太平洋戦争中の日本と日本人を描いた短篇集。
語り手は子どもであったり、母であったり、あるいは擬人化された時計であったり。物語の舞台も日本だけでなく満州、シベリアまで多岐にわたっている。
そこで語られる内容は、目を疑うような狂った世界と歪んだ価値観。でもそれが「現実」であったと思うと、むしろそちらの方が恐ろしい。
戦争の話なら知ってる。
もう終わったことだ。
自分には関係ない。
そう思う方にこそページを開いて欲しい。自分が知っていたことは歴史の表面をなぞるだけのものだったと痛感する。庶民視点の読みやすい口調の中に、詳細な史実が注ぎ込まれていて、学校では決して教えてもらえない歴史を知ることができる。日本が経験したまぎれもない事実とそこへ向かった国民の精神性。そして、その精神性は現代にも通じるものがないかと訴えかける筆者の厳しい目。
誰かの淡々としたモノローグもあれば、幼い子どもに語り聞かせるような童話風のスタイルもあり、幅広い層に伝わるように工夫されている。できれば学校や図書館に置いて、子どもにどんどん触れて欲しいと思う。
戦争の話は8月だけのお決まりの行事ではなく、日常から語り継がなければならないものだ。生き証人が減ってしまった現在、戦争を過去の遺物として忘れ去るのではなく、こうした物語で脈々と継いでいかなければならないのではないか。
そのためにも本書は、ずっと残されるべき貴重な作品である。