9 雲を消す

 その微生物は、日光によって活動が活発になることが分かった。

 しかし、今現在、地球の上空は黒く厚い雲で覆われており、非常にまれな頻度でしか日光が射すことはなかった。


 地下ドームに隣接する形で設けられた復活した任務者達の居住区と研究所、駐屯施設。その日、アスキスは研究所を訪れていた。


 白衣を着た研究員が数名、研究所内を歩き回ったり、電子顕微鏡に目をやったり、雑談したり、パソコンの画面に見入ったりしている。

「アスキス局長!」


 研究員の一人、三緒去綺奈みおざりあやなが室内に入ってきたアスキスに気付き声を上げた。アスキスに気付いた他の研究員達も立ち上がりアスキスに一礼した。

「楽にしてくれ。そのまま作業を続けてもらって構わないよ」

 アスキスの言葉に作業に戻る研究員達。

「綺奈と海潮うしお、ライカスはちょっとこっちに来てくれ」

 そう言ってアスキスは、研究室の隅にある簡易ミーティングルームに向かって歩きながら、彼らに手招きした。


「それで、あの微生物を繁殖させる方法は思いついたか」

 席に着いた3人にアスキスは問いかけた。

「はい」

 綺奈は頷いた。

「答えはいたってシンプルです。雲を消します」

 目を皿にして綺奈を見る三人。

「どうやって?」

 海潮が肩をすくめた。

「温室効果ガスを使うのよ」

「はあ…」

 溜息をつくライカス。

 少し思案して宙を見つめていたアスキスだったが、突然閃いて表情が明るくなった。

「そうか。なるほどね」

「さすが局長。察しが早い」

 綺奈は悪戯っぽく笑うと説明をつづけた。

「雲って、雲粒うんりゅうから出来ているんです。雲粒っていうのは雲を構成する、直径、数マイクロメートルから数十マイクロメートルの小さな水滴や氷の結晶で、水蒸気が上昇気流によって上空に運ばれ、凝結・凝固した物のことです。なので、地球大気の温度を上昇させれば、雲粒を気化させることができるわけです」

「それで温室効果ガスはどうやって作るの」

 ライカスが綺奈に聞いた。

「調べたんだけど、地球上にはこれだけ沢山の油田があるの」

 綺奈が指さした15インチのノートパソコンには、世界地図が映し出され、各地に大小様々な赤い円が示されていた。円の大きさが油田の埋蔵量を示しているのだろう。

「それを燃やし尽くして、二酸化炭素を大量に放出する。後はこれ、メタンハイドレート。ここから約12,000km東に沢山埋まってる。ここから、温室効果の高いメタンを大量生産する。私の計算では、全部掘り返したり、燃やし尽くす前に、十分に地球大気を温室化できるはずよ」

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