第6話

 Flamingo二つ目の長編「中和ドミノ」を書いている最中は気にならなかったけど、書き上げればその一本の線がずーっと生活を貫いている状態から抜けて、視野が広がる。それは水の中を泳いでいたときには忘れていた、重力を思い出すのに似ている。

「アキラさん」

 ジュアのいつもの席。

「何でしょう?」

「もう四ヶ月半、経ったよね」

「経ちましたね」

「俺の小説、読まれているのかな?」

 声の弱気が篩にかけた粉みたいに二人の間を舞う。察知したアキラが少しだけ微笑んで、でも、粉には触れない。

「チラシは順調に売れています。補充が必要になったことはまだないですけど、交換のときにはかなり減っています」

「冊子は?」

「読まれた形跡はあります。売れたのはジュアの店長だけですけど」

「本当に読まれているかは、そこからは分からないなぁ」

 俺がくしゅんとする。アキラはその姿を見てアハハ、と笑う。

「サイトのアクセス数はもう五百を超えました。それに、カケヨメの方もPV伸びているんじゃないですか?」

「前にやっていたときの最盛期と同じくらいだから、Flamingo経由かは分からない」

 俺がこうとする溜め息を押し戻すようにアキラが、ライオンさん、と俺の名前を呼ぶ。

「こう言うのは地道にやっていくこと以上に継続することが大事なんです。ブログで稼げるようになった友人が、コツは何かって、殆どの人が半年一年でやめちゃうところをやめないことが一番のコツだって言っていました。今の段階でカケヨメが最盛期レベル、サイトもこれくらい、チラシも売れている、置く店も十二軒に増えて、万々歳ですよ」

 俺が溜め息を飲み込んだのを見届けたアキラの、射抜く瞳に炎が灯っている。俺よりちっちゃなこの子のガッツは俺のそれよりずっとでかい。

「こんな風にうじうじするのはカッコ悪いかな」

「はい。カッコ悪いです。だから私の前以外ではしないで下さい」

 慈しみの風が柔らかく吹いて、だったら、もっと甘えようの気持ちより、カッコ付けようと胸に湧いた、俺は背筋を伸ばす。

「ここだけにする」

 アキラはニコリと笑って、それでですね、と始める。

「二冊目の冊子に必要な原稿が出揃いました。これを出すのに合わせてイベントをします」

「イベント?」

「はい。最初の頃に色々イベントも考えていると言ったじゃないですか。それを実行します」

 そんなことを言っていたような気もする。

「それで、どんなことをするの?」

「上手く行けばライオンさんの『読まれていないかも知れない不安』を払拭出来ます。これから出すチラシに告知を載せます。もちろん、ホームページでも。人数が必要なので親友二人に手伝って貰って、ライオンさんと私を合わせて四人体制でやります。七月の冊子を置く日の前日の土曜日と、当日の日曜日に、御徒町のパンダ広場、許可は既に取ってあります。準備は任せて下さい。具体的なイベントの内容は――」

 アキラがすごいところは、突飛な発想でもそれをする意志と、それをやり抜く力を併せ持っていることだ。だからこのイベントも完遂されるだろう。全容を聞いて、「マジか」と漏れてしまったけど、ネットで世界に向けて公開しているのに比べれば軽いもの、の筈。

「面白いでしょ?」

「ヤバいね」

「きっと成功させましょう」

 アキラの笑顔がキラキラしている。自信よりも、好奇心とか悪ノリとかの方が合っているような光が眼の底にある。でも同時に、club Flamingoのために考え抜いた痕跡もしっかりと彼女の話にはあって、そう言う二つが同居することに、イベントそのものへの興味だけじゃなく、惹かれる。彼女の話を聞きたくなる。いや、もっとずっと前から彼女の話を信じている、信じ続けている、それに懸けると決め続けている。


