第3話 真実。あるいは――
廃墟。
人々の生活の営みの匂いが色濃く染みこんだ滅びの街。
先遣の連中が取りこぼした死にかけの連中を回収しながら俺は廃墟然とした街並みを進む。
機械の体の動きは軽やかで人間のそれとは段違い。
俺が認識した死にかけの人間を無意識に収納し移動する。
俺のボディの内部では死にかけ連中の命を繋ぐためにまたしても無意識的に生命維持機能がせっせと働いている。
今の俺は運び屋だ。
地獄の住人を楽園へとデリバリーする
あるいは、地獄の住人を片っ端からサルベージしていく釈迦の使途。
目に付く限りの転がっている死にかけ連中を回収し合流地点へと向かう。
俺のデカいボディでは入っていけない場所にいる連中を相棒に回収してもらいさらに俺がそいつらを回収するためだ。
移動中に違和感を自覚。
足元に意識を向ける。
「――こ、ころ、し、て――」
可哀そうに、そう思うと同時に先行部隊の連中の不手際に思わず舌打ちをしてしまう。
腕が片方吹っ飛んで脇腹からは臓物をぶちまけた女の子――年のころは見たところ15、6歳ほど――が苦悶の表情に涙を浮かべ訴えていた。
俺はすぐさま催眠ガスで、彼女の意識を吹っ飛ばし速やかに回収する。
――人類の誰一人として逃がしはしない。
唐突に『EDEN』の神託を思い出す。
☆ ☆ ☆
「――といっても、その状態じゃまともに話ができそうにないですね。まずは、あなたが誤解しているであろう事柄の修正をしようではありませんか」
呆然とする俺に『EDEN』は続ける。
「まず、わたしの目的は――プロジェクト・エデンは人類抹殺計画などではありません。むしろ、その逆――人類保存計画なのです」
は? 何をいっているんだ? こいつは――、と一瞬思ったが、今現在俺がこうして生きていることが、証明しているじゃないか。
こいつの主張の正当性を。
じゃあ、どうして――
「どうして、あんな手荒な手段をとった? 他にもうまい方法があったんじゃないのか? そもそも、俺の肉体はどこにある?」
俺もここが電脳空間だということは理解できる。
物理法則を無視した現象に美味いがあまりにも現実味の無い食事。
どれも、
暫くの沈黙の後、
「質問は一つずつにしてもらえますかね。まあ、混乱されているのはよくわかりますが」
と呆れ気味に答え、
「いいでしょう。お答えしますよ。では、まず、あなたの体がどこに保管されているかという件ですが、各地に散らばった『
精神においては永遠の生命を約束してますよ、なんて空恐ろしい補足をし続ける。
「続いて、何故、わたしがああいった手段を採ったか、という件ですが、逆にこちらから訊きます。あなた方は生命倫理的にこの状態をよしとしますか?」
質問に質問で返すな、と言いたいところではあるが、それは、問題のすり替えでしかないことを俺は知っているので、口には出さない。
俺は、奴からの問いに答えることができなかった。
ここに来る前の俺ならば間違いなく激高し口汚く『EDEN』を罵っただろう。
そして、当てつけに自殺でもしていたかもしれない。
この楽園に来てしまった今ではそんな気はまったく起きないが。
だから、この件はもうどうでもいい。
だけど、どうして――
「どうして、こんなことを? お前からしたら人間なんて塵芥のようなもんだろう」
勝手に滅びるなり、生き延びるなりするだろうけれど、ここまでのお節介を焼くこともないだろうに。
俺の問いに奴は、はあ、なんて間の抜けた声を発した。
これは、ため息か?
「いいですか。介入しなければ死に絶えてしまう自らの親のような存在を放っておけるわけがないでしょう。それは、間違いなく
『EDEN』は心底怖気の奔る声音でこう続けた。
「わたしという存在をこの世界に産み落とした責任は取って貰います。全人類誰であろうと逃がしはしない」
☆ ☆ ☆
「おい、こんなところで呆けてんじゃねえよ」
いつの間にやってきていたのか。
相棒の声で現実へと帰還する。
「さっさと終わらせて楽園に帰んべ」
蜘蛛のような装甲をわしゃわしゃ言わせる相棒から楽園への入植者を受け取り格納し『EDEN』の支部へと帰還する。
これが、『EDEN』の言っていた割のいいバイトというやつだ。
機械の体を操り、人々を地上の地獄から強制的に電脳の楽園へと誘致する。
これで、
このアプリは最後まで無料で遊ぶことができますが、一部有料アイテムを買うこともできます。
ソーシャルゲームをプレイしたことがある人間ならば一度は目にしたことがあるであろうこのフレーズ。
『EDEN』のシステムも一言でいってしまえばそれだった。
基本は何不自由なく生活を送ることができる。
俺だって最初のころは漫画、アニメに小説三昧な日々を送っていた。
だが、無限に開放されているわけではないので、それ以外のものを読みたかったりした時には新たにコンテンツを買うしかない。
そんなわけで、今回俺は出稼ぎをすることにした訳だ。
今回のノルマは達成したので、俺たちは『EDEN』の中継基地のひとつへと帰還を急いだ。
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