何でもデリバリー~勇者を魔王城へ配送する~
雪野湯
なんでもデリバリー
私はどんな荷物でも、確実にお届けするデリバリーの仕事をしている。
今日はとある村の村長から、魔王城まで勇者さんを配送してほしいという依頼を受けた。
村長曰く、魔王城ができて以降、付近の人たちは不安で眠れないし、旅人も近づかなくなったから商売あがったり。そこで勇者さんを送って、魔王さんを追い出してもらおうと。
荷物である勇者さんはしっかり梱包してあるので、それを荷馬車に載せて魔王城へ向かった。
城に着き、私は魔王城を守る門番に声を掛ける。
「すみませ~ん、デリバリーですけど。魔王さんはいらっしゃいますか?」
「魔王様? ああ~、すまない。ちょっと出かけてるんだ」
「そうですか。それではまた来ます。これ不在通知です。連絡を頂ければ、すぐに再配達しますので」
門番に不在通知を渡し、会社へ戻り、同僚に愚痴をこぼす。
「まったく、不在ってのは面倒だ」
「あはは、よくあることだよ。愚痴を言っても仕方ないだろ」
「なに言ってんだよ。むしろ愚痴くらい言わせてくれよ」
「はは、そうだな。それよりも、荷物はちゃんと冷凍庫に入れたのか?」
「冷凍庫? 生もののシールは貼られてないけど」
「シールは貼られてなくても、勇者は生ものだろ。そこはこちらが気を利かせておくもんだよ」
「はぁ、荷物を出す方もちゃんとして欲しいね。わかった、箱に生もののシールを貼って、冷凍庫に入れておくよ」
一日後、魔王さんから連絡があり、勇者さんを配送することに。
しかし……。
「え、不在?」
「あ~、さっきまでは
「これは困りましたねぇ。仕方ない、代わりにサインを頂いてもいいですか?」
「それは駄目でしょう。私の荷物じゃないんですから」
「そうなんですけど、同じ城に住む住人ですし」
「あなた、同じアパートに住む住人だからと言って、サインさせて荷物を預からせますか?」
「それは、しませんけど」
「せめて、魔王城着だったら良かったんだろうけど、魔王様個人宛てだからなぁ」
「はぁ、わかりました。荷物は持って帰ります」
会社に戻り、再び荷物は冷凍庫へ……。
次の日、魔王さんから連絡が来るが、訪れてみると不在。
それを五日ほど繰り返した。
私は勇者さんが梱包されてある箱を見つめる。
「最近、箱から異臭がするんだけど、大丈夫かな? 何度も解凍と冷凍を繰り返してるからなぁ。廃棄した方が……」
「ちょっとちょっと君、それは困るよ。確実に荷物を届けますが、我が社のモットーなんだから」
「あ、課長」
「とにかく、荷物を届けるのが第一だ。わかったな」
「はい」
私は課長に倣い、優先すべきは社訓だと思って返事をした。
そこに同僚からの声が届く。
「お~い、魔王さんから連絡だぞ~」
「ほんと? 今度こそ居てくれるといいけど……」
私は異臭を放つ荷物を荷馬車に運び入れ、魔王城へ向かう。
到着すると、いつもの門番とは違う、大柄の男性が出迎えてくれた。
「どうも~、デリバリーです。お忙しい中、すみません」
「いえいえ、こちらこそずっと不在で申し訳なかった」
「あ、魔王さんですね?」
「ああ、そうだ」
「それじゃ、こちらにサインを」
「はいはい……近くの村からか。いったい何だろうな? 貢ぎ物か?」
魔王さんは箱を気にしつつも、伝票にさらさらっとサインをした。
「はい、たしかに。では、失礼します」
数日後、村長さんが会社に訪れた。
「いや~、しっかり荷物を届けてくださり、ありがとうございます」
「いえ、それが仕事ですので」
「おかげさまで、魔王が城からいなくなりまして助かりました」
「そうですか、勇者さんが活躍したのでしょうね」
「ええ、そのようで。魔王は勇者が梱包された箱を開けた途端、大きな悲鳴を上げたそうですよ」
「お~、大活躍だったみたいですね」
「ええ、さすがは勇者です。それはそうと、魔王が城を立ち去る際、奇妙なことを言い残したそうで」
「何ですか?」
「こんな危ない村があるところに住めるか! だそうです」
「危ない村、ですか?」
「ええ。いったいどこの村のことを言ったんでしょうね?」
「私は色々な場所を配達していますが、近くに危なそうな村なんてありませんでしたけど?」
「ですよね」
何でもデリバリー~勇者を魔王城へ配送する~ 雪野湯 @yukinoyu
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