無反動アロー考

curuss

§

 最近、無反動なんちゃらを散見します。


 これ系の初出は『新しい太陽の書』の『警士の剣』だったかと。

 その剣は中が空洞になっていて、そこに水銀が入っているというもの。

 振り下ろしたときに水銀が遅れて重心移動するので、跳ね返る力を打ち消してくれるそうです。

(ちなみに罪人の首を斬る専用なので、戦闘はあまり考えられてない)

 ざっくり40年位前? ハヤカワにFT文庫なくて、ファンタジー作品もSFに分類されてた時代の作品ですし。


※ 間違っていたら失礼。でも水銀剣の作品は実在します


 で、この理屈は眉唾と思ってた――ソースが昔のSF小説はさすがに――のですが、なんと実用品が存在するみたいです。

 常に『ある=理屈が正しい』ではありませんが、実用品や道具の世界は実証試験を経ることがほとんど。

 複数メーカーが扱っていたら、それなりに信用できるものと思われます。


 この無反動を矢に応用したのが無反動アローなんで、「矢軸の先端を空洞化し、その内部に可動ウェイトを仕込む」という代物。

 個人的には――

「ただでさえ生産性が危ぶまれる矢を、要精密加工にしてどうすんだ?」

 と疑問でした。

 しかし、よくよく考えたら――


『可動ウェイトは、別に内部へ加工しなくても成立』


 するのでは?


・普通の矢のイメージ 


 ←────────《


・提出案


 ←C┼───────《


 C  ……リング状の可動ウェイト

 ┼ ……ストッパー


 これだと射出している間はストッパー側へ止められ、悪影響がない。

 そして命中したら慣性の法則に従って、リングが矢じりを叩くように追い打ち!

 これにより反発して跳ね返ろうとする力を相殺? 結果的に矢じりを、さらに押し込むことに?

 外部リング式なら内部加工式と違って、ローテクノロジーでも可能じゃ?

 さらに既存の矢に加工で改良も可能?


 しかし、有効な質量に疑問も残ります。

 意外と矢は軽いからです。

 そんなに重い可動ウェイトは使えません。

 検算はしておくべき?


 軽めの矢じり …… 5g程度

 直径10ミリで長さ1mな木の棒(ヒノキ) …… 約47g


 他のもろもろを考慮に入れても60g?

 しかし、やや太めかつ長めだったりも。

 おそらく一本につき40~60gでしょう。現代弓道の道具も近い数字ですし。


 そして可動ウェイトで姿勢制御というと、ミニ四駆でしょうか。

 実は全く同じ仕組みで、ジャンプ後の跳ね上がりを押さえています。……押さえようとしてます?

 『マスダンパー』というそうですが――


 どうやら界隈では疑問視されて!


 それでも色々と研究は続いているようで、とにもかくにも走行時150gぐらいなミニ四駆を可動ウェイトで制御するのに、最低でも6gは要る模様。

 これを50gの矢で考えると2g!

 つまり、可動ウェイト部分は軽くても十分なようだから――


できる


・しかし、ほぼ同じ理屈の『マスダンパー』は、絵に描いた餅で終わっている


・粉体や流体での成功例はあるも、それはそれで加工難易度が跳ね上がる



 他のアプローチで、矢じりと矢軸の接合部分をクッション的な感じにすれば、矢軸そのものが可動ウェイトになるそうです。

 これは当時の人も知っていたとか?


 技術精度が許すならスプリング等でしょうし、単に革等を噛ませ、強い衝撃時に潰れて衝突エネルギーをコントロールする手も?

 ですが当時、一部の人は知っていたけれど、それが一般化することは無かった模様。



 ………………うーん?



 証拠もなしに断言はよくありませんが、これって――


『理屈は正しいのだが、その運用や制作には、高度な工業技術か熟練の技が必要』


 という、未開時代によくあるパターンなのでは?

 さらに持て余しそうなのが――


『改良されているのは間違いないのだが、どれだけ変わったのか明示しにくい』


 ところ?

 現代科学チート的には、矢にリング状な可動ウェイトだけで終わるし、結果も良くなったと誤魔化せるけど――


『その凄さを具体化できなくて、いまいち読者を説得できない』


 かも。

 あるいは――


『ドワーフの優れた技術で無反動アローを作り、エルフの巧みな弓術で昇華させる』


 な感じで潤滑油的に使って、メインで激変な現代科学チートとは扱わない?



