声劇台本「吊り橋連続殺人事件」TAT

玉手箱あかね

全1話

声劇「吊り橋からの手紙」TAT


時系列メモ

2011年3月 大地震で深澤徹は家族も職場も住居も無くし、移転を余儀なくされる

      歩いて行ける距離の職場を探していたが見つからず。

2011年4月 半導体製造工場X社に採用される

      電車通勤となる。そもそも無口な性格で友達も出来ない深澤徹。

2018年4月 X社に箱崎あかね入社。深澤と同じ職場になる。

2019年12月 深澤は遠藤まりあと恋に落ちる(ドラマ雪の夜参照)

       深澤の表情も明るくなり、箱崎と友達になり始める。

2020年3月 深澤とまりあは同棲(結婚?)の予定を立て始める。

2020年4月3日 山菜取りを兼ねてキャンプに出掛けた先でまりあはひき逃げされ死亡。

2020年5月~7月 深澤の独自調査。ひき逃げに関わった4人の身元を突き止めた。

2020年7月中旬 運転免許取得

2020年8月上旬 出口みゆ殺害

2020年9月上旬 千須和ひかり殺害

2020年9月下旬 相原智也死亡

2021年3月上旬 車を購入、箱崎に見られる。

2021年3月末日 X社を退社

2021年4月1日 荊沢工務店に入社

2021年4月30日 荊沢翔太殺害

2021年5月2日 深澤徹死亡



配役

A相原智也 アイハラトモヤ (ひき逃げ犯で車両の持ち主):登場しません

B荊沢翔太 バラザワショウタ (ひき逃げ犯で運転手):

C千須和ひかり チスワヒカリ (ひき逃げ犯でAの元カノ):

D出口みゆ デグチミユ (ひき逃げ犯でBの浮気相手):

E遠藤まりあ エンドウマリア(Fの恋人):登場しません

F 深澤徹 フカサワトオル (犯人・手紙の主):

H箱崎あかね ハコザキアカネ (犯人の元同僚で友人):



(F深澤徹役、ナレーション始まる)


親愛なる箱崎さんへ。


この手紙が届いて、きっと箱崎さんは驚くでしょうね。

驚かせてごめんね。

この手紙に、僕のアパートの鍵と不動産会社の名刺を入れておくから、部屋の解約を箱崎さんにお願いしたいんだ。布団とスーツと少しの着替えが置いてある。全部捨ててもらえませんか。それほどたくさんはないけれど、貯金は全部おろして現金が置いてあります。そのお金ですべて片づけて、葬儀もいらないから、火葬の手続きを・・・こんな迷惑を掛けることを心から謝ります。

万が一、幾らか残ったら、箱崎さんが好きに使ってください。

僕の車、かっこいいって言ってたね。箱崎さんに譲ります。せめてものお詫びです。もし気持ち的に嫌だったらどうにでもしてください。

でも箱崎さんなら、僕の思い過ごしでなければ、きっと全部うまくやってくれるような気がするから。箱崎さんにだけは、事実をありのままに、嘘偽りなく打ち明けておこうと思う。

吊り橋連続殺人事件の犯人は、僕です。


箱崎さんも知っている通り、僕はあの大地震で家族を全員失いました。

この街に越してきて、最初は誰とも話せずにとても苦しかったけれど、3年前、箱崎さんが入社してきて、友達になってからは仕事も随分楽しくなったよ。箱崎さんがいなければきっと、とっくに僕はこの街から離れていたと思うんだ。

実を言うとね、箱崎さんが何度も僕に、恋人はいないかと尋ねて来たけれど、居ると言うのも嘘だし、居ないと言うのも嘘なんだ。だから言わなかった。


おととしの冬、僕には恋人が出来た。

ものすごい大雪の日だったな。仕事が終わって、いつものように駅へ向かうと、電車が遅れていてずいぶん待たされた。いつも、僕は下り線に乗るんだけど、上り線に乗る女性と、電車が来るまで何気ない話をするのが毎日の日課になっていたんだ。

