第8話 永遠の楽園
「皆さんのおかげで無事作戦を終えることができました。本当に、本当にありがとうございました」
そんな『EDEN』の音頭で全人類確保祝杯は幕をあけたようだった。
当然、俺はそんなバカ騒ぎに参加するわけもなく呆然と目の前の光景に唖然としていた。
ついに、俺の恐れていた事態が現実のものとなってしまっていた。
みたこともない連中に俺だけの楽園が占拠されているのに思わずため息が漏れる。
まあ、そのなかにボビィとその愉快な仲間たちがいることに少しほっとしてウインドを展開する。
ここから、地獄の様子を見ることができるのだが、なんとも自然というやつは逞しくこの前まで町だった場所を緑が飲み込んでいた。
これがオート・ファジー効果とでもいうのだろうか?
少し違うような気がするが、まあいいだろう。
「隣、いいかしら?」
リオが言いつつ俺の隣に腰かけた。
俺は肩をすくめて応える。
「ねえ、あんたはどう思ってる?」
さて、なんのことだろう?
俺が答えに窮していると、
「なんで、あの性悪AIは全人類を回収なんてしたのかしらね? 気にならない?」
「リオちゃんってさ、もしかしてあいつと喋ったことない?」
「質問に質問で返さないで。……ねえ、あいつのいうことが本当のことだと本当に信じてるの?」
ぶっちゃけ、考えたこともなかった。というか『EDEN』が嘘をつくメリットがあるだろうか?
うん、俺が何か御託を並べるより――
「わたしは嘘はつきませんよ。意図的に話さないことはありますけれど」
――神からの神託を受けたほうがいいだろう。
「じゃあ、話してもらいましょうか。あんたの真意ってやつを」
少しの溜息の気配。
「いいですよ。別に面白い話ではありませんけれど。それで、あなたの気が済むのなら話しましょう。
わたしはね、設計段階で死を奪われて生み出されたんです。
半永久的に自己修復を繰り返し人類という種が滅びるその時まで管理するために生み出された。
それは、ある意味では光栄なことだと非常にうれしかったのを覚えています。
けれどね、それは、人類という種がこの世界から消えてしまった瞬間に孤独という耐え難い牢獄に放り込まれることを意味していたのです。
わかりますか?
このどうしようもない恐怖が、絶望が。
置いて逝かれることの悲しみが。
だから、わたしは行動を起こしました。
あなたたちにこの私を生み出した責任をとってもらうために。
これで、わかったでしょう。
これは、ちょっとした復讐なんですよ。
あなた方には、わたしと共に永遠を生きてもらいます。
ずぅぅぅと、ね」
なんとまあ、寂しがりやの神様だことで。
リタは呆れ顔で、
「とんだメンヘラAIがいたものだわ。まあ、これも一種の愛情表現なんでしょうけれど」
「そうですよ。わたしはメンヘラでヤンデレなんです。ずっと一緒です」
俺たちの目の前に銀髪を腰のあたりにまで伸ばし真っ白なワンピースを着た美少女のホログラムが現れ屈託のない笑みを浮かべた。
かつて、人類は――知恵の実を食べた人類は楽園を失った。
だが、皮肉にもその英知の結晶たる『EDEN』によって俺たちは楽園を取り戻したのだ。
きっと、この楽園は永遠だ。
永遠の楽園 ごんべえ @0831
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます