最終話 これから
飯野さんとのショッピングから一夜明け、寝不足気味の俺は屋上に立っていた。
もちろん、告白をしっかりとするため。
彼女には彼女と同じくらい迷惑をかけてしまった。
今は待ち合わせの三分前。誠意を見せるため三十分前から立っている俺の足は限界に近い。だがこんなのこれからすることに比べれば何とも無い。
俺が深呼吸をしていると扉がギィーと音をたてて開いた。
◆◇◆
私は今屋上にいる。
屋上にある花壇の影にしゃがみながら。
覗き見は悪いことだって知っているけど、もう、迷ってうじうじするのは嫌だから。
隼人君は私のときと同じように三十分前からずっと立っている。そんな姿が好きで、憧れるようになったんだ。
今は三分前、咲ちゃんの性格ならそろそろ来るはずだ。
私は心を整える。もう迷わない。
これから私がやることでどんなに学校から否定されても、彼から………本当は嫌だけど嫌われてもいい。
絶対に告白する。
その時ドアがギィーと音をたてて開いた。
◆◇◆
「私を呼び出して、なに?何の用?」
「君に伝えたいことがあるからここに呼び出させてもらったんだ。まず二つ。突然呼び出してゴメン。そして、来てくれてありがとう」
新井さんは腰に手を当てながら俺のことを見てくる。
背は飯野さんよりちょっと低い。でも明るい茶色のショートボブで誰よりもうまく制服を着こなしている目の前の彼女はそれを補って余りあるオーラを出していた。
贔屓目に見なくても全然かわいい。ちょっと乱暴っぽいけどそれは彼女の外骨格みたいなものなんだろう。俺はこの女の子にも嘘を、巻き込んでしまった。本当に………不甲斐ない。
俺を少し見上げている新井さんに目を合わせて俺は思いっきり深く頭を下げた。
「ごめん、俺、好きな子がいるんだ。その子に告白しようとしたとき、とっさに君の名前を出しちゃって。もしかしたら嫌な思いをさせてしまったかもっておもって」
「そ、それだけのことで?」
「そうなんだ。これは俺のけじめみたいなものだ。これだけのために、俺のくだらない意地のために君の貴重な時間を浪費してしまったことに対しても本当にゴメン!」
「……フフッ。別に、気にしていないし。ていうかマジだったらどう断ったらいいか迷っていたところだったからちょうどよかったわ」
「それは………。どんなことでもなんでも一つ君の言うことを聞く。それで手を打ってくれないか?」
俺がそういうと、新井さんは、えぇ〜めんどさい、と言いながら俺の肩を叩いた。俺は首を上げて彼女の顔をみる。
彼女は笑っていた。
「じゃあ、面倒くさいし、一つだけ。もう、告る相手にごまかさない。今日みたいにそれがお前の意地の問題だけじゃなくなっちまうからな。その二人に対しても迷惑がかかるんだよ」
「ああ」
「それに、お前が言ってるの、栞のことだろ?」
「………えっ?」
「知ってんだよ、私。いつも私達の方の席見てたでしょ?私が動いてもその視線途切れていなかったからそうなのかもな〜って」
「えっ、マジ?………俺クソキモいじゃん」
告白ごまかして、普段から飯野さんの方向ばっか見てて……何してんだよ俺。
新井さんが悶絶してる俺のことを笑ってくる。
「あいつ、かなり落ち込みやすいし思い込み激しいし……、こんな私なんかと友達になるやつだから」
新井さんが俺のことを見据えてくる。その目はとても真剣だった。
「傷つけたりしたら許さないから」
「…………っと……」
彼女は俺の胸を叩いて今度はニッと笑みをつくる。
「ハハッ、だからもうこんなくだらない嘘なんかつくなよな。……早くあいつのとこ行けよ」
「……ありがとう」
そう言うと彼女は後でパンおごってくれればいいやと言って手を振って歩いていってしまった。俺は頭をさげたまま見送る。
心が少し軽くなった気がした。
俺も屋上から出ようと思ったその時、
「キャッ」
昨日、ずっと聞いていた、そしてこれから聞きたかった声がすぐそばから聞こえてきた。
◆◇◆
聞き間違いかもしれない。
今、隼人くんなんて言ってた?
