『エピローグ』
「「「ウルウェイ閣下バンザーーーーイ!! アレイス王国に栄光あれっ!!」」」
この世界を救いに行くとだけ言い残し、行方不明となっていたアレイス王国国王のウルウェイ・オルゼレヴ。
彼が帰還した一週間後、アレイス王国では凱旋したウルウェイを祝う
「話には聞いてたけど……すげぇなコレ。あいつ……元王様よりよっぽど王様らしいってどうなんだ?」
「しっ――。ラース様、
「ルルゥ。いいじゃないですかセンカちゃん。誰かが喧嘩を吹っ掛けてくるなら買ってあげればいいんです。ラー君に我慢なんてさせるくらいなら、そうやって喧嘩を売ってきた相手全員を消し飛ばした方がよっぽどいい。そう思いませんか?」
「思いませんけど!? そもそも、ラース様は自由過ぎるんですよっ! そのせいで今まで何度変な事に巻き込まれてきたか……」
「くすくす。大変ねセンカ」
「ルゼルスさんも他人事みたいに言ってますけどラース様ど同類ですからね!?」
凱旋パレードが行われている町の中。
俺たちは目立たぬようこっそりと凱旋するウルウェイの姿を見守る。
「しかし、意外だったな……。ウルウェイの事だから元居た世界に帰ると思ってたのに……」
「アレは責任感が強いもの。一度国王という役割を引き受けたからには最後までやり通さなければならない……なんて考えてるんじゃないかしら?」
――あの戦いの後。
意識を取り戻した糸羅の協力を得て、俺はボルスタインに命令して帰りたいと願うラスボス&主人公達を元居た世界に帰した。
大抵のラスボス&主人公は帰ったが、幾人かはこの世界に残ったままだ。
その内の一人があそこで民衆に手を振っているウルウェイ・オルゼレヴだ。
「リリィ師匠とコウさんもこの世界に残ったんですよね? でも、どこに行っちゃったんでしょう? リリィ師匠、『私たちはこの世界に残るわ』って言い残してすぐコウさんと消えちゃいましたけど――」
「センカ、あいつらの事は気にするな」
「え、でも――」
「気にするな……気にしちゃいけないんだ……」
例の如くリリィさんはコウを連れてどこかへと行方をくらました。
おそらく兄弟での結婚についてとやかく言われない亜人国に居ると思われるが……探す気にもなれない。
きっとあの二人は今も仲良くしているはずだ。
去り際のコウが助けて欲しそうな目で俺達を見ていたような気もするが……きっと問題ないだろう。
「なんにせよ、魔物も居なくなったし各国の関係もそこそこ良好になった。これでめでたしめでたし。ようやく俺達もゆっくり出来るな」
ペルシーが女王である魔人国。
健一が国王である亜人国。
ウルウェイが国王となった人間国。
そのどれもが自国を守りたいと願うだけで侵略の意志なんてまるでない。
長い間魔物という脅威に晒されていた各種族。
だからだろうか。国民を含めその根底に『守る』という意識が強く根付いているみたいだ。
各種族の差別などの問題もトップが解決する姿勢を示してるし、後は放っておいてもあいつらが良い感じの世界を創ってくれるだろう。
「ラース様ラース様。それなら家とか買うのはどうですか? 今までは移動が多かったからそんなの必要ありませんでした。けど、これから先はゆっくり出来るんですよね? ならあってもいいと思うんです」
「ルルルゥ♪ 私たちの家ですか。いいですねいいと思います。それこそ王城なんかよりもでっかーいお城を建てちゃいましょう。ラー君なら簡単ですよね?」
「お金なんかは有り余るほど持ってるし、いざとなれば魔術やら何やらでいけそうな気はするけどお城は建てないぞ? 第一、そんなことしたらそれこそウルウェイを信仰する奴らに因縁付けられそうだしな」
と、そんな雑談に花を咲かせていたのだが――
「くすくす、ゆっくり……ねぇ。本当にゆっくりなんて出来るのかしら?」
などと意味深に笑うルゼルス。
「おいおい……いきなり不安になるような事言わないでくれよルゼルス。大体の問題は解決しただろうが。魔物も居ない。人々もあんまり争わない。たまに反魔人運動とかしてる奴がいるみたいだけどそれは完全に国の問題だから国王さん達に任せておけばいい。――とくれば俺達がやらなきゃいけない事なんてもう何もありゃしないだろ」
