日に増していき、第三次世界大戦が起きるとしたら原因は中国との認識が世界中に広まっていた。


 その時日本は、コロナ禍後の増税と世界不況の煽りを受け戦後最大の経済不況に陥り、完全失業率は過去最大の7.9%を記録し国内は暗澹としていた。


 国会では、経済再建と国防を進めようとする政府与党に対して、経済再建を優先し国防費を削るべきとの主張をする野党が対立するだけで、有効的な解決策を見出す事が出来なかった。

 また野党を支持する一部のマスコミが、些細な言葉尻を捉えて問題化する為に政局は混迷を深めた。

 しかし、政権与党が政治汚職を繰り返しても現実的な政策を示さない野党には国民の支持が集まることなく、『批判ばかりで何をやっとう(野党)』と揶揄されるばかりで国民は政治に希望を失っていた。




 そんな暗い世相の中、俺は東京の片隅で……、


「だからさー。あいつらには、リストラする側の苦しみなんてわかんねぇーだよ」

 地元の高校時代からの友人に、小さな居酒屋で愚痴を延々と聞かされていたりする。


 目の前で、エンドレスに愚痴を言っているコイツとは高校時代妙に気が合い、よく一緒に馬鹿をやった仲だから多少は我慢と思っていたのだか、そろそろウゼェー。


 まぁまぁの大きさの会社に勤めて、総務と人事を兼ねた部署にいるらしいが、昨今の不況で人員削減を迫られ、その業務で汲々としているらしい。

 因みに、コイツの言っている『あいつら』とは上司の事だ。けっしてリストラされて、恨み言を口にしながら去って行った人達の事ではない。

 リストラされた人達の事を悪しざまに罵るようなヤツとは、20年以上も友人をやってらんねぇからね。


 今日も上司に無茶なノルマを指示され、やさぐれて飲みの連絡をしてきた。コイツの業務の厳しさは、会う都度バーコード化していく頭頂部が如実に物語っていたりする。

 因みに俺は、フサフサだ。だって、未だ30後半だもの。


「おい、俺の歌を聞けー!」


「いや、ここカラオケじやないから、それに聞いていたのは愚痴だ」


「おい、突っ込みが違うぞ。昔のアニメネタなんだから、もっとキレの良い返しをしろよ」


「しらんがな。大体、俺そのアニメ見てないから」


「くっ、ジェネレーションギャップが」


「いや、同級生だから」


 エンドレスモードに入っていたので聞き流していたが、吐き出すだけ吐き出してスッキリしたようだ。そうそうストレスは、溜め込むと抜け毛にターボが掛るぞ。


「それより残業出来なくて給料減ったから、奥さんに小遣いも減らされたんだろ。飲み歩いてて平気なのか?」

 コイツは、金払いが良いので心配はしていない。ただ、コイツをからかう為に言ってみました。


「くっ、痛いトコロを突きやがる。どうせ、こちとら女房子供アリ・家ローンアリの働きアリだよ。お前と違ってな」

 むっ、やり返してきたな。


 ああ、そうさ俺は、独身、恋人ナシ、借金ナシ、借家住まいの自由気ままなフリーカメラマンこと東郷拓留とうごうたくるだ。ヨロシクね。


「でも、安心してください、入ってますよー」

 昔どこかで聞いたような事を言いながら財布を広げて見せつけてくる。

 財布の中は、頭頂部と違って密度が濃かった。栄一さんが、団体で住み着いていらしゃる。俺の財布に引っ越して来ないかなぁー。



「おお、お大尽様だねぇ~。どうした犯罪でも犯したか?」


「馬鹿言え、リスクが高くて犯罪なんぞやってられるか。当てたんだよロト7で三等75万を! もっとも半分女房に盗られたが」


「ゴチになりやぁーすっ!」


「やなこった」

ノリで押せば、今日の飲み代出すかと思ったんだが駄目だったよ。



 そんなノリで、馬鹿話をしながら楽しく酒を飲んでいると21時を少し回っていた。埼玉の少々遠くにお家様を買ったコイツは、そろそろ帰宅時間となりましたので居酒屋を出る。


 なんだか二人とも足元がやや覚束ないような気がするが、楽しかったので気にしないさ。

 最寄の駅までの道すがら、コイツに影響された訳ではないが、建物の陰にひっそりと営業している宝くじ売り場を目聡く発見した。


「こんな時間なのに、未だ営業してるんだ。しかも、こんな目立たない場所で」


「ああ、不況で宝くじの売り上げが落ちたからな。営業時間を22時まで延長したんだよ。それと、こういう場所が穴場なんだぜ」


流石良く知ってんなー。でも……

「いや、ロトは自分で番号選ぶんだから売り場の場所は関係ねぇ~ハズ」


「いやいや気分の問題よ。ヨシ、また一丁当てたるどー」


「二匹目の泥鰌は、いねぇーもんだぜ」

 財布を取り出しているのを見て、心を込めて足を引っ張る発言をしてみました。

 いや、足を引っ張るのは冗談だけど、そうそう何度も当らないでしょ。金をドブに捨てちゃうよ。



「ふふ、知ってっか。この世には二種類の人間がいる。チャンスを掴む者と、チャンスを逃がす者。俺は、もう一度チャンスを掴む!」

 酔っ払いが何か高らかに宣言してますが、ロト買うだけでしょ。近所迷惑だからさっさと買えよ。って思ってたら、何やら続きがあるようで、ビシッと俺を指差した。


「お前は、チャンスに挑もうとしないけどね(笑)」

ムカ! 今の言い種は、ちょっと、いや、かなりムカついた。宜しい、では戦争だ。独身貴族の財力を見せて進ぜよう。


 ってなノリで、酔っ払いのおっさん二人がロト7に大枚をはたいて購入しましたとさ。


 そして翌朝、俺は空になった財布とロト7の購入券を見て激しく後悔していた。

 酔っぱらった勢いで、なんとロト7に3万円、栄一さんを三人もつぎ込んでいたからだった。


 そんなこんなで俺が手にした、このロト7の購入券が俺の生活を、いや日本を世界を、揺るがす切っ掛けになるとはこの時は思わなかった。

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