第十二部 旅商人の隠れ里
旅商人の隠れ里
抽象作家は、旅商人の隠れ里を発見した。めったに人の通らない道にあり、地味で目立たないところにあった。旅商人の休憩所だ。旅商人はここで楽しくやっているらしい。旅商人はいろいろな場所を訪れて、いったい何を話し合っているのだろうか。旅商人たちが各地をまわって集めた良いものが集まっているのだろうか。
本当にこんな町があったとは。
「世界はたくさんの勢力の押し合いによってできている」
旅商人はそういった。抽象作家は、かつては、玉座に座る王がこの島を統べているのかと思っていたが、玉座を探索したところ、そんなことはなかった。抽象作家も、旅商人のいうように、たくさんの勢力の押し合いによって世界ができていると今は思う。一人の王がすべてを支配しているということはない。王は従者たちに仲間の一人と思われているだけだ。
この旅商人の隠れ里には、玉座があるのだろうか。抽象作家はまだ玉座の探索を行う。
裏問屋
謎の豪商の店があった。裏問屋だ。旅行者たちがたむろしている。抽象作家は様子をうかがう。
この隠れ里には玉座があるのか。ここが商人の都だというなら、ここの玉座の値段はいくらなんだろう。
「玉座を売ってくれ」
といってる客がいた。
「売り物じゃないんだ」
店員が答える。
「あまり高額な取引は、気を付けた方がいい」
旅行者が落ち着いて注意した。
旅行者の雑談
旅行者同士が相談していた。
「いったいどの勢力が勝ってるんだろうな」
「おれたちは勝っているのか」
やはり、そこが気になるよな。抽象作家は、いくつか、勝ってほしい玉座を思い浮かべる。
抽象作家は、十一個の玉座を発見したが、おそらく、それは多い方だろうなと思った。旅の前までは、抽象作家は玉座は一個しかないと思っていたのだから。
「人生は戦いだ」
抽象作家がいった。おれたちは、幸せになるために、どれだけ多くの敵と戦わなければならないんだ。
出店歩きが趣味の女
出店で安い買い物をくり返している女がいた。出店の店員にはとても喜ばれているようだ。
「偵察、偵察」
女はそういいながら買い歩いている。
「何を偵察しているの?」
抽象作家が聞くと、
「商売敵の偵察だ」
と女は答えた。すごく楽しそうだ。
赤熊毛皮の玉座
抽象作家は、裏問屋の人の出入りを追跡して、隠された玉座を発見した。この隠れ里と相性がよかったのだろう。こうも簡単に玉座が見つかるとは。
赤熊毛皮の玉座。どこに赤毛のクマがいるのだろう。その毛皮の玉座。かなり貴重な玉座だ。そこに座っているのは、座長だ。
座長
座長は、愉快に笑っていた。座長は旅が日常なので、里にはたまにしかいない。座長は旅商人なので、旅をする。仕事の拠点は別にある。隠れ里に仕事を持ち込まない。座長の年齢はいくつなのだろう。けっこう若い。
「今日は偶然、里にいたのですか」
と抽象作家が聞くと、
「いや、あなたに会うのを狙ってた。おれはそれくらいに狙う」
と座長が答えた。座長もすげえなあ、と抽象作家は思った。
「なぜ、おれに会おうとしたのだ」
「あなたの旅行計画を立てるためだ」
なぜこの人が抽象作家の旅行計画を立てるのか、と疑問に思った。
古代酒の味の解読
抽象作家は、この里に伝わる古代酒の味の解読を始めた。ちびちびと飲み、味の意味を探る。酒の味でことばを伝えるのは高度な技術だ。見極めなければならない。抽象作家は神経を研ぎ澄ませて、古代酒を飲んだ。
楽しい一日
抽象作家は、赤熊毛皮の玉座の目的が、楽しい一日の実現であることを知った。古代酒の味はそのことを伝えている。
それが目的だと知ると、うれしくなってくるな。
抽象作家の玉座探索記録
抽象作家は、隠された玉座を探して、君臨する王たちに会った。抽象作家は、十二個の玉座と十二人の王を発見した。これは抽象作家の玉座探索記録である。
ここまでの抽象作家の記録を読んで、楽しんでくれることを望む。
抽象玉座物語 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876
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