第6話 めぐりあい地下

「良し、これで、この付近の伐採は完了だな」


 一週間ほど前に草刈りを完了した俺は、次に手入れの全くされていない森に入り、チェーンソーを振り回しながら木々を切り倒していた。


 以前の島民が植えたのか津久留島には、桃、栗、柿、柑橘、桜などの木々があちらこちらに生えているのを草刈りの最中に見付けた。

 しかし手入れ不足で、他の木の陰に入り日当たりが悪かったり、根元に雑草生えまくっていたりとなかなかの惨状だった。


 折角なのだから島産の果物が食べたいと、草刈りに伐採、肥料を与えたりと素人が思いつく事は一通りやった。

 もう直ぐ、季節は梅雨に入るから栗、柿、柑橘など秋から冬にかけての果物は美味しくいただけるかもしれない。

 桃の実がなってはいるが、小振りで色合いも何だか灰色がかっていて良くないので期待薄である。桃や梅は、来年だな。


 実のなる木々の手入れをしていたら森の荒れ具合も気になったので、日当たりを良くすべく枯れた木や密集している場所の伐採をしていた。

 最初は、草刈り機の重さに泣き言を言っていたが、今ではコツを覚え取り回しも楽になった。ジェイソンのごとく、チェーンソーを振り回す事だってお茶の子さいさいだ。



 開発を進めた関西の不動産会社は、ストップした開発をいずれまた再開するつもりだったのだろう。港側に在る倉庫の中には、草刈り機にチェーンソー、建築資材や重機などまでがそのまま放置されていた。

 30年近く放置されていたこれらなのだが、燃料を入れ替えてバッテリーを充電するとなんと動きよった。流石は日本製、頑丈に出来てるね。もっとも、後でバッテリーは交換したが。



 これら、やや年代物の道具を駆使し、島の手入れは急速に進んでいった。特に重機は大活躍! 伐採した木々や草の運搬、土が剥き出しでデコボコしている場所を均したりと大いに手間を省いてくれた。

 いや実際に、これらが無かったら手入れなんてやんなかったね。想像しただけで、大変過ぎるのが判るから。

 しかし、頑張って色々やっているうちに段々楽しくなちゃったのは否定しない。伐採した木々も倉庫で乾燥させ、その内暖炉で使おうと考えている。



 島の手入れに厭きたら海に行って釣りをする。港の堤防でサビキの仕掛けを落とせば、寄せ餌が無くとも鰯・鯵・鯖が入れ食いだ。

 磯に行けば、鯛やヒラマサのような大物も釣れる。釣った魚は自分で捌いて刺身にして、地元の酒蔵に直接行って買った旨い日本酒を飲む。

 

 空き地を耕して家庭菜園を作り、野菜やハーブを作る。雨水タンクも設置したので、水の心配はいらないし肥料関係は港の倉庫に山積みさ。

 

 一週間に一度ぐらいのペースで、県庁所在地にあるコストコで肉を中心に纏め買い。

 ついでに人肌恋しいので、『秘蜜ひみつの女学院』のジュリちゃんに明日への活力を貰う。なんとも遣り甲斐に満ち、夢が広がるスローライフ様々だ。



 そんな日々を過ごしていたのだが、館近くの森の中を歩いていて奇妙なものを見つけた。上り坂になっている斜面に、やたらと藪が密集していたのではらったら洞窟があった。

 しかもこの洞窟明らかに人の手が入っている。洞窟の内部が綺麗に半円を描いて掘られていて、まるでトンネルのようだ。


 戦時中の防空壕かなと思いもしたが、洞窟の壁面を覆っている材質がコンクリートでないので多分違うだろう。

 子供の頃に裏山で見た防空壕は、コンクリートで出来ていて、入り口は人一人が通れるぐらいに小さかった。

 しかし目の前にある洞窟は、入り口付近の壁面に触れた感じではタイルか金属のような滑らかな感触だ。洞窟の奥深くは光が届かず確認が出来ないが、多分同じ作りとなっているだろう。



 今日の森歩き装備は、ティンバーランドのブーツ、不動産会社の社長から貰った薄緑色のテロテロの布地に背中にカタカナで『ヤンマー』と書いてあるイカした作業ツナギ、右手に剣鉈のNEO山賊ファッションだ。いや、そんなファッションないけどね。

 

 西川口狭にしかわぐちせまし探検隊の隊員だった俺の本能が、穴と見れば突っ込めと言っている。

 しかし、ハンドライトも持って来ていないのに洞窟に突入するのは無謀だろと考え直し、準備の為に館にもどる事にした。


 それで数日かけて準備したのが、倉庫に有った工事用ヘルメット、ハンドライト、ロープ、大型の扇風機と電工ドラムコード。水・カロリーメイト・爆竹などなど役に立ちそうな物は一通りバックパックに入れたので、剣鉈を装備して探検へGO!