それこそラスボスらしく世界征服に乗り出しでもするんならゆっくり出来る訳もないが、もちろん俺にそんなつもりも一切ない。今の世界の現状に俺とルゼルスはほぼほぼ満足しているからな。
従って、当面俺が動くような事態にはなるはずもなく――
ドガァァァァァァァァァァンッッッッッッッッ――――――
激しい倒壊音。
見れば近くにある何かの店が倒壊している。
そして、その壊れた店の奥から出てきたのは主人公である糸羅と……見るからに胡散臭そうなおっさんだ。
「――ふざっけんじゃないわよアンタ! 五回連続で丁なんておかしいでしょうがっ!! きっとイカサマよイカサマ!! 負けを認めてとっととお金寄越しなさいっ!!」
「いやアンタこそふざけんなよ!? 何いきなり俺の店壊してくれてんの!? 弁償してくれるんだろうなぁ!?」
「ハァッ? 何言ってんのアンタ? この糸羅さんの財布にお金なんてビタ一文ないわ。ついでに空腹で今にも倒れそうよ。だから残飯でもなんでもいいからくれると嬉しいわ。そうしたら今日の所は私も潔く負けを認めるし、今日だけアンタに感謝しといてあげるわ」
「えぇ!? だ、だってアンタ……胸を張りながら『賭け分は後払いでお願い』とか賭けの前に堂々と言ってたじゃねえか……。あ、もしかしてアレか? どこかに預けてるから今は手持ちがないだけとか……」
「ふふっ――。この糸羅さん……お金を預けるなんて真似をしたことは一度もないわ。ついでに宵越しのお金も持たない主義なの。お金は……人を醜くするもの」
「いや真面目そうな顔して何言ってんの!? さっきまで『半っ! 半っ! 半っ!』って叫びながら客の誰よりも前のめりになってただろうが。それで金は人を醜くするとか言われても……」
破天荒な糸羅に対し、胡散臭そうなおっさんがまっとうすぎるツッコミを入れる中――
「えぇっと……少しいいか?」
俺は主人公である糸羅と丁半博打の胴元となっていたらしいおっさんの会話に横から割って入った。
「なんだぁアンタ……こちとら遊びじゃねぇんだ。きっちりそこの女にケジメつけて貰わねえとなぁ……」
「ハッ――! やれるもんならやってみなさい。こう見えて私は常に借金取りから追われる身。追ってくる借金取りが一人や二人増えた所で今更怖くなんてないわっ!!」
マジかよ……。
あの戦いからまだ一か月も経っていないはずなのに……もう借金取りから追われるようになったのか……。
まぁ、それに関しては今はおいておこう。
「センカ」
「はい」
センカは自身の影の能力をこっそり使ってその中から銀色のアタッシュケースを取り出し、俺に手渡してくれる。
俺はそれをそのまま胴元の男へと放り投げ、こう尋ねた。
「――彼女が負けた額と店の修繕費ってそれくらいで足りるか?」
「は? うおっとっと」
突然投げられたトランクケースを受け止め、男は訝し気にしながらその中身を開ける。
そこには――
「なっ!? これは……本物か?」
ビッシリと敷き詰められた金貨の山だった。
しめて一億ゴールド。俺の財産の一部である。
「足りないか?」
「い、いえいえいえいえ。そんな事は全然ありませんとも」
「ならもういいよな? 俺はこの女に少し聞きたいことがあるんだ」
「か、畏まりました。へ……へへっ……では私はこれで――」
そう言って卑屈な笑みを浮かべて壊れた店の奥へと引っ込むおっさん。
俺に『やっぱ返せ』と言われない為だろうか、ヤケに素直だった。
「さて――それじゃあ糸羅。話を聞こうか……どうして――」
そうして俺は今まで気になっていた事を糸羅に聞こうとするのだが。
「カッコイイお兄さん……この可憐なる私の為に尽くしてくれてありがとう!!」
「は? ……あ、ああ」
なぜか媚びを売ってくる糸羅。
正直……微塵も似合っていない。
「見ず知らずの私の為にあんな大金ポンと出せるなんて……さてはアンタ私に惚れたのね?」
「はぁ?」
誰が万年金欠のギャンブルジャンキーのこいつに惚れると言うのか。
そもそも、さっきの場面を見せられてどう好きになれと? そこら辺、問い詰めたい気分である。
それに見ず知らずも何も俺はこの世界で糸羅の事をペルシーやアリスの次に理解していると自負して――――――んん?
