ファンタジーの中にある確実なリアル

読みやすい文体で淡々と紡がれる話には過不足なくしっかりとした描写が入る。目に映る光景、行動、そして心情。そこには様々な人間ドラマがあり後悔と葛藤がある。その(読者の何だろう?どう思っているのだろう?)をキチンと描き、没入感を提示してくれている。ここまで読者を思って丁寧に作られている作品は少ないと思う。

人の死を扱う描写があるが苦しくなく、どこか開放的にも感じる。死にゆく当人の苦労や苦悩を知っていてもなお、心から「お疲れ様、どうか安らかに」と思えてしまうのは、作者の登場人物に対する思い入れがしっかりと頭に定着しているからではないだろうか。それは登場人物のセリフ一語一語をとっても言える。この人の、このセリフ。ピッタリとあった癖のあるしゃべり口は説明以上に体を表している。

どこまでも現実を追求した現代ファンタジー小説。寒々とした今宵には特におススメです。心の温かな朝を迎えるため、どうぞお手に取って読んでみてください。

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