奪い合えば足りない。分け合えば、…余った事に気付けなかった

 ひとこと紹介の言葉が、まず浮かぶ読後感でした。

 他人に自分の幸せを分けられるという能力はゼロサムゲームを思わされ、事実、同等の費用・対価を必要とする事が明言されています。

 ストーリー上に現れてくる人の中には、このゼロサムゲームを勘違いし、必要以上の対価を求めたり、また必要な対価すらも求めなかったりした過去の出来事も語られます。

 さて、メインとなる「不幸を背負って、笑顔で逝った父親」に関して、私は上記の言葉を思い浮かべたのです。

 幸せの定義については、人それぞれありますが、私が読んで感じ取ったのは、決して、この父親は不幸ではなかったという事です。自分の幸せを、隣人や息子や孫に分けてしまい、それ故にツイていない、他人から侮られる人生だった事は間違いないけれど、また笑顔の溢れる生活、最期を迎えた訳でもないけれど、それでも幸せな物語なのだと、完読した今は思っています。

 愛とは、友情とは…と考えてしまうと哲学的になりすぎるのですが、イメージとしして「共に笑える事」と思う人は多いはずです。

 しかし、この物語を読んで、私が思う愛、友情とは「共に泣ける事」なのだ、という事です。

 自分の幸せを切り売りする能力で、この父親が分けていった幸せは、多分、この場に余っていました。それを皆が拾い集めていく物語なのだと感じます。

 過去の人たちは、多かれ少なかれ奪い合いました。結果、不幸ばかりが残された。

 しかし最後の主人公は、分けました。その結果は、笑顔が溢れる幸せな世界にはならなかったけど、皆の中に残る想いがあり、繋がっていく幸せがあった。

 きっと、皆が幸せな物語なのです。

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