第603話 虹光孔雀の宝眼石と条件未達成

 飛び蹴りが不発に終わった俺は、そのまま虹光こうこう孔雀の背中に留まった。

 千眼孔雀の倍はある虹光孔雀だが、その殆どは羽である。本体の背中は俺の脚幅も無い。狭い足場から踏み外さないように身体を捻り半回転しつつ、抜刀した黒短刀で飾り羽を斬り払った。

 背中側には展開された飾り羽が屏風の様に立っており、各所に魔法陣を光らせたままである。次はコイツの排除だな。


「〈幻影乱れ斬り〉!」


 左右の黒短刀で4連斬りをお見舞いし、切っ先が届く範囲の飾り羽を伐採した。スキルの効果で幻影の短刀が追撃し、俺の手では届かない部分の飾り羽を切り捨てる。この攻撃で、曼荼羅図の上半分の殆どを伐採出来た。虹光孔雀の下側に展開された部分には届かない……等と考えていたら、急に視界が回転した。

 虹光孔雀が空中で一回転して、俺を振り落とそうとしたのである。


「一人だけで、落ちてたまるかよ! お前も落ちろ〈ダウンバースト〉!」


 空中に放り出されながらも、反撃した。風の鉄槌が虹光孔雀を直撃し、がくんっと落ちる。俺よりも下の位置に来たことで、ギリギリ黒短刀を羽に刺すことに成功……そこを起点に引き寄せて、虹光孔雀の背中へと跨った。

 俺が再び乗った事により、落下速度が上がる。諦めの悪い虹光孔雀が羽を羽ばたこうとし始めたので、羽の付け根辺りに両手の黒短刀を突き刺した。羽ばたきと共に、刃を喰い込ませていくと骨を断ち切った感触が返ってくる。どうやら、重要な骨を切断したようだ。羽の動きが止まり、墜落速度が速くなった。


 突き刺したままの黒短刀をハンドル代わりに耐え……虹光孔雀は真下へと墜落、山肌を流れる溶岩へ胴体着陸するのだった。溶岩がしぶきを上げる。

 着地の反動で黒短刀が抜けてしまい、投げ出されてしまった。受け身を……と思ったが、溶岩に落ちて転がってしまう。咄嗟に息を止めていたので、溶岩を飲むような事はなかったが、溶岩の中は透明度0なので、慌てて立ち上がる。〈ライトクリーニング〉で溶岩を取り払ってから目を開けて状況把握……良し、虹光孔雀は溶岩に伏したままだ。


 ただ、虹光孔雀は『・無効属性:火』なので、溶岩に落ちても炎上している様子は無い。その証拠に、残った飾り羽には魔法陣が点灯したままなのだ。加えて、虹光孔雀の顔が俺を見ているような……いや、睨まれているか? 盲目が治ったのかも知れない。残っていた魔法陣が重ねられ、大きな魔法陣へと姿を変える。高ランク魔法に切り替えたのか、半分充填された状態から、更に充填が始まった。

 どうやら、羽をやられて飛べなくなったので、最後の賭けに出たようである。その意気や良し!


 両手の黒短刀を納刀し、〈ボンナバン〉で前に跳んだ。この距離なら、魔法を撃つ前に辿り着ける!

 溶岩を掻き分けて進み、ブラストナックルの拳を握り締め……虹光孔雀の頭を素通りして、背後の魔法陣へと正拳突きを叩き込んだ。俺の拳の前には〈無充填無詠唱〉で展開した、完成済みの〈アシッドレイン〉の魔法陣がある。

 魔法陣同士がぶつかり合い、〈魔光相殺〉の効果で魔力量の少なかった虹光孔雀の魔法陣がパリンッと音を立てて割れた。


【スキル】【名称:魔光相殺】【パッシブ】

・拳の先に魔法陣を出し、そのまま格闘攻撃する場合、充填された魔力の分だけ攻撃力を上げる。

 また、その状態で敵の魔法陣を攻撃すると、MPの分だけ相殺し発動を遅らせる。こちらが上回った場合は、敵の魔法陣を破壊して、短時間スタンさせる。


 ……これでスタンした筈!

