第2話 チャンスを掴んだ者

「本当に東郷さん、今までありがとうございました。先程も申しましたが、当誌は再来月号の発刊を最後に廃刊と決定いたしました。これからの東郷さんの活躍をお祈りいたします」


「はぁ、ありがとうございます。まぁ、こちらはフリーランスなので、どうとでもなりますが編集部の皆さんは社内に残れそうなのですか?」


「……微妙です」


「そうですか、皆さんの今後に幸多かれとお祈りいたします」



 昨今の出版不況で経営の苦しかった出版社に、コロナ不況がトドメとなり出版業界は絶体絶命的危機を迎え、断崖絶壁の淵で悲鳴を大絶叫中だったりする。


 今も、10年以上仕事をしていた結構有名な女性ファッション誌の編集から廃刊のお知らせがあった。これで今年に入って三件目である。


 フリーランスだから大丈夫ですよって、見栄を張ってみたが実のところ大ピンチだ。未だ、レギュラーの仕事は有るが、このままでは見通しは暗い。いつ、全ての仕事を失うか判らない。


 しかし、幾ら考えても妙案は浮かばない。現在の国家経済の状況を、個人でなんとか出来ようもない。俺に出来るのは、精々良い写真を撮る程度。何せ程々に売れてるファッションカメラマンですから。



 以前ネット関係の仕事もしたことあるが、ギャラが無茶苦茶安くて舐めてるのってカンジだったので、今はやっていない。

 背に腹は代えられないので窮すれば文句言わずに仕事するかもしれないが、ネット関係の仕事をしているカメラマン仲間の憔悴具合を見ると、やる気なんてアンドロメダ星雲まで飛んで行ってしまいそうだ。



 仕方ない幾ら考えても何も思いつかない、下手な考え休むに似たり状態だ。ここは気分転換に歌舞伎町の新宿女学園にでも行って、身も心もスッキリスッキリしてこうかな。


「Oh.No~」


 現実逃避をする為に、エッチィーお店で猥褻ギリギリ攻めをしようと思ったら、財布の中に栄一さんが不在です。そうロト7に変身してしまったからです。


「栄一さんカンバッーク!!」


「ドン!!」

部屋の中心で銭を叫んだら、お隣から壁ドンされちゃいました。


 ああ、こんな事ならロト7なんて買わずに、あのままエッチィーお店に突撃するんだったよ。後悔後に立たず、股間はいつも起立。



 いかんいかん、くだらねぇ親父ギャグを口走るようでは末期症状に近い。何か気分転換でもしなければ、やはりここは釣りにでも行きますか。

 今の季節なら房総半島に行けばチヌが釣れるはず。ならば明日にでも、ゆこう、ゆこう。そういうことになった。



 しかーし、その前に目の前に在る、ある意味汚点でもある後悔の塊の処分をしていこう。あの日から既に十日が過ぎている。

 その間、無駄遣いをした自らを諌める為に敢えて極貧生活をしてきた。それを今日を以って終わりにしよう。俺は、二度と過ちを繰り返さなーい!

などと大袈裟に言ってみたが、ただロト7の結果を確認するだけだ。もう結果が出ているはずだからね。



 ええっと、スマホでHPに進んで、開催回を確認してと。ああ、あったあったこれだ。当選数字はと……。もう一度見直す……。更にもう一度見直す……。


「当たっとるがな、一等……。しかもボーナス数字まで……」

 そう、一等が当たっておりました。しかも、栄一さんを三人もつぎ込んで各口数10口買っていたので、一等×10、二等×10だ。

 いや違う。7つの当選数字を軸にボーナス数字と入れ替えながら、用紙一枚分固め買いをしたから一等×10、二等×40だ。

 

 当選合計金額が、お幾ら万円になる……、いやいやお幾ら億円になるか、もう俺には良く判りません。ただキャリーオーバーが過去最高額の約49億円だったから、少なくても40億円超えか……。


  えーっと、エッチィーお店に何日居続けが出来るかな。いやいや江戸時代の吉原じゃないんだから、居続けをやったら嫌がらせだ。エッチィーお店に何日通い続けられるかだな!


 って何を考えているんだ俺。冷静になれ俺。エッチィーお店なら幾らでも行ける。それよりも、これで俺の人生片付いたんじゃねぇ。

 


 今後、いつ仕事が無くなるか心配しながら暮らすより、都落ちして田舎でスローライフを気取るのも良いんじゃねぇ。そうだ、そうしよう。地元に帰ろう。俺が育った瀬戸内の小さな街に。


 小さな島を買うってのも良いな。以前は住人がいたが、今は誰も暮らしていない島が結構あるって、地元のツレが言ってたしな。

 釣り好きが高じて一級船舶免許も持っているし、島と船を買って釣り三昧だ!


そんなこんなで俺は、希望に満ち溢れて就いたカメラマンという仕事を辞め、そして約20年暮らした東京から離れる決心をした。

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