驚いて飛び出すタイミングを逃してしまい花壇の影に隠れたままになってしまった。
『好きな子に告白しようとしたとき――』
それって―――
「キャッ」
ずっと中腰の姿勢だったからか驚いたからかよろけてしまい、尻もちをつく。思わず声が漏れてしまった。
顔をあげると驚いた顔の隼人くんが私を見ている。
「あっ、あーー」
「あの、ごめん……。盗み聞きするとかそういうのじゃあ……ううん。ごめんなさい」
彼はどうしたものかと悩んいるみたいで頭を掻いている。
それはそうだろう。告白の瞬間を見られたんだから。
怒られても仕方がない。そう覚悟したとき彼は手を差し伸べてくれた。
◇◆◇
「ほら」
尻もちついている飯野さんに手を差し伸べる。
彼女は戸惑いながらも手を握ってくれた。俺はそのまま引き起こす。
多分怒られるとか、そういうことを思っていたんだろう。でも怒られるべきは俺の方だ。
「えっと……聞いてたよね」
俺の問いかけに彼女は小さくうなずく。俺は覚悟して大きく息を吸い込んだ。
「あの!俺、本当は」
「まって!」
――駄目か。
潔く諦めるしかない、そう思ったときだった。
飯野さんは俺に背を向け屋上の手すりに向かって歩いていく。
「隼人くん。私のお願い聞いてくれるかな」
「えっ?」
「今、そのお願い、聞いてもらっていい?」
そう言って振り返った彼女はとても美しかった。
頬は紅潮して、瞳は心なしか潤んでいる気がする。俺は思わず生唾を飲み込んでしまった。
昨日耳打ちされたお願いはとても簡単なものだった。
【私に大切な人ができたら今度は隼人くんが相談に乗ってね】
その一言。そう言って彼女は笑ったんだ。
それを今言うってことは―――
俺はしっかりうなずいて彼女の目を捉える。
「私、大切に思っている人がいるの」
◇◆◇
口から出てきたのは今まで全然言うことができなかったこと。
どうして今この瞬間出てきたのかはわからない。いや、多分どこかでわかっているんだ。
「その人はね、いつも優しくて、私にとっては頼りがいがあって、みんなにはそう思われているかわからないけど」
「………」
「私にとってはヒーローなんだよ。私が困っていたときは必ず助けてくれるの。不良のときも、ナンパのときも、いっぱい」
「……そっか」
「だからね――」
「好きだ」
息が止まる。
私が言おうとしていたことそのまま彼が言ってくれたから。
彼の目は真剣で、それでいてあたたかい。
「飯野さんが、好きだ」
◇◆◇
風に感謝しないといけない。
俺の顔の熱を取り去っていってくれるから。
飯野さんの顔は……見えなかった。あまりにも近すぎて彼女の頭しか見えない。
彼女の甘い匂いが俺の鼻腔をくすぐる。でもそれが心地よかった。
俺の腹部からくぐもった声が聞こえてくる。
「ずるいよ、隼人くん」
「うん」
「私のお願い聞いてくれないじゃん」
「ごめんね」
「何でも叶えてくれるんじゃなかったの?」
「そうだね」
「………」
「………」
「…………私も好きです」
「俺と付き合ってください」
「………」
「………」
「………」
「…………はい」
「……フフッ」
「ククッ……」
「「ハハハハハハ」」
何もおかしくないのにおかしくて、どうしようもないほど嬉しくて。
俺たちは屋上で笑いあった。
◇◆◇◆◇
「どうして私のこと好きになったの?」
「昨日ご飯のとき言ったでしょ」
「聞き足りない〜」
「じゃあどうして飯野さんは俺のこと好きになったの?」
俺の彼女は少し不機嫌そうに頬を膨らませ上目遣いで俺を見てくる。
少しの沈黙の後彼女は口を開いた。
「それは――――」
その時の笑顔は今までのどの笑顔よりも最高に輝いていて、最高にかわいかった。
Fin
―――――――
ここまで読んでくださった方々どうもありがとうございます。
正直もっともっと二人を書きたかったのですがニ万文字という制限の中このようになりました。楽しんでいただけたなら幸いです。
お読みいただきありがとうございました!
恋愛相談から始まるラブコメ 大官めぐみ @ookei
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