普段なら5分も話せば電車が来て、お互い離れてゆくんだけれど、その夜、遅延した電車を待ちながら僕たちは一時間近くも話していた。

そして、気付いたんだ。お互いに惹かれあっていたことをね。

その夜から僕たち、愛し合うようになったんだ。

それまで、何もかもを失ったと思っていた僕が、彼女と過ごすうちにどんどん生まれ変わっていった。ちょうどその頃だと思う。箱崎さんと職場で話が出来るようになったのは。


彼女の存在で、それまでモノクロだった人生に再び色が付いたように、生きていることを良かったと、本気で思えるようになったんだ。とても大事な、大切な人だった。

去年の春ごろには、5月になったら一緒に暮らそうと計画していたんだよ、駅の近くのアパートで。

彼女のご両親はもう早くに亡くなって、彼女はお爺さんと二人で暮らしていた。そのお爺さんが5月から養老院へ行くことになったから。


おじいちゃんの好きな山菜料理を、最後に作ってあげたいからと、彼女はその日、有給休暇を使って山菜採りも兼ねて観音山(かんのんやま)へキャンプに出掛けた。

僕も仕事が終わってから合流する予定で、最寄りのバス停で降りて山を登ってゆくと、かなりひどい雨が降ってきて、雨合羽を羽織って歩いていたんだけれど、かなり視界は悪くてね。カーブを曲がろうとしたときに飛ばして来た車に跳ねられそうになったんだ。

こんな濡れた路面をそんなスピードで下りてくるなんて信じられないと思って振り返ってナンバーを見た。黒のセダンだった。ずいぶん高級車に見えたから、そんな車でこんな山道を走るんじゃねぇよ、って腹が立ったんだ。


それから一時間近く山道を登って行ったときだ。

道端に、彼女が倒れていたのは。

まだ、体温のぬくもりがあった。

息は途絶えていたけれど、まだ温かかったんだ。

急いで救急車を呼んで病院へ搬送したけれど、手の施しようが無かった。

轢き逃げされたんだ。あの車に。

あの車しか、すれ違わなかったし、観音山は箱崎さんも知っているだろう?最近騒がれている、あの吊り橋で行き止まりなんだ。吊り橋のところまでしか車は入れない。



彼女の葬儀が終わってから、僕はずっとあの車を探していた。警察も轢き逃げ事件として捜査していたけれど、どうしても見つからなかった。まだ捜査中のままだ。

そして僕は一人で、毎晩考えた。夜も眠れなかったよ。

もし、轢き逃げ犯が捕まっても、牢獄に入ったとしても、彼女は帰らない。

僕の人生も返らない。・・・死のうと思った。でも、どうしても、この苦しみを犯人に伝えなければ死ねない。彼女の受けた痛みを、味わわせてから僕は死ぬべきだと。


休みの度に自動車の部品集積所を訪ね歩いた。

すると3か月かかって、隣の県でようやく見つかったんだ。たいして壊れてもいないのに廃車にされた黒のセダンのことを覚えていた人が。

バンパーとボンネットはかなり凹んでいたけど、まだ溝もしっかりある新品のタイヤを履いたままで廃車にした、それも、部品もバラさないで丸ごとほかの車と一緒にスクラップにしてくれと。訳アリに違いないと思って覚えていてくれたんだ。


僕は、謝礼をするからとお願いして、その車の搬入先を辿り、ついに聞き出したんだよ。持ち主を。警察の関係者だった。

道理で見つからなかったはずだ。

そして驚いたことに、彼女を轢いたとき、車には四人もの人間が乗っていたんだ。

誰か一人でも、彼女を助けようと、その場で救急車を呼んでくれていたら、彼女は助かったかもしれないのに。

許せなかった。・・・絶対許さないと誓った。


四人を特定するのは案外簡単だったよ。あの山へ登る前に、やつらはコンビニで大量に酒とつまみを買っていた。コンビニの店員は、彼らが毎月あの山でパーティをすることを覚えていたんだ。一人が分かればすぐほかの三人の身元もわかった。