「まー仕方ないわよ。私ってば完璧超人なお姉さんだものね。でも、ごめんなさい。私、そんなにお安くないの。だからそうね……私に毎月百万円……じゃなかった。百万ゴールド貢いでくれるのなら考えてあげるわよ。私をどうこうしたいのならそれくらいの甲斐性は見せてもらえると期待していいのよねぇ?」
指で輪っかを作りながら貢げと堂々と言ってのける糸羅。
そこで確信に至る。
こいつ――俺の事を完全に忘れてやがる!?
「いや、貢がないから。っていうか俺だよ俺。ラスボス召喚士のラースだよ」
「ラスボス召喚士? ……あぁっ!! アンタは――」
――ふぅ。ようやく思い出したか。
「アンタは……一体何者?」
「もういいよ忘れたままで」
想像以上の鳥頭だった。
一々自己紹介しなおすのも面倒なのでこのまま続ける。
というわけで、俺は彼女を見た時からずっとい気になっていた事を聞いてみた。
それは。
「アリスはどうしたんだ? お前ら一緒に行動してたはずだろ?」
そう――アリスの所在だ。
あの戦いの後、アリスはここに居る糸羅と共に遊びまくる旅に出ていたはずなのだ。
主人公付き添いなら問題も起こらないだろうと思っていたのだが……見た感じ今は一緒に行動していない様子。
一体なぜ――
「アリス……アリス……あっ……いっけね、忘れてたわ」
「――おい」
たまたま今は分かれて行動しているとかじゃなく、純粋に忘れ去ってしまっていただけだったらしい。
「だって……しょうがないじゃない。この世界ってまともなカジノがないんだもの。だからアリスにそれを作ってもらってるのよ。宝石で彩られたスーパーウルトラシャイニングカジノをねっ!!」
なんだそのださいネーミングのカジノ。
そもそも、宝石で彩るのに関してはノーコメントだが、それを全部あのアリスに任せる辺り何もかもがおかしいだろ。
「でも、その間は暇でね……だから買い出しついでに遊んでたらアリスの事すっかり忘れてたわ」
「なるほど……つまり主人公であるお前は何をしでかすか分からないアリスを放って遊びまわっていたと……」
「ふふんっ! そう言う事になるわね!!」
胸を張って堂々と答える糸羅。
こいつダメだ。早く何とか……いや、無理だな。こいつはこんなキャラクターだ。もう放っておこう。
「はぁ……ったく。心配だから一応俺も様子を見に行くか……」
そう決断する俺にルールルはくすくすと笑い。
「くすくす。ほらね? この世界には厄介なラスボスやら主人公やらが居るんだもの。こういうトラブルが起こらない訳ないじゃない」
などとしたり顔で言うルゼルス。
「いやいや、ちょっと様子見に行くだけだろ……なぁ糸羅。お前もうアリスの所に戻るんだろ?」
「ええ、勿論よ。もしかしたら巨大カジノが建設されてるかもしれないもの。一番目の客は私よっ!」
どこまでもズレた回答を出してくれる糸羅。
そんな糸羅にもう突っ込むまいと自分を律し、俺は彼女に頼みごとをする。
「じゃあ俺達も連れてってくれ。お前の瞬間移動ならすぐだろ?」
「!? 私の瞬間移動を知ってるなんて……さては私の熱狂的ファンね?」
「いや、そういうのいいから。アリスが建設してるっていう巨大カジノ? その場所に俺達を飛ばしてくれ」
放置してアリスが何かやらかすようになったら面倒だしな。
一人気ままに過ごすアリス……これだけで既に怖い。様子は見に行くべきだろう。
そして――
「仕方ないわねぇ。アンタには借りもあるしいいわよ。さぁ……みんな行くわよっ!!」
