第604話 火口の中に潜む者達
さて、ニンジャのサードクラスが手に入らなかったのは残念であるが、ダンジョン内で長々と考察を続ける訳にもいかない。折角、空の魔物を一掃したのに、ぐずぐずしていては魔物が
マナポーションを追加で飲み、特殊アビリティ設定やジョブを変更、更にヴァルキュリア2人を再召喚する。ここから頂上の火口まで中州が見当たらないので、一気に登らなくてはならない。小休止を切り上げて、再び溶岩の川へと足を踏み入れた。
上に行く程に勾配がきつくなる。これ、溢れる溶岩で山肌が見えないだけで、本当は登山道がある筈なんだよな。なにせ、火口に行くのが正規ルートなのだから。
溶岩の川のせいで、ニンジャの〈壁天走り〉も効果を発揮しないようであるし……途中から手も使って登り進めた。
途中でリポップした千眼孔雀5羽が近寄って来たものの、ヴァルキュリア達が返り討ちにしてくれた。襲撃はその一回のみで、何とか山頂の火口へと辿り着く。
ただ……巨大な火口からは溶岩が溢れて来るのみ。〈敵影感知〉や〈敵影表示〉にも、何も反応が無い。手持ちの石玉を中心に放り投げてみたが、何も起こらない。
ソフィアリーセが冗談めかして言っていた、レア種が隠れている様子も見受けられなかった。
……さて、どうしようか?
火口の内側に沿って大きく螺旋状の坂が有り、少し下ったところに次の階層への転移魔法陣が在るらしいのだ。本来なら、千眼孔雀を撃退しつつ、火口に落ちないように転移魔法陣を目指す……流石に透明性0の溶岩の中を潜水して探すのは無理だよなぁ。
突拍子もないアイディアもある。火口内に水属性魔法を連打して、冷やし固めて蓋をする。そして、山の中腹辺りに穴を空けて溶岩を横から抜くとか? いや、宝永山のように爆発するか。
地味な方法だと、火口の内側の螺旋状の坂の起点を探して、それに沿って泳げるか試すとか?
などと考えを巡らせていたら、肩を叩かれた。
何かと思えば、青のヴァルキュリアが俺の気を引くために、肩を叩いているのだ。そして目が合うと、火口の下の方へ向けて指を指した。
……飛び込めと? 真ん中に向けて飛び込んだら、転移魔法陣に行くどころの話ではない。いや、対岸の下の方に有るって意味か?
『(……祝福を持つ者も来ているのか? 丁度良い。下に来るのだ)』
不意に声が聞こえた。いや、この頭の中に直接響く感じは、精霊の声か? しかも、重厚な声は聞き覚えがある。
「もしかして、火の精霊様ですか?」
『(……聞こえているのならば、下に来い。頼みたい事がある。ああ、その使い魔に案内してもらうと良い)』
そういや、精霊には俺の声は聞こえないのだったな。ただ、下と言われても……ヴァルキュリアが指す方向は火口の真下である。どうしたものか?と、ヴァルキュリア2人に目を向けると、笑顔を返された。そして、ふよふよと俺を挟むように両側に来ると、両腕を取られる。次の瞬間、ヴァルキュリアに抱えられたまま空へと舞い上がった。
「おおおおいっ! 俺ごと飛べるのなら、早く言ってくれよ!」
こんな風に飛べるなら、溶岩の川を登る必要はなかったのではないか?!