相原智也 アイハラトモヤ

荊沢翔太 バラザワショウタ

千須和ひかり チスワヒカリ

出口みゆ デグチミユ


彼らは月に一度、山奥のロッジで酒を呑みながら賭け麻雀していたらしい。

僕は四人の殺害を実行するために必要だと判断して、運転免許を取得した。


そして僕はまず、出口みゆに近づいた。

よく行く呑み屋へ足しげく通って顔見知りになり、交際を申し込んだんだ。

出口みゆは結婚していたけれど、旦那さんがゴルフで出掛けるという日に合わせてレンタカーを借りて、ドライブしようと持ち掛けた。あの山へ向かって行ったら、出口みゆは少し青ざめていたな。


D「ここ、私あんまり好きじゃないわ」

F「どうして?この先の吊り橋からの眺めがきれいだから、一緒に眺めたくて。」

D「そうなの?あまりいい思い出がないのよ」

F「どんな思い出?もし良かったら聞かせて?みゆさんのことは何でも知りたいんだ」

D「フフフ、そんなに私のこと好きになっちゃったの?」

F「好きにさせているのはみゆさんですよ。とても魅力的だ」

D「ありがとう。あなたみたいな若い人に好きになってもらえるなんて思わなかった。」

F「さぁ、降りましょうか。」

D「吊り橋ね。怖いわ」

F「手をつなぎますか?」

D「いいの?・・・ありがとう・・・ドキドキするわね」


真ん中まで来たとき、言ってやったんだ。


F「あの雨の日、みゆさんの乗っていた車が人を轢きましたね。」

D「えっ・・・誰から聞いたの?」

F「あの時、轢かれたのは僕ですよ」

D「ほんと?!生きてたのね?!私ずっと心配していたの。ごめんなさい、ごめんなさい!」

F「許しませんから」

D「キャーーーー」


ようやく一人。出口みゆの死因は、自殺と断定された。



そして次は千須和ひかりを呼び出した。

出口みゆの死因を調べている探偵のふりをして、職場帰りに待ち伏せて声を掛けた。

千須和はとてもうたぐり深くて苦労したよ。

バリバリのキャリアウーマンで、資産家だった。

出口が書き残したダイイングメッセージの中に、千須和の名前があるから見てほしいと頼んだらようやく耳を傾けた。

千須和は、うたぐり深いけれど一度信用するとなんでも喋る女だった。

むしろ出口よりもあっけなく、あの日の轢き逃げのことも打ち明けてくれたよ。。

僕が知っていることを何の不思議もないというように。


車の持ち主は相原智也。

当時千須和ひかりと交際していた相原智也は警察の官僚の息子だけれど、資格試験に合格できず親の金と不労所得で、遊んで暮らしていたらしい。遊ぶには楽しい相手だったけれど結婚相手にするには頼りなかった。月に一度の賭け麻雀も、もう自分は最後にしようと思っていたらしい。

・・・その日も朝からロッジで大量に酒を飲みながらぶっ通しで麻雀を続け、その晩はロッジに泊まる予定でいたが、夕方になり荊沢翔太に電話が掛かって来た。


C「荊沢に赤ちゃんが生まれたって電話があったのよ!ちょうど荊沢が負け続けていたから、みんな最初は嘘だと思ったの。これ以上負けるのが嫌でそんなこと言っているんだろうって、大喧嘩になりそうになったけど、本当だということがわかって、仕方なく帰ることにしたの。負けすぎてタクシー呼ぶお金もなかったんだから。信じられないでしょう?よくそんなんで会社の社長やってるわ。」

