12月15日第2巻発売記念外伝④


「……疲れたなぁ」


「あそこまで色々やろうとしすぎた結果、魔力を使い過ぎましたね」


「実は『罪の牢獄』に居る時は体力と魔力が凄い勢いで回復していくんだけど、それにしても一気に魔力使った後の倦怠感苦手だ」


「……その意気で勝てますか?」


「今はウダウダ言うけど、本番になったらキッチリ締めてくるから大丈夫なはず」



 『黄金の火』1つで俺の手札の大半を捻じ伏せてきた愛火との模擬戦を無事に終え、感想戦と言うか終わった後のクールタイム的なのを2人で楽しんでいる最中だ。


 真面目に俺の動きに対して思うところを告げてくれる愛火の真面目さに感謝しつつ、あまりの手札の多さに色々やりたがってしまう昔からの自分の悪い癖に対し、さすがに『女神』戦では気を付けないとなと思わされる内容ではあった。


 自分の中で変な言い訳ではあるんだけど、ゲームではラスボス戦ではエリクサーやらの貴重アイテムを渋らないタイプだったので、『女神』戦ではプランは一応事前に決めてあるが、何があっても渋らないはず……はずだ。



「今更苦手にしてきた近接ファイトに魅力を感じるのも良いですが、それは最後の戦いでも使う前提での模擬戦で良かったのですか?」


「今のところ……この世界において最強候補ってのは殴り合いが強い前提の奴しかいないからさ。遠距離から好き放題やるのは当たり前に抑えてくるからな」


「そこを考えると近接ファイトも一定のレベルに持って行きたいと」


「『原罪』のおかげで殴り合いで有利になれる手札が多くなったからなぁ……そこも使えれば世界広がるはず」



 近距離戦で即殺されるのを回避したいのと、『女神』が阿修羅や最強勇者のように近距離戦に強制的に持ち込んで来るフィジカルタイプだった場合に、俺が何もできずに呆気なく負けてしまうことは避けたい。


 

(……それにしても愛火とこんなファンタジーな会話をすることになるなんて思いもしなかったな。ちょっと面白いから良いんだけど)



 真面目な顔して近接ファイトなんていう単語の混じった会話をしていることに、今思うと少し笑ってしまいそうになるが、そんなファンタジーな会話も真面目に考えてしてくれるのが愛火様の良いところだ。


 あんなにゲームやらの経験をドヤ顔で披露していた俺なのだが、『黄金の火』一本で最強魔王に数えられるレベルまで来た愛火のほうがセンスがあるんだろうなと悲しくも思ってしまう。


 属性特化型ってのはカッコ良さが異常だ。ウチの『大罪』だって負けてないと言いたいのだが、『黄金の火』は男の子誰でも好きになってしまう良さがある。



「デバフ付与して手札の多さで優位をとるタイプだったんだけどなぁ……なかなかデバフを付けさせてくれないのが厳しいもんだ」


「配下の子たちが優秀で良かったという話かな? 配下の子たちの能力を使い分けれれば戦術は無限大でしょ?」


「それを毎度適切に手札切っていけたら最強なのかもしれないんだけどさ……全部の手札を自信もって切れるほどの経験が無いな」


「残された時間を最大限に使いましょう。いくらでも付き合いますよ」


「さすが愛火様」



 この世界が本当のゲームだったとして、攻略サイトやらが盛り上がっていた場合は、『大罪』の各スキルはどんな評価をされてティア分けされているんだろうか?

 俺が思っている評価は世間的にはどうなんだろうか、今まで出会って来た者たちはどんな評価されてるんだろうかなんて色々妄想が広がる。


 ゲームを発売日に購入し、手探りで色々見つけていくってのも1つの醍醐味だ。明らかに強いキャラやスキルを見つけた時のワクワク感だったり、明らかに経験値効率の良いステージ、ゲーム難易度を破壊するバランスブレイカーを手に入れた時などを手にした時の高揚感は中々味わえるものじゃない。

 

 

「あの最強勇者を誕生させた『女神』、『七元徳』の主……フィジカルに絶対的な自信をもっている奴を美しく崩してやろうじゃないか」



 今までにない大きなリスクを背負わなきゃ勝ち目が無いと思わされるような決戦。

 最強勇者こと東雲拓真の力を最初知った時も絶望感凄かったが、それをも超えてくるであろう諸悪の根源。

 絶対に役目を果たすためにはどうするべきか、負ける確率を0%にするには何をすべきなのか……俺なりに絞り出した。


 

「覚悟を決めた時のスッキリ感……悪くないな」


「そういうセリフは勝った時まで置いておいたほうが良いですよ。聞いている側は少しムズムズしますから」


「……手厳しい」



 ラスボス戦前にこんなことを考えるのは圧倒的なフラグな気もするが、この世界を経験して色々変われた気がする。

 命がかかっている毎日を過ごしたからって思われるかもしれないが、人間覚悟を決めれば何時だって変われるんだろうなと、この世界を過ごしてみて思った。


 もし上手く『女神』戦を乗り越えて、この世界を脱して元に戻れたら、その時はこの経験を得て進化した自分がいるんだろうなと思うと少しワクワクしてくる。



「……さすがに死亡フラグではある」



 俺たちの戦いはここからだッ‼


 

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『大罪の魔王』~『ガチャ』と『配合』、それは最弱から最強へと至る魔王道~ 山畑 京助 @kyoro2519

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