 結論としては――


『この技術を出さなきゃ成立しないプロットでもなけりゃ、扱わない方が安定』


 に思えました。

 とにかく『正しいはずなのに、その反証も多すぎる』がネックに感じます。



【蛇足】


 『マスダンパー』を機能させる案


・飛んじゃうよー!

 ジャンプと共にウェイトが吹っ飛んでいけば解決!

 これならジャンプ時に分散して受け持ったエネルギーを全て使いきれるし、逆向きの力すら発生する。

 正式には『物体の分裂』。

 何かを投げれば、その反対向きに同じ力が発生するというアレ。


           □ ↑向きの力

            

                         

                        

           │ ↓向きの力                

       →   │   →             

         ◎───◎            

   │                │        

   □                │       □ 

 ◎───◎            ◎───◎ 


 二周目はどうすんだとか、ミニ四駆のルールに抵触するとかは――


 知らんな!



・高く飛べばいいねん

 ウェイトが跳ねられる高さを、現行から10倍くらいにする。

 せっかくウェイトが力を分散してくれたのに、それをストッパーで再キャッチしたら意味がない。

 東北ダンパー?とかいうのは、途中でベクトルを変えてるから、その分だけ機能していると思われる。

 ようするに重力を振り切れなくて再落下を始める高さまで、跳び上がるに任せればいい。

 この場合、再落下時の衝撃は、全てが押さえつける力に変わる。


           │

           □

           │

   │       │        │       │ 

   │       │        □       │ 

   │       │        │       │ 

   │   →   │   →    │   →   │ 

   │     ◎───◎      │       │ 

   │                │       │ 降下の衝撃! 

   □                │       □ 

 ◎───◎            ◎───◎   ◎───◎



 車体の高さにも制限がある?


 知らんな!



・最初から上にあればええねん


    ■ ←超弱い磁石               ■

    □         → 着地の衝撃! →   │ 降下の衝撃!

    │                      □

  ◎───◎                  ◎───◎


 これじゃ一回しか機能しない?

 二回目で再装填すればよかろう!

 それじゃあ二回に一回しか機能しない?


 知らんな!


 とにかく!

 このNASAの方から来たコンサルタントに死角などあろうはずがない!



【蛇足2】 すべてを台無しとする調査結果


 youtubeにて和弓で鉄を射る実験動画を発掘


『強弓で鎧は貫通できる!? 弓力50キロと27キロの弓で鉄板の貫通力実験』市村弘様


 動画では50キロの和弓で1.8ミリのフライパンが抜けない。

 ちょっぴり穴開けるので精一杯。


 みたいな結論でした。

 残念ながら89キロでは試されなかった模様。

 でも、1.8ミリの全身甲冑は人類限界レベルですし、至近距離でしたが50キロでも穴を開ける程度は可能。


 つまり、史実に在った70キロ↑のロングボウで、当たり所が悪いと射貫かれる?


 また全身甲冑は並の弓を過去のものとし、だからこそロングボウや強クロスボウが台頭した、とも?


 しかし、今回のテーマを全否定する結果も同時に!

 動画では『返し』のないシンプルな鏃を使っていたのですが、1.8ミリの時に矢軸へめり込んで!


 矢の先っぽのイメージ


               //

 ====>   が   ==>

               \\


 これ下手に矢軸の先を空洞にしたり、緩く作るとか駄目かも!?

 衝撃が何処へも逃げられなくなった結果、もっとも弱い鏃と矢軸の接合部分へ集中!?

 動画では『返し』のある大型な鏃へ交換してましたが――


 全世界で散見できる大きかったり、接合部分が長かったり特殊だったりする鏃は、これの対策!?


 そして珍品な――


 金属で一体成型した矢


 も、この『接合部分が砕ける』だけは起きません。

 ……実は合理的な解決方法だった!?


 しかし、ヒノキ 500kg/㎥であり、鉄 7850kg/㎥――つまり、15.7倍も重く、それはそれで間違い?

 でも、カルシウムは1550kg/㎥なので、骨を削って一体成型な矢とかは成立しうる? 空洞を多く含んで、数字以上に軽いし?

 ただ純粋なカルシウムは柔らかいので、混合物じゃなきゃ駄目?


 あと、ガラス?

 鉄より硬く、2500kg/㎥で重すぎず、色々なチート科学を駆使すると、木材程度の頑丈さも得られますし?


 世界最先端なガラス → SR 5096 - unbreakable glass - www.SR5096.nl


 あと一体成型タイプで頑丈な素材の矢は、乱雑に収納できるという大きすぎる利点もあったり?

 一本250gの頑丈な矢なら、乱雑に20本ぐらい持って移動できるかも。

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