F「荊沢さんは妻帯者だったんですか。出口さんと交際していたものと思っていました」

C「えぇ、みゆとも付き合っていたわよ。みゆはほら、かわいいから。誰にでも愛されちゃうタイプなのよね。だからあの子が自殺なんて信じられない。人生エンジョイしていると思っていたから。どうしてダイイングメッセージなんて残したんだろう。」

F「それで急いで家に帰ることになったんですね」

C「そうなの。智也が、もう呑んでるから運転できないって言ったら荊沢は自分が運転するから!って。荊沢だって呑んでたのに。だからあんな事故起こして。でも、とにかく荊沢は急いでたのよ。みゆが、救急車呼んで!って泣きながら叫んでいたのに全然聞きもしないで、途中で、もう一人轢きそうになってようやくスピード緩めて。私も心臓止まりそうだった。今考えれば、荊沢だけ帰しても良かったし、私がタクシー呼べば良かったのに・・・。かなり呑んでいて、判断力が鈍っていたの。」

F「怖かったでしょうね」

D「ほんと怖かったわ。それで智也は、自分の車を廃車にすることになって、父親から随分叱られて。あんなに仲良かった智也と荊沢だけど、それからもう遊ばなくなって、智也はいまだに荊沢に小遣いせびりに行ってるって噂だし。私も、みゆとは仲良くしていたけど智也や荊沢とはもう連絡も取ってないのよ。あのひき逃げの件が表沙汰になったら私の身も危ないわ。でも、智也も荊沢も捕まっていないところを見ると、ぶつかった人もたいしたことなかったのね、きっと。」

F「さぁ、着きましたよ」

C「それだけ見たら、すぐ帰りますから」

F「この橋の、中央辺りです」

C「中央?・・・あぁ、ここからみゆが飛び降りたのね。」

F「はい、こんなふうにね」

C「キャーーーーーー」


ようやく二人。

出口と千須和が友人だったこともあって、新聞には「事件性があるため、警察は連続殺人としての捜査を開始した」と小さく書いてあった。

僕はその頃、相原を狙うか荊沢を狙うか考えていた。

警察の動きもあるし、しばらく様子を見るつもりでひっそりと静かに過ごしていたんだ。

すると二週間後、相原智也が、あの吊り橋で首を吊って死亡した。

千須和から聞いていた相原の性格から、自殺をするようなタイプじゃない。

僕は、もしかしたら荊沢が相原を殺したんじゃないか?と思ってる。

そもそも相原のことを疎ましく思っていた荊沢が、出口と千須和の事件に便乗して連続殺人として片付けようとしているんじゃないかと。


僕は、相原の父親が警察官僚だということもあるし、相原の死因を調べれば芋づる式に捜査はひき逃げされた彼女の事件にまで及んでくれると思っていた。

だから、彼女を轢き殺した犯人として荊沢が刑を受けることは当然だし、殺害するのは、荊沢が刑務所で刑期を終えてからでも遅くないと思ったんだ。


しかし、捜査はまったく進まなかった。

理由は僕にはわからない。

二か月経っても三ヵ月経っても、僕に警察の手が伸びることもなかったし、荊沢の周りを警察が嗅ぎまわっている様子もなかった。静かすぎて恐ろしかった。

そして、腹が立って腹が立って仕方が無かった。絶対に許せない。その想いだけが募っていった。


そして僕はついに、荊沢の殺害を決行することに決めたんだ。

3月・・・会社を辞める、と箱崎さんに打ち明けたとき、箱崎さん・・・泣いて止めてくれたね。たしかに、とてもいい会社だったと思う。

彼女を失ってからも生きていられたのは、仕事があったからかもしれない。

生きるために仕事をしているようでいて、逆に仕事のおかげで生きていられたのかもしれない。あの頃、毎朝箱崎さんが掛けてくれた「おはよう」が、目覚まし時計みたいに僕を元気にしてくれていたよ。言ったことなかったけど、本当にありがとう。