 魔法陣が消え失せ、飾り羽も力を失くしたように倒れていく。

 後は止めのみ。その場で振り返り、ブラストナックルを振りかぶる。手の形は手刀にして、突き出した。

 俺の放った貫手は、虹光孔雀の首に付き刺さる。


【スキル】【名称:地獄貫手】【パッシブ】

・手刀をもって敵を突き刺す際、〈防御貫通 小〉の効果を付与する。この時、掌を伸ばし、指先で突くので、指を痛めやすい。部位鍛錬をするか、耐久値補正を上げよう。


 そのまま中の骨ごと首を握り締め、圧し折ろうとしたが、存外に硬い。仕方が無いので、首を絞めたまま溶岩の川の中に沈めた。鳥を絞めるなら、首を折るのが良いなんて聞くが、やり方までは知らん。まぁ、溶岩に突っ込んでおけば、窒息するだろう。


 わざわざ時間の掛かる止めにしたのは訳がある。もう、勝ちは揺るがないと判断してから、特殊アビリティ設定を変更するのだ。〈無充填無詠唱〉とか余分なものを外し、〈経験値増〉の3倍をセットする……後アビリティポイントが1あれば、4倍になったのに……ブラストナックルが外せないからしょうがないけど、折角のレベル50レア種なのだ、経験値を稼ぐには丁度良い。


 〈魔光相殺〉のスタンが解けてからは、羽や脚をバタバタと動かしていたが、首のロックを外す程の力ではなかった。そのまま溶岩に沈めていたら、大人しくなる。最後にもう一度、頭を殴って死んだふりでない事を確認してから、中州へ持って行く事にした。


 溶岩を搔き分けて中州へ戻ると、丁度霧散化が始まった。〈ライトクリーニング〉で溶岩を浄化してから、残されたドロップ品を回収する。それは、小さな菱形の宝石だった。拾ってみると直径3㎝ほどであり、光を当てると7色に反射した。



【宝石】【名称:虹光孔雀の宝眼石】【レア度:B】

・虹光孔雀の飾り羽に付いている眼の形をした宝石。初級中級の7属性の力を秘めており、魔法の発動媒体にする事で、魔法の威力と充填速度がアップする。

 また、魔力を貯蔵しておくことも出来、所持者のMPが足りない場合でも魔法やスキル発動のコストとして使用できる。ただし、事前に貯めておく必要があり、貯蔵した魔力は3日程放置すると徐々に抜けていく。



 ……レアドロップだ!

 ソフィアリーセが新武器の材料に欲しいと言っていた奴だな。いや、7属性の魔法を強化するとか、俺も欲しいぞ。

 まぁ、約束なのでソフィアリーセにあげるけどな。大事にしまっておこう……と、ストレージの貴重品フォルダに入れたところ、他のフォルダにも【NEW】マークが付いている事に気が付いた。

 それは『強奪フォルダ』である。ニンジャのスキル〈強奪〉の効果で盗んでいたようだ。



【宝石】【名称:虹光孔雀の扇羽根(雷)】【レア度:B】

・虹光孔雀の飾り羽を、檜扇ひおうぎの羽根として加工した物。眼の部分に小さなアメジストが付いており、魔法の発動媒体として使用出来る。

 ただし、雷属性に限り充填速度を大幅に強化するが、それ以外の属性は受け付けない。

 使用したい属性の扇羽根を集めて、扇に加工しよう。



 なるほど、ソフィアリーセの銀扇も、羽ごとに宝石を付けて使い分けていたが、そのパワーアップ版だな。

 ……これもソフィアリーセが欲しがっていた奴だっけ?

 確か、何かの属性が足りないとツヴェルグ工房で話していた覚えはあるが……流石に覚えていない。ソフィアリーセにあげる際に聞けばいいか。



 上々の成果である。ソフィアリーセへの良いお土産が出来たというものだ。ただ、レア種を倒したというのに、宝箱は出現しなかったようである。倒した付近の溶岩の中にも出現した様子もない。

 まぁ、対処方が知られているくらいなので、ちょいレアくらいなのかも? 今までも、幸運のぬいぐるみをドロップするクゥオッカワラビーとか、赤いサボテンとかは宝箱を落とさなかったからな。


 さて、マナポーションを飲んで小休止をしつつ、お待ちかねのレベルアップを確認する。


 虹光孔雀を倒した際のレベル変動は以下の通り。


・基礎レベル50→51     ・アビリティポイント54→55

・街の英雄レベル43→46   ・魔道士レベル43→46

・司祭レベル45→47     ・武僧レベル40→44

・ニンジャレベル47→50


 軒並みレベル3以上、上がっていた。そして、ニンジャが50に到達したぞ!

