悲しくも明るい余情

病の重い主人公が死んだ弟について語る……という重苦しさにも関わらず、主人公はそれほど悲痛な様子を見せず、さっぱりと話し進める。聞き手に事情や感情を訴えかけるわけでもなく、ただ語る。
話の内容は悲しく、暗く、怪しく、痛々しくもあるのですが、一方で、主人公はなにか明るいものを見出しているようです。
そのために生じる、悲しさと明るさの交錯した独特な余情。これが本作品の魅力です。

(ここからちょっとネタバレ)

主人公の見出した明るいものとは、題名にある通りの「弟」の「おもかげ」と読めるのですが……
誰に理解を求めるでもなく自分の中で「おもかげ」を見つけて納得している兄の姿勢には、弟を想う兄心を超え、信仰にも似た崇高なものがあり、とほうもない美しさを感じます。

なんとも深く心に残る作品です。