僕は会社や仕事に不満があったんじゃない。

荊沢に近づくために、荊沢の経営する会社から採用されたから辞めたんだ。


この車も、荊沢の会社に勤務するために購入した。

辞める前に何回か会社に乗って行ったら箱崎さんは目ざとく見つけて声を掛けて来たよね。乗せてほしいと言われたけど、荊沢の殺害に使おうと思っていたから、箱崎さんに、もしも迷惑が掛かってはいけないと思って断ったんだ。乗せてあげなくてごめん。



4月から荊沢の会社で働くようになって、一緒に仕事をしてみると、荊沢は結構いい社長だったよ。家庭も大事にしていたし。

彼女が死んだ日に生まれた子はみのりという名前でね。

荊沢は時々会社に連れてくるんだよ。

かわいい女の子なんだ。

僕はなんだか、彼女がこの子に生まれ変わったように思えるところもあって、だからみのりちゃんの誕生が、荊沢にとってどんなに嬉しいことか、酒を吞んでいても夕暮れの雨の急カーブを急いで駆け下りたくなる気持ちを想像するのも難しくはなかった。

でもね。

やっぱり許せなかったんだよ。

みのりちゃんから父親を奪おうとしているんだ、って心がギリギリと痛んだけれど、あの日の、雨の中で息絶えていた彼女のぬくもりが忘れられないんだ。

次第に冷たくなってゆく彼女の重みが、今でも僕の腕のなかにあるんだよ。



殺害のチャンスは、いきなりやってきた。

ゴールデンウイーク前に、会社の親睦会があって、こんなご時世だからやめようって声もあったし、リモートで、って声もあったけど、荊沢は新入社員の歓迎会もしたいからって。

僕の歓迎をしたいから、って。

ついに復習の終わる日が来ると思うと震えたよ。

僕は、荊沢を殺して自分も死ぬことを覚悟して、家の片づけをした。

もう後に残すものは何もない。何もいらない。



親睦会当日も、荊沢は何の疑いもなく、ずっと僕の隣で、ご機嫌に呑んでいたよ。

F「社長、僕に送らせてください。呑んでないので」

B「深澤君、新車に乗せてくれるの?ありがとう。コンパクトで、いい車だね~。

新車の助手席に乗せてもらうなんて、彼女に悪いなぁ~。」

F「大丈夫ですよ。僕の彼女は世界一優しいので」

B「のろけるねぇ!今度彼女、見せてよ。かわいいんだろうなぁ」

F「はい。世界一かわいいですよ」

B「ハハハ、うちのみのりにはかなわないけどな!うちのみのり、あれは世界一!宇宙一のベッピンさんになる!間違いない!」

F「早く乗ってください」

B「ハハハ、悪い悪い」


車に乗ると、すぐに助手席でうたた寝を始めたよ。

そのまま僕は吊り橋まで急いだ。

さすがにこんな夜中には警察もいない。


F「社長、着きましたよ、そのまままっすぐ進んでください」

B「オウイッ!おつかれさーんっ!・・・あれっ?」

F「さぁ、どんどん歩いて。そのまままっすぐです」

B「オイ・・・」

F「はい。社長。相原智也が呼んでますよ。あそこで」

B「オイ‼‼‼」

F「千須和ひかりも、出口みゆも、呼んでますよ」

B「押すな!やめてくれ!悪い冗談はやめてくれ!」

F「冗談じゃありませんよ。僕の彼女には、社長、もう会ってますよ。2020年4月3日。みのりちゃんの誕生日です。その日、僕の彼女は、社長の運転する車に跳ねられて、死にました。見たでしょう?!・・・あんなに大事な人は他にいない。僕の一番大事な人だったのに!」