 設営を始めたときから視線は集まっていて、イベントが成功する最低限の条件、目立つことは達成されそうだ。

「アキラ、テーブルの位置はここでいい?」

 俺と同じくらいの身長があるロングヘアーの彼女と。

「俺は他にやることある?」

 カリカリに痩せた小柄な彼は、アキラの連れて来た親友で、準備段階から尽力してくれたらしい。

陽菜乃ひなの、テーブルはばっちり。空太くうたは裏側を始めて。私は前側の冊子の準備をするから、陽菜乃はこっちを手伝って」

「アキラさん、俺は?」

 勇気を絞って割って入る。

「すぐ終わるんで、見ていて下さい。始まってからはライオンさんが一番忙しいですから」

 いつもよりピリピリしているから、はい、と言って俺は一歩退がって、三人のテキパキとした動きを目で追う。始めてから十五分足らずで設営は完了する。俺は完成したものを眺める。

 壁。

 パンダ広場の中央に、高さは背伸びして目一杯手を伸ばしたくらい、横は二十歩くらいの「壁」が出来た。

 小説。

 そこに、ビリヤードの玉くらいのサイズの文字で、俺の長編「中和ドミノ」の最初の一節が縦書きに印字されている。ちょっと遠くても十分に読める大きさだ。

 壁の小説が終わる端には、「この小説の続きは冊子Flamingoで読めます。立ち読み用、購入用の両方を用意してあります」と、「壁の裏側には自由に感想を書いて下さい」「冊子Flamingoは以下の店舗でも読むことが出来ます。『喫茶店ジュア』『喫茶店ヴィト』『――』――」と記されている。

 壁小説の前にテーブルがいくつか設置され、「立ち読み用」と書かれたFlamingoの二号が五冊、間隔を空けて並べてある。

「終わったとき、俺は笑っているだろうか」

 じっとり汗が出る。七月の朝の空気のせいじゃない。今年は蝉がまだだ、ここに小説を貼るのって、蝉が鳴くのと似ている。俺が今年最初の蝉だ。

「ライオンさん、来て下さい」

「はい」

 硬い返事で小走りで、三人のところへ行く。アキラが一人一人の眼を順番に見てから、始める。

「今回のイベントは、壁にある小説で人を呼び込んで、立ち読み用を読んで貰って、場合によっては冊子を買って貰います。壁の裏側は感想を自由に書けるコーナーですが、どんな酷いものでも放置して下さい。ここまでは全部が客寄せパンダです。私達の本丸は、読んで興味を持った人と交流をすることです。他の三人も対応はしますが、システムの運営が中心で、お客さんとのことはライオンさんに担当して貰います。何か質問はありますか?」

 親友二人は首を振る。俺も、俺が前に出る意味を営業のときにしっかり学んでいるから、同じく首を振る。

「では、事前の打ち合わせ通りに、陽菜乃と空太が交代で売り子と立っての説明、私は全体の指揮、ライオンさんは売り子の付近で最初はスタンバイして下さい」

 三人が声を揃えて応じる。

「了解」

「で、事前に読んで来ているとは思いますけど、開始する前に壁の小説をもう一度読んでから始めましょう」

 俺達は壁小説を眺める位置まで退がって、誰が号令を出すでもなく、読む。


『中和ドミノ

              水玉ライオン


 世界は青い。

 それは空のせいでも、街のせいでも、花のせいでもない。

 俺がその原因で結果である証拠が、二十四時間おきに訪れるから、まるでそれは俺が明日も生き残っていいのかを試すように、襲うから、備えなくてはならない。きっと天体を観測することを最初に始めたのは、農耕でも、航海でも、吉凶でもなくて、俺と同じ青さに空を見上げたそのときで、試練か拷問か、毎日のそれが夕陽と一致していることに気付くまでに時間は掛からなかっただろう。

 そのとき、青は中和される。

 夕焼けのあかのせいだと、原始の仲間は思った筈だ。俺も同じ。

 中央線のドアの側。まだ車窓の向こう側は昼の終わりの継ぎ目に届いていない。ヘッドフォンから流れる音量が塞いでいるのは車内の雑音じゃない、もうすぐ来る今日の紅に、じりじりと迫るそれに、震えている自分自身の声だ。圧殺してしまえば他のことが出来る。どうせ来るのだ、怯えて消耗するよりもやり過ごす方がいい。

