8 発見

「アスキスさん。面白いものを見つけましたよ」

 その隊員は言った。



§§§



 除染機械のメンテナンス、汚染状況、生態系や動植物の観察調査をする為、各隊員は交替で地上を飛翔巡回する。


 空は常に黒い雲で覆われており、日が射すことはない。冷たく閉ざされた大地は、その暗闇で、人間が立ち入ることを拒んでいるようにも見えた。


 空を漂う雲はゆっくりと蠢き、雲に遮られながらも微かに漏れた日光が、僅かながら世界の輪郭を隊員たちの目に映し出していた。


 地下ドームから北北西に約1,000km地点。

 森林地帯のちょうど中央に木々が一切ない禿山がそそり立っていた。

 漆黒の世界にあって一人孤高を極めたが如く聳える山岳地帯。その山の頂上は、隊員たちのお馴染みの休憩ポイントになっており、距離的に折り返し地点にちょうどよく、ここで一休みする隊員が多かったのだ。


 運が良ければここで、地上ではめったにお目にかかることのできない、日光と青空を一瞬だけ目にすることができる。

 気流の関係上、時折、雲の流れに綻びが生じるようだ。

 細い絹糸が真っ直ぐに一本一本張り巡らされるように、光の筋が大地へと降り注ぐ。神々しいばかりの輝きの中で、隊員はしばし太陽の温もりと、目も覚めるような青空にその身を委ねた。


 最初は、めったにお目にかかることのできない青空と日の光に出会えたことで、気分が高揚しているだけだと思っていた。

 しかし、その休憩ポイントに立ち寄った隊員のほとんどが、身体的精神的な疲労から著しい回復を見せていた。興味を持ったある隊員は、その山頂の土壌サンプルを地下ドームに持ち帰った。



§§§



「微生物です。超立方体の中にも記録されていない、貴重な物です。そのメカニズムは、はっきりとはわかりませんが、放射性物質を分解する働きがあるようです。今後も引き続き調査が必要です」

 その隊員は目を輝かせアスキスに報告した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る