永遠の楽園
ごんべえ
第1話 地獄の果て
楽園の話をしよう。
神話にのみ登場しこの地上に未だかつて一度たりとも顕現したことのない楽園。
それもそうだ。
だって、この地上を支配している人類は業の化身であって楽園には程遠い存在だから。
疑心と欲望と傲慢とその他諸々を煮詰めて出来上がった俺たちには、あまりにも相応しくない場所だから。
だから、地上に顕現するのはいつだって地獄で俺らにこそそこに相応しい。
だが、神は――機械仕掛けの我らが主神はそんな俺たちにも楽園を用意してくださった。
誰もが幸福を享受し自らの望むがままに暮らしていける楽園を。
ハロー楽園。
そして、グッバイ地獄。
☆ ☆ ☆
それは、ある日のこと。
流行りの
突如として強制終了させられ戸惑っていると緊急警報が鳴り響いていた。
俺は慌てて家を飛び出したが、蜘蛛みたいな
そこから、命がけの鬼ごっこがスタート。それこそ死ぬ気で逃げるはめになっていた。
ついに、『EDEN』がけしかけた機械仕掛けの化け物が住宅街を囲む防壁を破り雪崩れ込んできたのだ。
そして、周囲に広がるのは黙示録も真っ青な信じられないほどの地獄。
俺の命も風前の灯。
このどうしようもない状況に俺の頭は恐怖と絶望で支配されていたかというと実際はそんなことはなく自分でも驚く程に冷静だった。
俺が逃げているのはなんてことはない。
そこらへんで転がっている――まだ、うめき声をあげていて生きてはいるが一時間も経たずして死者の仲間入りを果たすことが確定している――連中のように無残な死体を衆目に晒したくなかったから。
事の始まりはこうだ。
全世界的に巻き起こった大規模なパンデミックから世界は一斉に発狂することを決意したかのように混沌へと転がりはじめた。共産主義を隠れ蓑にした帝国主義者の武力による現状変更は留まることを知らず、ついに世界は白と赤の二つに分断された。
アメリカと中国。
その二大国の世界をボードにしたゲームは熾烈を極めた。
じわじわとヨーロッパまで手を伸ばしてくる帝国主義者共をヨーロッパの各国と協力してなお拮抗を保つ民主主義の使途たち。
いよいよ、世界を滅ぼしてもいまだにお釣りでもう一度世界を滅ぼせるほどの核を打ち合おうとしていた目前にあっけなくそのボードゲームは終焉を迎えた。
中国共産党の支配体制が崩壊したのだ。
なんてことはない。
どれ程の圧政を敷こうが人間の心まで支配することはできなかったのだ。
中国国内で燻っていた反体制の連中がアメリカとの戦争で疲弊している隙を伺いついに武力蜂起してその勢いは瞬く間に中国各地に飛び火していった。
結局のところ連中は忘れていたのだ。
中国人の敵は何時だって中国人だという歴史を。
そんな訳で世界はもう一度平安を取り戻した。
この第三次世界大戦を切っ掛けに世界は協力して一つのシステムを構築し始めた。
プロジェクト・エデン。
つまり、民主主義の脆弱性と専制主義の凶悪性に人々は疲れ果てていた。
人が人を支配することに限界を感じ始めたのだ。
ならば、公平な如何なる人間も介入することのできないシステムの構築を世界は模索しそして実現した。
それが、全自立型AI『EDEN』だった。
かつてないほどに洗練された思考能力を搭載されたそれはまさに世界の希望だった。
欲望のままに行動する人間とは異なり、AIならば人類をより良い方向へと導いてくれるはずと世界は期待に胸を膨らませ『EDEN』の運用を開始した。
そして、『EDEN』が導き出した結論。
全人類の皆殺し。
現在に至る、という訳だ。
人類は散りじりになって第三次世界大戦の産物たる巨大シェルターに籠るようになった。
もう一度民主制を採用し、人々は新たな生活を始めた。
高い税金を払い安全を買っていたはずがあっけないもんだ。
個人的な感想を言わせてもらえば、人類全体で壮絶なブラック・コメディを演出しているようにしか思えないが現在進行形で殺されそうになっているこの状況をみればとてもじゃないが笑えない。
そして、ついに突きつけられる
肺は焼けるように痛み、咽喉はカラカラで潤いは一切ない。
俺の命もここまでのようだ。
振り返り手を広げて機械仕掛けの目を見つめる。
さあ、殺れよ。もうどこにも逃げやしない。いっそのこと一思いに殺ってくれ。
そんな思いを込めた一瞥を奴にくれてやる。
その刹那。
噴出されるガスと共に俺は意識を手放した。
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