 そして、基礎レベルが51に達した事で、10レベル毎のステータスアップも発生している。今回はMPが上昇……多分、ヴァルキュリアを何度も召喚してMPを大量消費したせいだな。


【人族、転生者】【名称:ザックス、16歳】【基礎Lv51、街の英雄Lv46、魔道士Lv46、司祭Lv47、武僧レベル47、ニンジャレベル50

HP  B □□□□□

MP  A □□□□□【NEW】

筋力値B

耐久値B

知力値B

精神力B

敏捷値B

器用値C

幸運値B


ボス討伐証:AL371ダンジョン20層●、KM284ダンジョン30層●、KA182ダンジョン40層●

アビリティポイント:0/55

所持スキル

・特殊アビリティ設定→

 (省略)



 ええと、街の英雄は10レベル毎にスキルを覚えるので、レベル45では何も無し。

 魔道士レベル45では、ランク8魔法と、新スキルを習得した。良し、これでソフィアリーセに追い付いた。


【スキル】【名称:初級属性ランク8、極大威力魔法】【アクティブ】

・指定範囲に存在する敵を結界に閉じ込め、高威力の属性ダメージを与える。更に、属性ごとに以下の追加効果を加える。ただし、閉じ込めた対象とのレベル差が大きい場合や、内側から同程度の魔力攻撃を受けた場合、結界は破壊される。


 火:アグニズ・ジーゲル(二重の炎の結界に閉じ込め焼き尽くし、内側の結界ごと爆破する)

 水:メイルシュトローム(結界内を大量の水で満たし、多数の大渦で相手を包み込み各部を捩じ切る。耐久値や精神力が高い相手が耐えた場合、溺死させる)

 風:サフォケーション(結界内を真空にして、窒息させる)

 土:ゴルゴーン・ブレイク(結界内に大量の石の蛇を召喚し、噛み付き攻撃をする。咬まれた箇所から石化していく)



【スキル】【名称:マナドレイン】【アクティブ】

・手で接触した相手から、マナを奪いMPを回復させる。接触している間だけ奪う事が出来るが、自身のMPが満タンになると自動的に終了する。ただし、対象が望まない場合、抵抗される。この時、マナの扱いが上手い方が勝ち、負けた場合は強制終了する。

 因みに、魔物であれば身体がマナで構成されているので、アンデッド系からも奪う事は可能である。



 司祭にMPを分け与える〈マナドネ〉ってスキルがあるが、その逆だな。強制的に奪うスキルのようだ。一応、魔物からも吸えるようだけど、大丈夫なのかね? アンデッド系だと、逆に吸われそうなんだが……まぁ、MP回復手段が増えるのは良い事と思おう。

 ただ、普通の魔道士の場合、魔物から奪うのは大変そうだよな。パーティーメンバーから分けてもらう方が安全そうだ。




 司祭はレベル47、武僧もレベル44で、スキルを覚えるレベルではない。

 さて、お待ちかねのニンジャ50では、ステータス補正のMPが中アップし、新スキルを覚えた。



【スキル】【名称:コンボカウンタ】【パッシブ】

・自身の視界内に、敵にダメージを与えた回数が表示されるようになる。連続攻撃10回毎に、自身の攻撃力を上げ、スキル後の硬直を減らす。カウントするのは自身の攻撃のみ。

 なお、連続攻撃とは、攻撃の間隔が5秒以内と定義する。



 カウンタって、回数をカウントする方か。ニンジャには〈連撃の真髄〉があるので、相乗効果があるっぽいな。どっちも回数が増えれば攻撃力アップするのが良い。


【スキル】【名称:連撃の真髄】【パッシブ】

・敵に連続攻撃を当てた場合、回数が増える分だけ攻撃力を増加させる。また、効果が続く間に限り、一連の行動全般を補正する。この時、パーティーメンバーが同一の敵を攻撃した分も含めるが、攻撃力増加の効果は術者のみ。

 なお、連続攻撃とは、攻撃の間隔が5秒以内と定義する。


 ニンジャのスキルには攻撃回数を稼ぎやすい〈多連装手裏剣の術〉や〈幻影乱れ斬り〉、〈波状の攻め立て〉があるからな。カウントを稼いで攻撃力を上げて、〈波状の攻め立て〉の最後に攻撃力の高いスキルで止めを刺す。なんて使い方が考えられる。これは戦術の立て甲斐があるな。




 さて、レベル50になったので、ニンジャのサードクラスを確認…………………………ジョブ一覧には【NEW】マークは無く、ニンジャの隣は空白のままだった。



 もしかして、解放条件を満たしていない?

 ニンジャの解放条件は『二刀流で魔物を10体以上倒す。50人(もしくは魔物50匹)以上から注目を集める。高い所から名乗りを上げる、もしくは決め台詞で注目を浴びる』なので、沢山注目を集めれば良いのかと推測していたのだが……領都防衛戦でかなり目立てた筈なので、条件は他にあると思われる。

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