1-7

 結局、南京錠の解錠は叶わず、別の通用門からカイリたちは学校に入った。

 こんなことは前代未聞らしい。先生たちは、かんかんに怒っていた。

 けれど、一時間目の授業は十分遅れただけで通常通りにはじまり、いつもの退屈な日常にカイリはため息をつく。


 国語に算数、理科、社会。どれもこれも、将来なんの役に立つのだろう。


 二時間目までは真面目にノートを取っていたカイリだが、三時間目の社会で離脱し、四時間目にはすっかり興味を失っていた。

 カイリは念仏を唱えるように授業を進める教師から視線をはずし、窓の外を眺める。


 梅雨は天気が変わりやすい。


 朝晴れていた空は、いつの間にか鈍色の雲に覆いつくされていた。雷鳴がかすかに聞こえたと思ったら、窓ガラスを大粒の雨粒が叩きはじめる。

 規則的な雨音は、教師の念仏と混じり合って、カイリを眠りへと誘った。


 つかの間、カイリは夢を見た。


 ヒーローになって、悪い奴をコテンパンにやっつける夢である。この世界には悲劇がたくさんあって、その全てが起こらないようにカイリは大活躍していた。


 あまりに良い夢だから、目覚めた瞬間、現実とのギャップに落胆してしまったほどに。


「給食だぁぁぁ」


 そんな声で、カイリは目覚めさせられたのだ。

 肉付きの良い体を揺すって、カイリの前の席に座るクラスメイトが、白い割烹着に着替えている。


 今週は、カイリの班が給食当番だった。

 給食当番は同じ階の給食センターまで行って、クラス全員分の給食や食器が乗ったカートを引き取って、みんなに給食をよそるのが仕事である。


 仕事が遅れれば、その分、食べる時間も休み時間も減る。

 カイリも慌てて白い割烹着に着替えていると、クラス担任の愛子先生が教室に入ってきた。


 愛子先生は教師になって三年目の若い先生だ。


 柔らかそうな栗色の髪は、肩まで伸びてふわふわで、ウェーブがかかっている。いつも綺麗にお化粧をしていて、お洒落だ。今日は白いブラウスと、光沢のある生地のスカートを身に着けている。

 愛子先生は髪をかきあげ、少しやる気のない口調で話しだした。


「はい、みんな~、給食の前に、お話しがあります! 朝のいたずらの件です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法使いは呪われたまま、みゃあと鳴く 本葉かのこ @shiramomo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る