車窓から見えるは――
がたんごとんと。ゆっくりと駅構内から電車が発車していく。
それは僕が乗るべきはずの電車――ではなくて、いつも僕と彼女がこの町から学校へ向かう電車の一つだ。
一時間に数回しかこないうちの電車。
その一本が今発車していく。
ああ、もうあの電車に乗ることはないんだなと思いながら、僕は重い腰を上げた。
次に来る電車が僕が乗る電車。
いつも乗っている電車とは反対方向へと進む電車。
もうすぐ来る電車に僕は乗り。
そして、僕は、この田舎町とお別れする。
結局僕は、彼女に声をかけることはなかった。
あの雨の日から何日か経ったけども、結局は僕の想いは伝えられなかった。
だって、怖いじゃないか。
告白して振られたら。
今度会った時にどんな顔して会えばいいのか。
今まで一緒にいた彼女だからこそ、あの関係が壊れてしまうのだけは怖くて。
そう考えたら、僕は彼女と今の関係がもっともいいのではないかと思う。
現状維持。
僕の好きな幼馴染。
幼馴染は近くて遠いなんて聞いたけど。
……まさかまさかの自分に降りかかる幼馴染持論。
好きだと気づいたのはいつだろうか。
いや、意外と最近かもしれない。
いつの間にか好きになっていた彼女。
彼女のために何かしたとかなんてこともなく、ただただ傍にいられたらいいな、なんて思ってただけの僕の片想い。
「……じゃあね」
電車が構内へと入ってきた。
ゆっくりと停車して、僕が乗車するのを待っているみたいに目の前で扉が開く。
扉が開いて数分は、そのまま。
特に今は朝だから乗り遅れる人がいるかもしれないとちょっとだけ電車は停車して待ってくれる。
そんな電車に乗る前に、僕はこの見知った田舎町に向かってお別れの挨拶をした。
「何一人で去ろうとしてるのよ」
そんな僕の傍に、ここにいるはずのない彼女がいた。
「いや、ほら。ちょっとシチュエーション考えてみたらこういうのもありかなとか」
「田舎だからいくらでもやれそうだしね」
なんでここにいるの? なんて思いはしたものの、仲のいい友達なんだから、お別れのために必死に走ってまでして送りにきてくれたのかと思うと嬉しかった。
そんな彼女は、はぁはぁと息を切らしながらも、僕へと近づいてくる。
「今度いつ戻ってくるの?」
「さぁ?」
近づいてくる。
彼女が、どんどんと近づいてくる。
ちょっとだけ真剣な顔に、僕は怖気づいて少し後ずさる。
「まあ、今度会ったときは、かっこいい男になってて見せるさ」
「はぁ? なに言ってるの?」
ちょ、ちょっと。
近すぎやしませんかね?
「じゃあ、私が今度遊びにいってあげる」
「――え?」
「――、――」
僕の驚きは。
彼女が僕の耳元で告げた言葉ですっかり吹っ飛んだ。
「じゃ、またねっ!」
とんっと、体が優しく押されて、ふらつくように僕は数歩後退する。
たたらを踏むように後退した先は電車の中。
「お、おいっ」
驚き我に返った僕が彼女に触れようと伸ばした手は、左右からぷしゅーっと音をたてる扉に遮られた。
その扉の先で手を振る彼女は、動き出した電車のせいですぐに視界から消えて。
彼女が僕の耳元で告げた言葉と、再会を約束する言葉は、走り出した電車が、僕が住み続けた町からかなり離れて席に座ったあとにも残り続ける。
「あーあ……」
せめて。
僕から言いたかったな、なんて。
「……いやいや待てよ。これじゃあ僕の気持ち伝えられないじゃないか」
といってはみたものの、もうすでに電車は走り始めちゃってるし。
でもまあ、後でチャットで伝えればいいか。
自分だけ気持ちを伝えてそれではい終わりなんて。流石に僕も困ってしまう。
でも、ふと思うと。
彼女があの時僕の言葉が聞こえていたのなら。
それで聞こえないフリをしていただけだったのなら。
なんて思うと妙に恥ずかしくなった。
「あー……こういうとこは、相変わらず、なのかな」
自信がなくて言えなかったけども、それでも気持ちが分かってすっきりした。
次に会うのはいつなのか、いやいやすぐにでも会おうって僕から言わないと。自分から伝えられなかったんだから、今度は僕からきっと先に――
ぴろりんっ
チャットが告げる彼女からの連絡。
「……あのさぁ……僕にも少しはいいとこやらせてよ……」
頬杖ついて、ため息混じりに外を見る。
電車の車窓から見える空は。
どこまでも続く、青い空。
僕と彼女の、新しい関係の始まりは、まるでこの青い空のように澄み渡っていればいいな。
なんて。
そんな青い空に。
僕はこれからの想いを馳せる。
fin
いつもの二人の帰り道 ともはっと @tomohut
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