 洞窟の入り口に大型扇風機を置き、電工ドラムコードに繋いだら最大回転数でスイッチオン。火をつけた爆竹を『おりぁー』とばかりに投げ込むと、派手に響き渡る破裂音。

 洞窟の壁面は滑らかなので、蝙蝠は足を引っ掛ける場所が無いのか姿は見えない。

 床にも鳥の糞らしきものが無いので、洞窟の中に蝙蝠は居ないと思うのだが、万が一にも何かが居て剣鉈一本でガチバトルなんてしたくないから、念の為に爆竹を投げ込んでみました。



 次々と投げ込まれる爆竹の音が響き渡るが、洞窟から出てくるのは煙ばかり。

 どうやら中に生き物はいないようだ。蛇ぐらいは居るかなと、思っていたんだけどね。もう少し扇風機の風で、空気が循環し煙が出たら突入だ!



 単独行動なので、安全の為に事前に色々な事態を想定していた。それこそインディー博士のような事態に陥る事も想定していたのだが、まったくの杞憂だったよ。

 洞窟の中は暗いものの、床は滑らかで段差もなく歩きやすく、横穴も無く一本道なので迷う事も無い。ただ、埃と爆竹のカスが舞うトンネルを歩いていくだけ。


 

 少し歩くとドーム状の広間のような場所に出た。ここまで歩きながら考えていたのだが、誰が何の為にこの洞窟を作ったのかさっぱり判らない。

 壁面がゴツゴツしていて、壁画でも描いてあれば古代人の遺跡かなとか思ったりもするが、何も描がれていない滑らかな壁面が続いてきた。勿論、この広間もハンドライトを当てて確認したが何もない。



 ただ歩いてきたトンネルの正面にあたる場所の壁が、なんだか変だ。いや、絶対に変だ。

 壁に縦線が三本、横線が二本、何かを形取るかのように組み合わさっている。これらは、現代人なら誰でも直ぐに想像出来る形を描いている。そう、それはエレベーターの入り口だ。

 

 但し壁に線で描かれているだけで、おうとつが無いので壁にエレベーターの入り口の絵を描いたようにも見える。

 しかし、そうすると別の疑問が浮かぶ。このタイルか金属か判らない素材の壁に、どうやってエレベーターの入り口の絵を描くのか。


「うむ、判らん」


 考えても判らないのなら、触れて確認するしかないよなと壁をペタペタと触って確かめるが、判ったのは埃が積もっていることだけ。

 それでも埃を払いながら調べていたら、エレベーターの入り口のようなモノの隣に何やら手の形の窪みを発見した。俺の身長は175cmだが、おれぐらいの身長の者が丁度手を当てやすい高さに窪みはあった。



 これまで散々壁を触ってきたので警戒心が失せていたんだろうな、迷う事無く窪みに右手を当てた。

 しかし、何も起きない。当たり前かと思いてを離そうとしたその瞬間、窪みから手錠のような金属が飛び出し手を拘束された。


「えっ?」

まさに、えっ? である。何が起こったのか理解出来ない。と思っていたら、掌にチクリとした痛み、続いて泡が噴出して手を包む。


「いた。えっ、泡! へっ、何?」

俺は、全く展開が理解出来ていなかった。


 しかし、直ぐに何が起きたのか理解させる事態が起きた。右手を拘束していた手錠のような物が、拘束を解き窪みに戻り右手が自由になると同時に壁に描がれていたエレベーターの扉が開いたからだ。

 滑らかな壁面に罅が入り、そこから光が漏れ壁面が剥がれ落ちていく。光が収まった後に現れたのは中央に縦線の入った金属の壁、そして開く金属の扉。まさにエレベーターだ。

 開いた扉の中は広い箱型で、ホームセンターなどによくある荷物運搬用のエレベーターのようにも見えた。


「マジでエレベーターだった!!」

俺は、もうテンションアゲアゲ、大興奮! なんか良く判らんが、何かを発見した。ただ、その事実に興奮していた。


 もうこうなるとエレベーターに乗り込まない理由など無い。迷う事無く乗り込み、地下階層行きを示すであろう下向きの三角のボタンを連打した。


 音もなく滑らかに動くエレベーターに乗ること暫し、漸く開いた扉の向こうは倉庫のような場所。天井全体から照明となっているので明るさは十分だが、窓も無い殺風景な変な部屋。

 床面が行先を示す道の様に光っているので視線を向けると、大きな扉へ続いている。


 今更迷っても仕方ない。いや、ハイテンションな俺は迷う事すらなく、光に導かれて歩み始める。

 大きな扉を抜け、幅が4メートルぐらいありそうな広い通路を抜け、漸くたどり着いた場所はドーム型の天井を持つ広い部屋だった。


 

 俺以外、誰一人いない部屋。物音一つ立てる者の居ない部屋の中。ただ、俺は、何が起きるのだろうかと期待に胸を膨らませていた。


「お帰りなさい。ご主人様」

 突然、俺の視界の前方に大きなスクリーンらしき物が現れ、メイド服を着た日本人と北欧系のハーフ美人のような女性の映像が話しかけてきた。


「えっ、メイド喫茶?」


「冥土では御座いません。ここは、シュクヴォル王国軍所属・星系連合軍総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの指令室です。私は、当艦の光量子型制御コンピューターを管理する人工知能、ハッタと申します。どうぞ、お見知りおきを」


 もう、この時点で色々と突っ込みどころ満載だったのだが、驚きと興奮でテンションマックス状態の俺には気にならなかった。


 そんなこんなで俺は、ついにAIハッタと総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに地下で巡り会ってしまうのだった。

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