いや、千眼孔雀が沢山居たから、そんな簡単な話ではないと思うが……いや、そう思っておこう。そうでないと、半日掛かりで登って来た俺がアホではないか。
上昇するのは程々に、Uターンするとパワーダイブをし始める。両側のヴァルキュリア達は、外側の手に持った槍を突き出し、先端を合わせてから突撃結界を張った。それは、2人分の力で張ったせいか、俺達を包み込むほどに大きい。
そして、円錐の結界を下に向けたまま、火口へ飛び込んだ。
火口内を埋め尽くす溶岩を、急速潜航している。突撃結界の後ろの方はがら空きであり、通り過ぎた溶岩が落ちて来ているが、下に進む速度の方が速いので問題ない。結界の外は真っ赤な溶岩だけなので、気分は潜水艦と言うより地中を掘るシールドマシン(トンネルを掘る機械)の中か? どっちも実物を見た事無いので知らんけど。
そんな観光気分も直ぐに終わりが来た。移動速度が速かったのか、溶岩を突き抜けて何もない空間へ飛び出たのである。突撃結界を張ったままの俺達は、急に止まる事は出来ない。急速に近付いて来た地面と、衝突したのだった。
一応、結界と両脇を押さえてくれていたヴァルキュリア達のお陰で、地面に叩き付けられる事はなかったが、急停止に息が詰まるくらいのGが掛かった。地面に座り込み、咳き込んでしまった程である。
ヴァルキュリア達は、そんな俺の肩をポンポンと叩くと、霧散して消えて行った。マナを使い果たしたようである。
一息吐いてから周囲を見回してみた。どうやら、大部屋に出たようだ。地面は石であるが、天井は真っ赤……と言うか、溶岩が上にある。透明な結界に阻まれて、中に入って来られないのか?
そして、部屋の中には、見知った光の玉が2つあった。
バスケットボールサイズの赤い光の玉、その中には武者鎧を着たライオン獣人……火の精霊。
それより半分くらいのサイズの茶色の光の玉、その中には服を着た二足歩行なモグラ?……色合いからして土の精霊だろう。
……なんで、こんな所に? いや、状況からして、溶岩が溢れ出る原因を知っているに違いない。
〈ファイナリティ・キュアレシア〉でも助けてもらったもんな。彼らの前で跪いて、挨拶をした。声は聞こえなくとも、礼を尽くしていると見せる事は出来る。
「火の精霊様、土の精霊様。この間は、ご協力して頂き、ありがとうございました。
お呼びの御用件ですが、この階層の正常化が目的であれば、私も協力させて下さい」
『(うむ、少し位階が上がった様であるが、まだ声がか細いな。さっさと、火の使い魔を出すのだ)』
『(ノロノロすんな! 祝福没収すんぞ!)』
「はい! 只今!」
何やら土の精霊は怒っているようだ。なんかデジャヴ。
取り敢えず、マナポーションを飲んでMPを回復させつつ、火属性と土属性のヴァルキュリアを召喚した。そして、ヴァルキュリアに精霊達が重なるように吸い込まれて行き、合体が完了した。
改めて挨拶をして、俺を呼び出した理由や、この階層の異変に付いて聞いてみる。
すると、どうもディゾルバードラゴンの影響が残っていたらしいのだ。
「うむ、最後に使った蘇生魔法であるが、全属性を均等に消費した。龍脈だけでなく、我ら精霊のマナもな。
その為、我が内包していた大量の火のマナだけが余ってしまったのだ。更に龍脈に乗って、ここの火山に引き寄せられてしまったのである」
「コイツがここに来たせいで、火山のバランスが狂っちまったんだよ!
ホントに、最後まで迷惑な奴だぜ!」
ええと、この土の精霊は蘇生の儀式の際も、ここら一帯の土地とダンジョンを管理している様な事を言っていた。
『人の理など知らないが、最近何百年かはここいらのダンジョンは安定している。人間の管理が上手いお陰だろう』
なので、44層のバランスが崩れて溶岩塗れになった事を怒っているようだ。
火のマナが多いのは、ディゾルバードラゴンのせいだな。ジョブを入れ替え、新興商人の〈鑑定図鑑閲覧〉を使い、鑑定文を読み直してみると……『貯め込んだマナを火属性へ変換、口から巨大溶岩弾を放つ』なんて書いてある。
つまり、まとめるとこんな感じか。
騎士団の全力魔法攻撃→ディゾルバードラゴンが吸収、火のマナに変換→天之尾羽張で吸収、魂魄結晶へ→火の精霊が吸収→使い切れなかった分が、精霊ごと火山に吸い寄せられた。
……ピタゴラス○ッチかな?
