いつもの二人の帰り道
ともはっと
今日のお空はどんより曇り空
地元から通う地方の高校から帰り道。
一緒の学校に進学した幼馴染の彼女と僕だけが毎日のようにこの道を一緒に帰っている。
中学時代はまだ数人の友達も一緒に帰ってはいたけども、流石に別々の高校に進学して離れ離れになった友人達は今は帰りはばらばらで。たまたま出会って一緒に帰っても、自宅が近づいた頃には二人きり。
そう言えば。と、この帰り道の舗装された見慣れすぎて気にもしてなかった一本道をじっと見る。
その周りに咲くススキは、小さい頃からずっとこのまま真っ白な草原を作っていたなって、ふと思った。
仄かにそよぐ風に弄ばれて、ゆらゆら揺れる真っ白な草原。
よくよく考えてみたら絵になる景色だな、なんて。
特に今の時期――夏から秋にかけてのススキは、太陽の光を浴びてぐんぐんと育って僕達を隠すかのような背丈となって道の左右に広がっているのだけれど、このススキと共に生きてきたんだなって思うと、今更ながらに感慨深かった。
とはいっても。
何度も邪魔だって言われて刈り取られているから、実際僕達と一緒にすくすく育ったススキなんてあるのかどうかなんて、わからないんだけどね。
そんな僕達の帰りの背景は夕暮れも夕暮れ。
いつもならオレンジに染まる辺り一帯も、今日は少し陰りを見せていた。
ススキも心なし、元気がなさそうにも見える。
まるで僕の心情をそのまま写してるのかも。
なんてね。
「最近やってるスマホゲームは順調?」
小さな頃から一緒に遊んでは悪さもしたりといつも隣にいた彼女は、今日も隣で僕と学校からの帰り道を一緒に歩きながら話題を僕に与えてくれる。
お互い部活帰り。
彼女も僕もどちらが時間を合わせるわけでもなく、ただ帰るときはなんとなく二人で帰る。
そんな恒例となった帰り道はいつも彼女のおかげで退屈しない。
「んー。そこまでかなぁ。やっぱり課金してないとすぐ強くなれないんだよね」
「課金したところでたかが知れてない?」
「そりゃそうだ」
「目指せ、無課金ユーザー。無課金勢の底力をみせてやるのさ」
「学生にそこまでお金かけてる余裕はないから大体無課金勢だと思うよ」
小さい頃はよく二人でススキでできた自然の迷路で遊んだけども、最近はもっぱらスマホやゲームを弄っては遊ぶことも多くなった。今更はしゃぎたいとも思えないから、家にまっすぐ帰るこの道が、彼女との語らいの時間となってしまった。
だから今この時間は、僕にとってはとても貴重な時間。
今更二人で遊ぶなんて。
高校生になって――二人で何もない田舎で遊ぶなんて、流石に恥ずかしい。誰が見てるってわけでもないのにそりゃもう恥ずかしいことこの上ない。なにもないから手軽に遊べる世界へハマっていけるんだからそっちに逃げ込むに決まってるさ。
もう何年も繰り返してきたこの光景は、いつまでも飽きることはなくて。
なんで楽しいかなんて思ったこともあったけど、そんなのは理由が分かっても彼女とともに過ごす時間の楽しさは色褪せることはなくて。
だけど。
そんな色褪せない時間が。
もうすぐ終わる。
そう思うと、僕のこの歩みも遅くなる。
もう少しでも、このままいられたらいいのに。
毎日がそうやって過ごしていたからか、僕は彼女と別れることがとても寂しかった。
空を見上げてみる。
今日はどんより曇り空。
昨日まではからっと、あんなに雲ひとつなく晴れてたのに。
まるで、僕の気持ちを現しているようなそんな空に、さっきはノスタルジックに思ってみたけども、今度は心底うんざりした。
「ねぇ」
数歩前を歩く彼女が立ち止まって僕に声をかけてきた。
「もう日取りは決まったの?」
「あー、なんか、もうちょい決まるのは後みたいだけど」
「……そっか」
そう。
僕はもうすぐ。
この慣れ親しんだこの田舎町から出て。
都会へと、引っ越しする。
……ああ。
もう、この二人きりの帰り道がなくなるのかと思うと。もうすぐ君に会えなくなると思うと――
本当に。
僕の心は、どんより曇り空だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます