体内時計だけが頼りの世界
ちびまるフォイ
時間を知る方法
ぴちょん。
ぴちょん。
「……ん」
布団をはいで水音のする方へいくと、蛇口から漏れる水がシンクを濡らしていた。
取っ手をキツめに閉めても蛇口から垂れる水は止まらない。
「なんだよこのゆるゆる水道……」
明日になったら工事を呼ぼうかと思って布団に戻った。
次に目が覚めるとカーテンから見える外は真っ暗だった。
「ふあぁぁ……結構寝た感じだけど、まだ夜なのか」
スマホの電源を入れると前に時間を見たときから1分たりとも進んでない。
壊れたのかと思い、PCをつけてみても同じ時間が表示される。
放送されているテレビ番組でおおよその時間を知ろうと思ったら、
緊急ニュースがやっていて時間は把握できなかった。
『繰り返します、先ほど太陽が原因不明の黒色化が起きました。
太陽の光が届かなくなり、またその影響であらゆる時計が止まりました。
専門家と第三者機関とPTAが連携してツイッターから対策を募集しています』
「まじかよ……それじゃ今何時なんだ」
カーテンの外では街頭がずっとついている。
すごく寝た気がするのでおそらく朝だとは思うがそれもわからない。
「でもよく考えたら時間がわからないってことは、
誰も今が明日かどうかわからない。まだ休日ってことにできるんじゃないか!?」
エンドレス休日の到来にむしろ心はハッピーだった。
もともとが夜型人間なので、太陽の明かりがなくてもへっちゃら。
溜まっていたゲームを遊びまくって、アニメを見まくる悠々自適な生活がはじまった。
それでも、一応自分の中で時間間隔があったほうがいいと思い
自分なりに1日を換算して眠って起きたらカレンダーに×をつけていた。
「今日は5月24日だな。うん、そうに違いない」
人間には体内時計がある。時計なんかなくたって平気だ。
時計なんかあるからむしろみんなセカセカするようになったんだ。
「きっと昔の人間はこんなふうに自由に生活していたんだな」
現代のしがらみから解き放たれた暗闇人生も悪くない。
体内カレンダーで数日が過ぎた。
ふと、鏡で自分の顔を見たときだった。
「……こんなに痩せてたっけ」
鏡に映る自分の頬はへこんでいて、ずいぶん老けたように見える。
「おかしいなぁ、ちゃんと3食食べてちゃんと寝ているのに。
それに最近は運動もしているのに痩せることなんてないはずだ」
なお健康を意識して過ごしても、ますます自分の姿は痩せるばかり。
もっと寝たほうがいいのかと寝てみても効果はない。
食べる量を増やしても改善しない。
太陽の光が届かなくて人間の体に悪影響があるのかもしれない。
そう思って、太陽光ランプを買って浴びてみても効果はない。
「どうなってるんだ。俺はなんで痩せてるんだ……」
洗面所で頭をかかえていると、蛇口からまた水が垂れる。
ぴちょん。
ぴちょん。
「ああクソ! いいかげんにしろよ!!」
蛇口を腹がたったので蛇口をぶっ叩いた。
明日は病院へ行こうと布団に入って眠った。
起きて、おそらく明日になったので近所の病院へやってきた。
扉の前には1枚の張り紙があった。
『院長が起きていれば診察を受けます』
「はあ!? なんだそのアバウトな時間は!」
扉はしまっていることから院長は眠っているのだろう。
病院の周りには病気の人達がたむろしている。
「みなさんいつからここにいるんですか」
「そんなことわからんよ。もう1年以上待った気もするし、
数日しか過ぎてないような気もする」
「そんな……」
ここでずっと待っていても院長がいつ起きてくるのか。
誰もが体内時計狂っているので、タイミング合わなければ一生治療できないかもしれない。
家に帰ると水を飲んでいったん落ち着いた。
「こうなったら自分しか頼れないぞ……」
妙に体は重く感じるので明日に再度病院へ訪れることを決めて布団に戻った。
きっと目が覚めたら明日になっているだろう。
目が覚める。
当たり前のように洗面台に行って顔を洗おうとすると、
昨日シンクに置きっぱなしにしていたコップに水が溜まっていた。
蛇口から落ちてくる水がコップに入っていたのだろう。
「こ、こんなに水が溜まってる!?」
せいぜい数時間だと思っていたが、
水がコップからあふれるほどの時間が経過しているなんて。
ぴちょん。
ぴちょん。
蛇口からこぼれる水の感覚を体内時計で何秒かかぞえる。
自分の数時間はすでに数十時間になっている事に気づいた。
「俺の体内時計……いつからこんなにズレてたんだ……!?」
蛇口から垂れる水の感覚で自分のズレ具合を悟って絶望した。
ズレを認識したことで、体の不調の原因もわかってしまった。
1日3食食べているつもりでも、1色の間には数十時間も過ぎている。
実際には1日1食程度しか食べていないのと同じだった。
そのくせたまに運動するからエネルギーは足りなくなる。
何十時間もほぼ寝たきりのような状態だから筋肉量は落ちて体は重くなる。
「このままいくとやばいぞ!」
俺はだるい体にむちうってホームセンターへ向かった。
カゴに詰め込まれた謎のラインナップを見て店員はくびをかしげた。
「こんなものを買って、いったい何をするんですか?」
「水の時計を作るんです」
「はぁ!?」
買い込んだ材料を使って外で組み立てをはじめる。
まるでピタゴラスイッチの装置を作っているような気分だ。
一定以上の水滴がたまって水があふれると、
ししおどしの容量で水がこぼれて時計の針をすすめる。
これで自分の水時計ができるので、寝すぎたときはアラームが鳴る。
「これで体内時計を戻して健康に戻れるぞ!!」
完成した水時計をもって家に入った。
セッティングを終えて最後に蛇口へと器具を装着した。
わくわくしながら時計の針を眺めているときだった。
ポストに1枚の紙が入っていることに気づいた。
『水道工事が完了しました。これでもう水漏れはしません』
体内時計だけが頼りの世界 ちびまるフォイ @firestorage
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