第30話『茶番』


「終わった――か」



 完全に消え去ったサーカシー。

 そして未だに笑い続けるボルスタイン。


 それらを尻目に、ようやく終わったのだという実感を得る。



「そうね……見てラース。あれ」


「ん?」



 ルゼルスが指さす先を見る。

 そこにはサーカシーに敗れ去った主人公&ラスボス達の姿があった。

 全員ぐったりとした様子で倒れている。


「サーカシーが消えた事で彼の拷問も強制終了したようね……。全員気を失っているけれど無事みたい」



「ヴァレルさんに七輝さん……それに信吾さんに糸羅ちゃんっ! みんなよく無事でっ――」



 倒れている主人公達に駆け寄るペルシー。



 そんなペルシーの姿を見てると、本当に変わったなぁと思わされる。無論、とても良い方向にだ。



「それに比べて俺達ときたら……ラスボスだから悪なのは仕方ないにしても――」


「ルルルルゥ♪ 異議ありです。ラスボスである私、新生ルールルはもう愛に生きる女。そんな悪だとか正義だとかちゃっちぃ事には囚われないんです。強いて言えばラー君が悪に走るならルールルも悪に走る。ラー君が正義に走るなら正義に走る。ラー君がどこへ行こうともルールルは着いていきますよ? 例え地の獄でも……きゃっ」


 俺のぼやきに目ざとく反応してくるルールル。

 「きゃっ」とか言って恥ずかしがっている所悪いが……ちょっと重いんだよなぁ……。口が裂けてもそんなの言えないけど。



「いや、ルールルはいいよ。というか正直、お前が居なかったらどうにもならなかったと思う。だから――ありがとな」


「ルルルルゥ♪ どういたしまして……です♪ 頭を撫でてくれてもいいんですよ?」


「へいへい」



 ルールルのそのピンクの髪を犬でも可愛がるように雑に撫でまわす。

 そうやって雑に撫でれば当然、ルールルの髪は乱れるがこうやって雑に撫でられるのが彼女は好きらしいのであえてそうしている。




「しかし――終わってみれば殆ど茶番だったなぁ……」


「くすくす。いきなりどうしたのよラース。茶番だなんて……みんな散々苦労したのにそれは少し酷いんじゃない?」



「いや、実際茶番だろ。今回の黒幕含め、やらかしたのって大体ラスボス達だぞ。つまりは――」


「――ああ、言われてみればそうね。くすくすくす。やだ面白い。やりきった後だと言うのにどこか浮かない顔をしていると思ったらそんな事を考えていたの? 本当にあなたときたら……くすくすくすくすくすくす」



 そう……茶番なのだ。

 なにせ、この世界が崩壊する云々の元凶は元を正せばボルスタインのせいだった。

 その為に俺達は奔走させられ、その挙句主人公達に惨敗。


 そうして退場間際、ペルシーや主人公達の強引な舵取りによってなんやかんやで封印されていたサーカシーと最終決戦を繰り広げるハメになり。

 そのボルスタインとサーカシーをどうにかして――今に至る。


 文句ないくらいのハッピーエンドとはいえ……騒動を起こしたのが全員俺が召喚したラスボスだというのだから素直に喜べるはずもない。

 なにより――



「なぁルゼルス……一連の顛末てんまつをセンカに知られたらどうなると思う?」


「どうなるって……馬鹿ねラース。そんな事、気にするまでもないじゃない」


「ああ、やっぱ怒られるの確定だよな……」



 俺が好き勝手にラスボス達を召喚した結果、召喚者である俺自身に被害が及ぶレベルでラスボス達が暴走して今回の事件に至った。

 そんな風にセンカは取るだろう。

 実際、全く持ってその通りである。言い訳のしようもない。


 それを思うと頭が痛くなる。


 しかし、意外な事にルゼルスは首を横に振り。


「くすくすくす。何を言っているのラース。私が言いたいのはそういう事じゃないわ。純粋にそんな事をわざわざ気にする意味なんてまるでないと言っているのよ」



 くすくすとおかしそうに笑いながらそんな事を言う。



「それって……もしかしてセンカが怒ろうが何しようが気にせず無視すればいいって事か? いや……さすがにそれはなぁ……。年下相手に何を言ってるのかと思うかもしれないけど、怒ってるセンカには本能的な何かが逆らっちゃいけないって警告を発してるんだよ。言ってみれば鬼母に叱られる子供の心境と言うか……鬼嫁に従うしかないか弱い夫の心境と言うか……なんて言えばいいのかなぁ」



 などと、くだらなすぎる会話に興じていると――



『ふふ、ふふふふふふふふ。ラース様……センカの事をそんな風に見てたんですねぇ? そうですかぁ……鬼ですかぁ……』



 今もっとも聞きたくない女の子の声が聞こえた……気がする。

 それも、すごくハッキリと聞こえた……気がする。



 そうして突如背後に現れる存在感。

 恐る恐る俺が振り返る中、ルゼルスは口を開く。



「センカが今の話を聞いてどう思うのか……そんな事考えるだけ時間の無駄よ。なにせ、当の本人が既に聞いているんだもの」





 かくして。

 全てが丸く収まった今日という記念日の最期を彩るかのように。

 断末魔の如き俺の悲鳴が辺りに響き渡るのだった――



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