第8話 総旗艦フラデツ・クラーロヴェー

 俺の疑問を余所にハッタの説明が、再び始まる。


「ここで、少々一般的に国家が運用する艦船に関する説明をさせていただきます。その方が、これからの説明がより判りやすいとおもいますので。

 多くの星間国家では、駆逐艦は400メートル前後の大きさです。巡洋艦は600メートル前後、戦艦は800メートル前後となります。

 また巡洋艦よりも強力な攻撃力を持ち、戦艦よりも船速の早い巡洋戦艦は700メートル前後などというのもあります。


 勿論、これら以外の艦種の艦船も多く存在します。例えば、星域の犯罪取り締まりを担当する警備艦なら200メートルから400メートル前後ですし、重要人物用の護衛艦なら300メートルから500メートル前後です。

 惑星開発を行う工作艦に至っては、多種多様な艦が存在し100メートルから500メートル前後です。

 これらは、あくまでも目安でしかありませんが、どの星間国家でも運用効率を考慮しますと同じようなサイズの艦船を用いています。


 それらに比べて当艦は全長1360メートルもあり、その威風堂々とした姿は友軍には勇気と活力を、敵には恐怖を与えてきた。まさに星系連合総旗艦に相応しい戦艦です。


 当艦が巨艦な理由は、強力無比な攻撃力を誇る武装と堅固な防御を誇るだけでなく、工作艦としての機能を持たせているからです。

 それは当艦がシュクヴォル王国・アンドルリーク王家の座上艦として設計されており、万が一破損した状態で孤立したとしても修復を行い、帰還確率を上げる為に装備されたものです。


 工作艦としても十分な能力を持ち、鉱石から金属を取り出す事から各種部品の削りだし、組み立てなども出来る設備が整っていました。

流石に、光量子回路などの精密部品までは作成できませんでしたが、大量のパーツをストックしておくことで必要な機器を作り出すことが出来ました。

 そして工作艦としての機能が、当艦とオティーリエ王女、それに乗員の命を救いました。



 補助動力機関を稼働させ、ゆっくりとアステロイドベルトへ到着した当艦は、小惑星に着陸し修復に必要な資源の確保をおこない、搭載してあった二隻の内火艇に周辺宙域の捜査に向かわせました。


 小惑星到着までに艦内被害検査を行なった結果、主動力機関部が大破、オーバーフローにより通信設備の核心部分が超高熱に晒され蒸発。通信設備の消滅は、本国であるドヴール・クラーロヴェー星との連絡手段が消滅したという事です。


 我々が使用する通信技術は量子テレポーテーション現象を利用していますので、距離に関係なくリアルタイム通信が可能です。通信出来ていれば、救助要請が出来ていたことでしょう。


 居住可能な惑星が在るとの報告が、帰還した内火艇により齎されました。それが、ここ地球です。その頃の地球には、人間が生息し、原始的ですが文明も起き、農耕が始まり、国家として成立している地域もありました。


 このまま小惑星帯に留まっていては、食糧が尽きます。かと言って、二隻の内火艇だけでは、地球に降下し食糧を手に入れて運ぶにしても量も少なく、また時間がかかり過ぎ、やはり食糧問題を解決できません。


 そしてオティーリエ王女は、必要な資材を詰めるだけ詰め込んだ後に「地球テラへ」と宣言し行動に移しました。



 その頃の乗員達の意見は、大まかに三つありました。


一、当艦で地球に降下し、必要最低限の土地を確保し修復をし、あくまでも帰還を目指す。


二、当艦にて地球を支配し、帰還を目指し修復するが、無理な場合は支配者となる。


三、当艦で降下後、当艦は人目につかぬように隠蔽し修復はアンドロイドによって行う。乗員は地域国家の一員となり、残りの人生を過ごす。

 


 この頃には、補助動力では出力不足で主動力機関部や通信設備の修復には、数百年単位の時間がかかると判明していました。


 オティーリエ王女は、第三の道、現地人と同化して生きていく事を決めていたのですが、帰還を諦めきれぬ者、星々を駆ける者達から見れば原始的な文明しか持たぬ者達との共存を拒否する者達がいた為、地球に到達するまでは多くを語りませんでした。



 地球に到達したオティーリエ王女は、乗員達に語りかけました。


『当艦は、修復に数百年の時が必要だ。

 しかしながら、我々にはそこまでの時が無い。残念ながら母星ドヴール・クラーロヴェーへの帰還は、不可能と判断した。


 しかしながら、この星に於いて文明を築きつつある人類を我らの武力に於いて支配するのは、我らが宿敵スウィン社会人民全体共和国と同じ恥ずべき行為である。

 我らは、自由と尊厳と愛する者達の為に戦った。その我らが、星系連合の名誉を傷つける行為など出来ようもない。


 最低限の土地を確保するという意見もあるが、生活に必要なインフラを作り出す余力は無い。当艦を用いれば出来るであろうが、その場合は修復が遅れる。若しくは、修復が不可能になる事態もあるかもしれない。


 私は、我々をこの星まで導いた当艦を、このまま朽ち果てさせるのには我慢がならない。当艦を可能な限り修復し、いずれ我らの同朋がこの星に辿り着いた時、同朋と共に当艦が帰還出来るようにしたい。そして未来の同朋達にも、我々の行動を誇れる人間でいたい。


 その為にも、全乗員には苦難の決断となるが、この星の人々と共に生きる決断を望むものである』



 オティーリエ王女の気持ちを偽らざる言葉は、乗員の心に届き思いを一つにしました。



 そして、当艦の外部装甲の修理を終え、オティーリエ王女や乗員の容姿が比較的に似ているアジア地域。その中でも、当時すでに他国の文化を積極的に受け入れていた日本を目指して地球に降下しました。




 簡単に説明致しましたが、以上の事が、今から約1700年前に当艦・総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに起きた出来事です」


ハッタは、地球に辿り着くまでの物語を少し切なそうに、寂しそうに、そして淡々と語ってくれた。


 

 そんなこんなで俺は、銀河の中央部、約2万5800光年彼方から、約1700年前に到来した総旗艦フラデツ・クラーロヴェーを知った。

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