翼の生えた人々と、彼らを保護する翼なき者達の一幕

突如として出現した、翼の生える人々『ウィンガー』。身体能力が向上する代わりに攻撃的になってしまう彼らを保護・管理するために、元自衛官の『桜木隼也』は対策組織に加入し、新人としてウィンガーに関わっていく……。
世界観が共通の他作品もありますが、ひとまず『独立した物語』という視点で感想をお送りします。

「もし翼の生えた人間が登場したら、世界はどうなるか?」というifの構想に、しっかり向き合っているのは好印象でした。各国の対応や世間の反応、警察との関係や保護の仕方など、どれもリアリティがあって没入できます。特に、ウィンガーであると発覚した本人だけでなく、家族や周囲の人間までもが好奇の目線にさらされる点などは、色々と考えさせられる描写でした。
そんな風に「本当にそうなるかも」と思わせてくれる、文章の下地もシッカリしています。最初から最後まで丁寧な文体や表現で綴られ、派手さはないものの堅実で高い基礎力を感じました。

ただ、逆を言うと淡々とし過ぎており、物語全体としての起伏や山場がなく、地味な印象を受けました。
キャラクターにおいても、優しく有能な上司に見えてどこか喰えない部分がある須藤は魅力的でしたが、それ以外の人物においては、強く記憶に残るほどの個性は伝わってこなかったです。

更に、『翼の生えた人間』をテーマにしているのなら、その『必要性』をもっと強調して欲しかったです。
言ってしまえば、ウィンガーが『炎を操る人間』だとか『獣に変身する人間』という設定だったとしても、今回の物語は別に破綻しないと思います。もっと言えば、題材を『不法移民』に変えても、内容は大して変わらないと感じてしまいました。
なので、そういったことではないのだと、『翼の生えた人間が主題でなければ成立しない物語』なのだ、という点を強く押し出す必要があったと思います。

とはいえ、文章力や物語を生み出す基礎は一定以上の水準にあると感じたので、あとは魅力的でオリジナリティのある作品テーマや、個性的なキャラクター達を活躍させれば、より多くの読者を楽しませることができると思いました。