残された日記

 ・いつもと同じ


 ・特になし


 ・普段通り


 ・特になし


 ・最近いつも笑い返してくれる人がいる。今度名前を聞いてみよう。


 ・ケンジ君と言うらしい。名前を呼ぶと不満そうな顔をした。試しにケンと呼ぶと少し微笑んでくれた。親しみがあった方が良いものね。


 ・ケンとたくさん話をした。ケンも大学生で、ギャンブルにハマったり、単位不足だったりで色々と大変なのだと言う。僕もそうだから、親近感が湧く……


 ・ケンが大学に行かなくなった。丁度その頃、ケンの友人だろうか、赤い人が僕の部屋に居座るようになった。悪い人じゃなさそうだが、狭いアパートなので、早く出てってもらいたい。


 ・近頃ケンがイライラしている。赤い人は部屋の隅で僕らを眺めるだけで何もしない。何なんだコイツは。僕はケンを宥めようとしたが、最後は掴み合いの喧嘩になってしまった。ここの所いつもこんな感じだ。


 ・どうやらケンは、赤い人に苛立っているらしい。何故なら、ケンもこんな奴知らないのだと言う。ケンは僕の知り合いだと思っていたので黙っていたらしい。僕だって知らない。明日、赤い人には出て行ってもらおう。


 ・赤い人は何も言わず出て行った。不気味な奴だった。ずっと部屋の隅で僕たちを見てやがって。しかし、ケンはまだ調子が悪そうだ。普段通りの満面の笑顔だが、よくよく見ると、顔はやつれているし、なりもかなり汚い。大丈夫だろうか。


 ・ケンと喧嘩をした。ケンは僕にここから出ていけと怒鳴った。それはおかしいだろ! お前が来たんだろ。 ケン! お前が出て行けよ!


 ・ケンはあれから塞ぎ込んだままだ。頭を抱え、震えている。助けてあげたいけど僕にどうしろって言うんだ。ただ見守る事しか出来ない。


 ・段々とケンに腹が立ってきた。いつまでも辛気臭い顔でうじうじしやがって。コイツよく見るとムカつく顔をしている。生理的に受け付けないと言うやつだ。何でこんな奴と一緒に暮らしているんだろうか。


 ・コイツはもう死ぬな。赤い人が去ってから風呂どころか飯も食わない。というかコイツはそもそも誰なんだ? 考えてみたら僕の知り合いにこんな奴はいない。


 ・知らない人が姿見に頭を打ち付けている。大きな破片が首に刺さったようだ。すごい血の量だ。窓の外に赤い人が立っている。何の感情も湧かないな。この人が死んだら僕はどうなるんだろう。もうどうでもいいや。




 鏡の前で「お前は誰だ」と1日1時間問いかけた大学生のケンジ君の日記。


 始めてから一ヶ月後、鏡に頭を叩き付け、割れた鏡の破片で喉を掻き切り絶命。


 赤い人の正体は分からない。

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一話一分ホラー短編集 瀧川 鯉舟 @rishuu

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