僕はいつだって臆病だ

「君はさ、僕のことどう思ってるわけ?」


 思わず呟いた言葉。

 呟いて、はっと隣に彼女がいることを思い出す。


 他愛ない会話。いつもの軽口と冗談交じりの口論。

 和やかな学校からの帰り道。


 そんな今日はどんより曇り。

 ぽつぽつ降り出した雨は、すぐに穂先のような鋭い雨に早変わり。

 この時期の雨は、ざーっと降ってはからりと止むのだけれど、今日に限っては全然止まなくて。

 天気予報では晴れなんて言ってたし、二人とも傘を持ってなかったから、近くの誰も使わなくなった小さな待ち合い場所のあるバス停で二人して雨宿り中。

 寂れた田舎町だから、もちろんこんなバス停には誰もいるはずもなくて、二人っきり。

 目の前のススキの白い草原も、今は曇った景色と雨でしょんぼりと俯き加減で揺れている。


「雨に濡れちゃったねー」

「あーあ、これすぐにやまないのかな」


 そんな会話をしながら彼女を見ると、うっすら雨に濡れて肌が見えちゃって。

 彼女も気づいたのか、僕から隠すように少しだけ離れてそっぽを向いた。

 僕も続けて何かを言う気にもなれなくて。ただただ、彼女から感じた女性に、どきどきと胸の高鳴りが聞こえてしまわないよう別のことを考え続ける。


 静かになったその場所で、小さな窓のような入口から見える外を見ていると、考えちゃうのは隣にいる彼女のことだった。


 彼女のことを僕はとても大事に思っている。

 小さい頃から一緒に遊んだ仲でもあるし、今でもこうやって一緒に帰宅しているのだから、気のあう友達だとも思っている。

 口論になることはあるけども。一緒にいても嫌なこともさほどない。



 だからなのか。傍にいることが当たり前だからなのかもしれない。

 会話が途切れたそのタイミング。

 彼女が少し恥ずかしそうにしてるからかもしれないけども、思っていたことをそのまま声に出してしまっていた。



 それがさっきの――


「君はさ、僕のことどう思ってるわけ?」


 思わず、声に出しちゃった僕の想い。


 しーんと。

 こんな時だけ妙に雨音も聞こえなくなっちゃって。

 自分の言った言葉だけが妙に響いたような気がして。



「ぁあ……ぃ、ぃゃ、その……」


 彼女が聞こえていなければ何もないから聞こえていないことを願いつつ、でも、聞いていたならその答えが分かるから聞いてくれていることを願いつつ。



 恐さ半分と不安半分。

 期待半分と失望半分。


 自分の胸がここまで高鳴るものなのかと、ただただその高鳴りに翻弄されながら彼女を見た。



 彼女を顔を見るのは怖い。

 もし嫌な顔をしていたら。

 もし拒絶されたなら。



 でも。聞こえていたならその答えを聞けるのだから。その答えが自分が求めるそれであれば――




 ――聞こえていて、欲しいと。




 聞こえてなかっただろうからこそそう思ってしまって。

 そんな聞こえていなかったからこそ想える贅沢な思考に、ちょっと自分がずるくて汚い人間なのだと思って凹む。


 聞こえていた時にその答えが自分がどう返されたらよかったのかと思って、その答えに気づいてより理解する。


 ああ、僕は彼女のことが――



「ん? なにか言った?」



 彼女は僕の視線に気づいたかのように反応して、僕と目を合わせながらそう言った。


「ぃあ、いやいや、何も言ってないけど?」

「ふ~ん?」


 ほっとする。やっぱり聞こえてなかった。

 僕はどうやらまだ、彼女へ告白さえもできないみたいだ。


 自信がない。

 彼女の答えを聞いて、もしだめだったら。

 そんな気持ちに耐えられそうにもない。



 だから今は。

 そんな関係が崩れてしまわないように。

 臆病なままでいい。



 それはきっと。

 僕がこの町からいなくなった先でも。

 答えは、出ないんだろうな。



「あー、今日の雨、全然やまないねー」

「そうだなー」



 だから今は。

 雨がもう少しだけでも。

 まだ降り続けてくれればいいななんて。



 そんなことを思いながら、今日も彼女と話をする。






 お互いがお互い。

 このまま成長して、それぞれの道を歩んでいって。

 また出会った時に僕が同じ気持ちをもって素直になれたなら。



 僕はきっと――

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