第50話 新世界

 ワーッ‼



 披露宴を終えたユウトとメイミが新婚旅行に向かうべく、琵琶湖に浮かぶ空中戦艦ノアザーク──損傷は修理された──へと、他の乗組員たちと一緒に乗りこんでいく。


 湖畔では、それを大勢の人々が見送っている。その音頭を取っているのは、かつて人類統合体の最高権力者で、現在も全人類のまとめ役であるアジア代表、アフリカ代表、ヨーロッパ代表。



「「「皇帝陛下バンザーイ!」」」



 人類統合体は【人類帝国】と名を変えた。元と違うのは最高権力者に、君臨すれど統治せず国民の税金で贅沢するだけの皇帝、ダイチ・ユウトを頂くことのみ。



「「「女王陛下バンザーイ!」」」



 そして人類帝国はネフィリムたちを始祖ネフィル──メイミを女王に頂く主権国家【ネフィリム王国】として承認した。


 両国の君主同士の結婚は、人類とネフィリムを融和させる政略結婚──無論、そうでなくても2人は結婚したが。







ばつびょう! ノアザーク、発進‼」


ばつびょう! ノアザーク、発進‼」


「発進します‼」



 ノアザーク艦橋でクサナギ艦長が命令、アマオウ副長が復唱、ミナセ航海長が操船する。艦体が琵琶湖の水面を滑りだした。



「離水、上昇!」


「離水、上昇!」


「離水、上昇しまーす‼」



 艦は4枚の固定翼に風を受け、翼内プラズマジェットエンジンを下方に噴かせて、全長300mの巨体を持ちあげる。


 湖面から空へ舞いあがったノアザークは、針路を東へ。戦後、生き残った日本人が帰ってきて少しずつ復興を始めている、日本の大地を見下ろしながら飛んでいく……







 ユウトとメイミは格納庫で自身のエクソ・サーヴァスに搭乗し、エレベーターで飛行甲板に上がって、それぞれ別のカタパルト台に機体の足を固定した。


 ユウト機は白銀に輝くザデルージュ。


 エイトに用意されたのがユウトが乗ることになり、だがメイミに味方したユウトを殺してエイトが乗り、ユウトの操るネフィル人形の拳で大破した。その機体を回収して万全に修理したもの。


 メイミ機はピンクに塗られたフラッド。


 アフリカの戦いでメイミが乗って、味方の暴発によるナイル川の洪水に流されたあと、空棲種にメイミごとバイカル湖まで持ちさられ放置されていたのを回収して万全に修理したもの。



『進路クリア!』



 どちらも今は、正式に2人の専用機。


 その2機を副長が管制して送りだす。



『ユウト機、発進どうぞ‼』


「ダイチ・ユウト! ザデルージュ、出ます‼」



 ズシャッ‼



『続いてメイミ機、どうぞ‼』


『ダイチ・メイミ! フラッド、行っきまーす♪』



 ズシャッ‼



 甲板を高速で滑ったカタパルト台に乗って加速した、全高20mの機械人形が2機、ノアザークの艦首から飛びたつ。6枚の固定翼を広げ、かかとからプラズマジェットを噴かせ、蒼天を翔ける!


 飛行目的は戦闘ではない。


 ただの2人の、空中散歩。


 2人は接近し、横に並んで飛んで。


 互いにだけ聞こえる通信を開いた。



『戦いのない空をのびのび飛ぶの、気持ちいーですーっ♪』


「ああ! ──お疲れさま、メイミ」


『本当ですよ⁉ エイトさんを倒してからずーっと働きづめで! ユウトさんが傍にいてくれたのにHする気になれなくて、ワタシま~だ処女って‼』


「紅海で『帰ったら初Hしよう』って約束したの、こんなに引っぱることになるとはね……暇ができても君は『ここまで来たら初夜まで取っとこう』って言うし」


『シチュは大事ですから! でも自分で言っておいて待ちどおしくなっちゃって! 今夜はもー、いーっぱい! 可愛がってくださいね?』


「仰せのままに、オレの可愛い女王様」


『えへへへへ……あっ、見えました!』



 2機の前方の空に、樹のシルエットが浮かんできた。それは高さ3776mの富士山の頂から、さらに3000mも天へと伸びる巨木。



【世界樹】



 現在、同様の樹は決戦の地アララト山を始め、世界各地に生えている。ネフィリムがメイミの遺伝子操作能力で変態した大樹が、いくつも絡まって1本の世界樹を成している。


 メイミ以外のネフィリムは全てこの姿になった。各個体が体内に収めた人間を解放したのは、皆がこうなってから。


 植物性ネフィリムとでも言おうか。


 ネフィリムと人間の共存のために2人で考えた結果だった。姿を変えてしまうのは可哀想ではないかとユウトは案じたが、メイミ曰く『ネフィリムは生きられればなんでもいい』らしい。


 人の心を持ってしまったメイミ以外は。


 ネフィリム側では全ての人間を培養槽に収めたことで〖敵〗から〖飼育対象〗に認識が変わっており、もはや敵意はない。だが人間側ではネフィリムへの悪感情が残っている。


 樹となって動かず、人に害を与えない姿を見せていれば、いずれ人々の不安は薄れていく。それに人間たちは世界樹に頼めば、その中の培養槽で怪我や病気を治してもらえる。


 人は一度 得た便利さを手放せない。


 人類は世界樹となったネフィリムに依存する者が多数派となる。これならネフィリムを滅ぼすべしという主張は通りにくい。


 どの道、メイミはユウト以外の人類には培養槽にいるあいだに脳に働きかけ、ユウトや自分たちネフィリムに危害を加えられないようにしたので心配はないが。


 もし加えようと考えたら、メイミがエイト機との戦いで10億の殺意を浴びた時の精神的苦痛がその者を襲うよう暗示をかけて。


 実際──


 結婚式へのテロを画策した者たちが、それで発狂したり自殺したりしている。当面こういうことは続くだろうが、それはこの新世界に適応できない者が淘汰されるということ。


 いずれ、なくなる。


 そして人類はユウトとネフィリムたちを気にしなくなり、ネフィリムの出てこない人類史を新たに紡いでいくだろう。


 ユウトとメイミは人類を支配したが、自分たちの幸せを邪魔しない限り、その活動に干渉するつもりはない。


 世界樹の周りを回りながら上昇し。


 その頂の上空で、2機が手を繋ぐ。



「さぁ、生を謳歌しよう! 世界中を巡って景色を見て! その土地の美味しいものを食べて! 色んな遊びをして!」


『あらゆるシチュでHしましょう‼』


「ちょっ……ああ‼」



 こうして。人類とネフィリムの戦いは終わり、世界に平和が訪れて。それを成しとげたユウトとメイミは結ばれて、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。


 めでたし、めでたし。




~完~

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アフタラス・ザデルージュ 天城リョウ @amagiryou

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