第7話 救済

 あれから、一人で仕事をこなさなけれならなくなったが、今までが嘘のように作業は楽になった。

 『EDEN』の招集したチームが開発したナノマシンは本当に強力で今までが嘘のよう。

 連中の場合はもともと憩いの場パブリック・スペースにて研究していたらしいのだが、専門性が高すぎていつの間にか自分達だけの場所パーソナル・スペース化してしまったようで、この逆の現象が起こったりしないかと思うとなんとも末恐ろしいところではある。

 それは措くとして、くだんのナノマシン『CryptoLocker』について説明しよう(名称の由来は大昔に猛威を振るったコンピューターウイルスからとったらしい)。

 と言っても、話の半分も理解できていない俺には中途半端な説明しかできないが。

 地獄に散布されたナノマシン群が保護対象者の体内に侵入するとまず、免疫系統を滅茶苦茶に破壊する。

 これにより、免疫による拒絶反応を免疫ごと排除しナノマシン群が免疫の役割を担うことになる。

 そして、次の段階に移行。

 今度は神経系統を犯し――詰まるところ、下位運動ニューロンだけを攻撃し行動不能にしてしまう。

 この下位運動ニューロンだけを破壊してしまうのがミソらしい。

 上位運動ニューロンを破壊してしまうと喋れなくなったり呼吸ができなくなってしてしまうらしい。

 ここらへんが脊髄性筋萎縮症SMA筋萎縮性側索硬化症ALSの違いだと『EDEN』は言っていたが、俺は門外漢なので、パス。

 そうして、ここからが勝負になるのだが、動けなくなった連中を誘致部隊が速やかに回収していく、という段取りな訳だ。

 何が楽って、『CryptoLocker』が個々人の体内から居場所を発信してくれるので、誘致部隊はそれを頼りに楽々と回収していくだけの簡単なお仕事となっているのがありがたい。

 ただ、同時期にある宗教が地獄で発足したようで、『EDEN』が戦線恐々としている。

 その名も人理教。

 人のことわりのなかで自然に帰ることを教義としている宗教なのだが、仏教から派生したらしい。

 『EDEN』にとってなにが不都合かというと、人が母なる自然に帰るためなら手段を問わない、というものだ。

 どういうことかと問われば、話は簡単。

 自殺をも許容する、ということだ。

 どうやら、地獄の住人たちは『EDEN』の真の目的に気づいてしまったらしい。

 いくら、先行部隊の連中が滅茶苦茶をやらかしていたとはいえ、中にはしっかり仕事をこなす人間もいたようでそういう連中は回収しやすいように処理をしっかりしてくれていた。

 その行動パターンを記録にとって分析する奴でもいたのだろう。

 『EDEN』の目論見はある程度は看破されてしまった訳だ。

 その結果が、冗談じゃない、と言わんばかりの世界規模の集団自殺、というオチ。

 それを宗教化してまで、多くの人々に広めるに至るという最悪の事態になってしまった。

 最早、一刻の猶予も残されていない。

 という訳で、全世界的集団自殺から地獄の住民を救うため行動が開始されることになった。

 その、前段階に件のナノマシンが開発されたのは、僥倖というべきだろう。

 ……もう少し早ければボビィもああならずに済んだかもしれないが、IFを考えてもしょうがないので、今は仕事に集中だ。

 今回の俺の仕事は今までとは違い飛行ドローンを操作して地獄の住民の住処に『CryptoLocker』をばら撒いていく。

 気づいた連中に撃ち落されては堪らないので、狙撃阻害ナノマシンを一緒にばら撒いておく。

 この様はきっと大昔の合衆国ステイツの連中がベトナムの大地に枯葉剤をばら撒いた光景と同じに違いない、なんて馬鹿みたいに不謹慎なことを考えながら仕事を続ける。

 俺の仕事はもう一つ。

 猛攻に何度か追撃されそうになるのをスレスレで避けつつ進み施設内に侵入する。

 目当ては、その都市の主要な施設に設置されているスタンド・アローン状態の防衛プログラム。

 『EDEN』のアシストのおかげで楽々とインターフェイスを発見しすぐさま接続。

 すると、俺経由で『EDEN』がそのプログラムにハッキングを仕掛け滅茶苦茶にクラックして、誘致部隊が楽に侵入できる土壌を整え次の仕事場へ行く。

 そうした作業を繰り返し今回の俺のノルマは無事達成。

 お疲れ様でした、と『EDEN』の中継基地へと帰還する。

 今回の作戦でケリをつけると『EDEN』は息巻いていたので、これで最後の出撃なんだろうな、と複雑な心境で仕事を終えた。

 

 

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