ドン!と突き飛ばすと、勝手に吊り橋を転んでいって、勝手に落ちていったよ。


僕の話はこれでおわりだ。

今、この封筒に封をして、ポストへ入れたらもう一度吊り橋へ戻り、僕も身を投げる。


箱崎さんにだけは話したかったんだ。

そして、謝りたかったんだ。

たくさん心配してくれたから。ごめんね。今までありがとう。


2021年5月1日

深澤 徹













バイクの音

パサ。

足音。開閉する音。

H「あら手紙・・・えっ!深澤君から?!」

紙を開ける音


H「親愛なる箱崎さんへ。

この手紙が届いて、きっと箱崎さんは驚くでしょうね。驚かせてごめんね・・・?」

(深澤徹の音声と箱崎あかねの音声を少しだけ交互に流す)


F『この手紙に、僕のアパートの鍵と不動産会社の名刺を入れておくから、部屋の解約を箱崎さんにお願いしたいんだ。布団とスーツと少しの着替えが置いてある。全部捨ててもらえませんか。』


H「・・・うそ!」


F『それほどたくさんはないけれど、貯金は全部おろして現金が置いてあります。そのお金ですべて片づけて、葬儀もいらないから、火葬の手続きを・・・こんな迷惑を掛けることを心から謝ります。』


H「・・・やはい」


F『箱崎さんにだけは、事実をありのままに、嘘偽りなく打ち明けておこうと思う。吊り橋連続殺人事件の犯人は、僕です。』(この部分、音声コピペ)


H「吊り橋連続殺人事件の犯人は・・・僕です・・・うそ!・・・」


車到着。バン!

風の音、せせらぎの音


H「深澤君の車だ!」

走る


H「居た!わあーーっ!深澤くん!深澤君!深澤君!」


ギシ、ギシ、ギシ


F「来るな!」

H「どうして!」

F「止めないでくれ!」

H「手紙、読んだよ!理由も全部読んだ!」


パトカーのサイレンが聞こえてくる


F「箱崎さんが通報したんだね。・・・箱崎さん・・・。僕の気持ちをわかってくれるようで、ちっともわかってくれないんだね。僕はもう、一緒に仕事してたときの僕じゃないんだ!吊り橋連続殺人の犯人なんだよ!ほら、下に僕の殺した被害者が死んでる!僕はここで、3人もの人間をこの手に掛けて殺したんだ!僕はもう、箱崎さんの知ってる僕じゃない」


H「そんなのちっともわかんないよ!人殺しの深澤君なんてわかんない。普段の、無口で優しい深澤君しか知らないよ!警察を呼んだのは、罪を償ってほしいからだよ。悔しさを伝えるために、生きていようよ」


F「・・・箱崎さんが来るのは誤算だったな。・・・僕にはもう、生きる理由がないんだ。あの日、彼女が轢き殺された時点で僕は、何もかも無くしたんだ。すべて失くしたんだ!もうたくさんなんだよ!失うばかりの人生は・・・僕は、彼女を死なせたあいつらを全員殺すこと。それだけのために生きて来た。それが終わった今、僕には何もないんだよ!生きる理由なんて何もない。最後は自分で自分にケリをつけるだけだ」


H「生きる理由なんて、これからいくらでも作れるよ!見つかるよ!」


F「だったら教えてくれよ。いい加減なことを言うな」


H「・・・私を、生きる理由にしてよ!私じゃダメなの?」


F「・・・箱崎さんらしいね。でも僕は・・・。」


パトカーのサイレン、大きくなる


F「・・・もう時間切れだね。・・・最後に箱崎さんと出逢えたことが、僕の唯一の救いだったよ」

H「深澤君、待っ・・・・」

バシャーーーン!

H「わあああああああーー!」(サイレンの音と水音にかき消される)

パトカーのサイレンの音鳴りつつ車のドア、バタンバタン!


サイレンの音小さくなる。


終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

声劇台本「吊り橋連続殺人事件」TAT 玉手箱あかね @AkaneTamatebako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