10 青空作戦

 アスキスを局長とする地球環境復興局によって始動した『青空作戦』。

 世界各地で化石燃料の採掘と燃焼作業、メタンハイドレートからメタンの抽出作業が行われ、順調に地球は温暖化していった。

 それに伴い、黒く厚い曇天は薄らぎ、雲間から漏れる日光の量は増えていった。

 世界各地に彼らが発見した放射性物質分解微生物が蒔かれ、除染作業の能率は格段に上がっていった。


 約3000年後、78%程の放射性物質は分解され、地球上の生活圏内は、人体に影響が出る放射線量を下回った。

 数えきれ無いほどのクローン体への人格転送を繰り返し、ようやく自分たちの仕事も一区切りついたかと、任務者達の表情にも笑顔が増えていた。


 さらに1000年後、地球上のほとんどの放射性物質は無力化され、海洋や人が普段足を踏み入れない密林、山脈、砂漠などの除染も完了し、地球上のどこにいても被曝を恐れずに生活できる環境が整った。



§§§




 目の前に広がる青い海に目を輝かせる綺奈。

 水平線に浮かぶ太陽は、煌々と最後の輝きを大海へと解き放っていた。

 もうすぐ日が暮れる。

 触れれば癌になる死の海は消えた。

 計画が始動したばかりの4000年前、興味本位から忠告を無視した無謀な任務者が、たびたび海水に触れ肉体を癌化させた。その度に新しいクローン体へ人格移行し、イプシムやアスキスにこっぴどく叱られたものだ。


「きれい」

 そう呟くと綺奈は打ち寄せる波に向かって歩き出した。

 砕けた白波が素足に触れる。波の音、海の静寂が、そこにいる隊員や研究員の心労を癒してくれた。

「おーい。綺奈も手伝ってー!」

 綺奈の後ろで尹真いさなの声がする。振り返ると研究室の後輩や先輩達が、車のトランクからバーベキューコンロや、折り畳みのイス、テーブル、食材を降ろしているところだった。

「ごめーん!」

「初めてなんだから無理もないよな」

 折り畳みイスを両手に抱えたアスキスが、笑いながら砂浜へ歩いていく。

 アスキスは抱えていた折り畳みイスを砂浜に置くと、波打ち際に向かって走りダイブした。荷物を運んでいた研究員達も、歓声を上げながら次々と海に向かってダイブしていった。

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ドームの光 Strong Forest @strongforest

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