そうして俺達の短くなるであろう新たな旅が今――
「――――――あら? 場所……ド忘れしちゃったわ」
「――おい」
「仕方ないわね。こうなったら……諦めるわ」
新たな旅が……始まらなかった。
「くすくすくすくす。これは困ったわねラース。どうする? アリスの事は放っておくのかしら?」
「いや……さすがに放っておけないだろ……。糸羅と居れば問題ないと判断して送り出したの俺なんだから。まさかここまでポンコツとは思わなかったけど――」
「そうよね。それじゃあ……地道に聞き込みなんかしたりしてアリスを探す旅をするしかないんじゃないかしら?」
「――マジで?」
「もちろん、嫌なら嫌で私はいいわよ? その代わり、どうなっても知らないけれどね。くすくすくすくす」
ルゼルスは……相変わらずズルイ。
そうな風に言われたら行くしかないだろうが。
「――仕方ない。行こうかみんな……まーた面倒な旅の始まりだ」
そういってルゼルス、センカ、ルールルの三人に新たな旅の始まりを告げる。
魔物も居なくなってる事だし平和な旅になるだろうと思いたいところだが……幸先からして怪しいのでちょっぴり不安である。
「はぁ……仕方ないですね。ラース様の近くに居て平穏な日々なんて過ごせる訳ないですもんね……。分かってましたよ……」
ぼやくセンカ。結果が結果なので当然俺は何も言い返せない。
「ル・ル・ルゥ。波乱万丈上等です。ラー君が行くところにルールルあり。どこへでもずーーーーーーーーーーーーーーーーーっと付いていきますからね?」
俺の意見を全肯定してくれるルールル。相変わらず愛が重くて怖い。
そして――
「くすくす。本当にあなたといると飽きないわねラース。さて……今回はどうやって私を楽しませてくれるのかしら? とっても楽しみ。ええ、楽しみだわ。くすくすくすくす」
これからも変わらず飽きない事が続くと信じて疑わないルゼルス。
俺はそんなルゼルスの手を握り。
「さぁ――行こうか」
そうして俺達は新たな旅に出るのだった――
「さて、それじゃ私は新しい賭場にでも行こうかしらね。ここまで負け続けたんだもの。次は――勝つ!!」
「お前も来るんだよ糸羅ぁ!! アリスはお前の相棒だろうがっ! きっちり案内してもらうからな。当然、旅の間はギャンブルなしだ」
「なっ――。やめなさいよっ! この……私が本気を出せばどんな奴からだって逃げられるんだからね!?」
「知ってる。だから逃げてもいいぞ。ただ……その時は全賭博場にお前の顔写真回らせて出禁にしてやる。ついでにお前の現状をペルシー達にちくってやる」
「んなっ!? 出禁!? そんな……ギャンブルできないなら私はどうやって生きていったらいいのよ。一昨日から何も食べてないんだからね!?」
「ギャンブル中毒過ぎる……。ちなみに俺達に付いてくるなら一日三食付いてくるしお前が望むなら給金を出してやっても――」
「さぁ社長行くわよっ!! ほらハリーハリー。アリスは亜人国のセレッタって町に居る気がするわ。それとこれは特に関係ない話なんだけど、そこには美味しいと評判の高級焼肉店があるみたいよっ!」
「……お前のそういう所、ある意味尊敬するよ。別に寄り道がてら行ってもいいけどしっかり働いてもらうからな?」
「任せときなさいっ!」
こうして新たな仲間? が加わり、俺達は再び旅に出るのだった!!
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