「フィールド階層ってのは、属性のマナが偏って集まると出来るもんだ。草原なら風、森なら木、砂漠なら土と火、火山なら火と土ってな具合になぁ。
ここの火山は、コイツ《火の精霊》が沢山のマナを抱えて来たせいで、余計に活性化しちまったんだ。龍脈からの火のマナばかり集めるようになっちまって、ほっといたら大噴火して山ごと吹き飛ぶところだったんだぜ!」
土の精霊は管理が大変だったと嘆く。この辺一帯の土地を管理していると言っていたが、それはダンジョンも含むらしい。現在は、集まる火のマナを溶岩として吐き出す事で、大噴火を押さえたそうだ。
因みに、大噴火が起こると龍脈が寸断し、復旧まで下の階層が使えなくなるらしい。加えて、マナが溜まり過ぎて階層が増えたり、魔物のスタンピードが起こったりする可能性もある。滅茶苦茶、重大案件だった。
「うむ、お主を呼んだのは他でもない。ここを鎮めるのを手伝うのだ。
見たところ、聖剣の他にも可笑しな権能を持っておる。何か使えそうな物か、アイディアはないか?」
異変の正体は判明した。後はどうやって鎮めるか……火のマナを減らすか、火の精霊を余所に移すか?
取り敢えず、調査隊が行っていた魔物の駆除と、採取をしている事を伝えたが、溜息と共に呆れられた。
「その程度では全然足りんわ!」
「お主が倒してきた魔物の数では、毎日同じだけ狩っても事態の終息に1年以上は掛かるであろう」
溶岩の川が広すぎて、採取が殆ど出来なかったからなぁ。中州で、赤い花の形状をした紅蓮鉱石を採った程度だ。
『精霊を他に移す』方法として俺が思い付いたのは2つ。
1つは、聖剣 天之尾羽張を使って、火の精霊を魂魄結晶へ封じてしまう方法である。
ただ、〈スキル鑑定〉に表示される文を読む限り、駄目っぽい。
・〈MPドレイン〉:聖剣で敵に攻撃を当てた場合、敵のMPを奪い自身のMPを回復する。
また、ジョブが英雄系に限り、聖剣に一定以上の魔力が注がれた時、『神威抜刀』状態へ移行する。MPが全快の場合は聖剣にマナを蓄える様になり、マナの保有量が多いほど聖剣が巨大化する。そして、聖剣が大きいほどMPの吸収割合が増え、敵のマナ総量を超えた状態で攻撃すると、存在そのもの(ドロップ品や経験値も)をマナに変換し吸収する。
あくまで敵からMP=マナを吸収するのであって、地形である溶岩からは吸収できないのだ。〈魔法切り払い〉もあるけど、こっちも魔法じゃないと吸収出来ないので同じ。そう言えば、ディゾルバードラゴンの溶岩弾を切り払っても、物理的な溶岩は吸収できなかったな。没。
そして、もう一つの案は、妖人族が持っていた『封結界石』である。大分前の話であるが、アドラシャフトにてトゥータミンネ様に余興として見せた〈ダイスに祈りを〉、その大当たりから出て来た『エメラルドの封結界石』には、風の精霊が封じられていた。つまり、持ち運ぶ事が可能なはずなのだ。封結界石に火の精霊と余分な火のマナを一時的に封印して、他の場所へと連れて行ければ良い。
問題は、宝石の封結界石が無い事である。魔物が入っている『魔結晶の封結界石』なら、幾つか回収して第0騎士団とエディング伯爵に引き取ってもらった。研究目的なので、全部壊したり、破棄したりはしていないと思う。頼めば1個くらいは、この件に使わせて貰えるかも?
この案を説明したのだが、これにも火の精霊は首を振る。
「流石に無理であろう。魔結晶の容量に入る訳が無い。我が封じられたルビーでも、狭苦しかったのだ。あの時よりもマナの総量が多く、火山の分を含めると余程大きなルビーが必要になるであろう。
それと、肝心の『陰陽導師』は居るのであるか? お主の位階では足りぬだろ?」
「陰陽導師?」
……聞いた事が無いジョブだ!
次の更新予定
シュピルフィーア・ダンジョン攻略記~複数ジョブの力を組み合わせ、掛け合わせ、世界を改変する!~ 泥酔猫 @dmonokira
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