 新宿に到着する。読み差しの漫画を閉じて、肩掛けの鞄の中にしまう。

 ホームは夕方に侵食され始めている。

「何で」

 この時間帯に、お使いをしなくちゃならない。思った途端に早江さえの顔が浮かぶ。石みたいだった顔がやっと動くようになった。病気じゃないことは最初から知っていたし、だから、もう少しできっと笑うから、俺は引き受けた。だけど、店が日時を指定した。行くことに不満はないんだ、タイミングを選びたかった。。

 ホームをそのまま抜けて、最短の出口を縫って、魔の時間が来る直前に店に着いた。

「受け取りに来た、広田ひろたです」

 ああ、はい、広田さんね、店員は退屈の延長線を引くように応じて、店の奥からモノを取って来る。

 紙袋に入れながら、今更のように確認する。

「魔法少女スカーアンドワウンドの、白詰草しろつめくさ紀美子きみこの衣装で間違いないですか?」

「はい。ありがとうございます」

 言葉が終わる前に、始まった。体全体で察知する。紅はどれだけ物理的に遮蔽していても無関係に侵入して来る、ごちゃごちゃした場所でアニメの服のことを初対面の人と話していようとも、変わらない。胸の中が、虚空に吸い上げられる。青と紅が中和するとうろになるのだ。こころとか、情緒とか、感性とか、俺の中にあるあらゆるものが吸われて、俺は空っぽになろうとする。でもそれはずっと続く。どこかでからになるのではなくて、吸われている状態が続く。永久機関のように、紅が終わるまで。だからもしかしたら吸うべきものが中和の時間よりも多いのか、いや、違う。そうではないことは分かる。何かを吸っているのではなくて、吸われている感じがずっと続いていて、本当は俺の中の全てのものはずっとその場所にあり続けている。何故なら、中和が終わって自分の中に、それらはちゃんとあるから、いつも。

 でも今は無効に抗うだけ。

「うっ!」

 俺は胸を押さえる。手の蓋では流出が止まらないことは知っている。それでも押さえずにいられない。しゃがむ。その方がちょっとだけ苦しくない。汗が出る。動悸がする。息が出来ない。

「おい、あんた大丈夫ですか?」

 驚いたのだろう、日本語がおかしくなっている。そりゃそうだ。外から見たら心筋梗塞にしか見えない。

「大丈夫です。いつもの発作です。少し、休ませて貰っていいですか?」

「もちろんです。こっちに来られますか?」

「ちょっと動けないです」

「少しだけでも動いて頂けると、嬉しいのですが」

 俺は頷くと、一番邪魔な場所にいるのがいたたまれないから、ずっずっと体をいざって、レジの前を開けた。中和は命に別状はない。それは何千回とこの身に受けているからそれで合っていると思う。にも関わらず、毎回死の恐怖があって、頭で無事を理解していても減じることが出来ない。

 はぁはぁと息をしながら女児向けのキャラクターの服の脇に座っていると、興奮し過ぎた客みたいで、俺はこう言う趣味は一切ないのだけど、それを喧伝する訳にも行かない。

 時間。

 時間だけがこの中和を終わらせる。嵐をやり過ごすのと同じように、不機嫌なあの人が元に戻るのを待つように。発作中は床が友達だ。他者は見上げるものになる。子供の頃に同じくらいの目線だったときには感じなかったのに、大学生の高さを知ってから這い擦ると、俺が酷く劣った人間性の持ち主なのだ、つまらない人間なのだと突き付けられる。俺は叩かれ過ぎてペシャンコになる。

 奪われて行く感覚に集中してもしなくても終わるまでの長さは同じ。だからなるべく他のことを考えるようにしている。頭はクリアーだから。死ぬ直前もこう言う感じなのかも知れない、冷静に味わうのだろう、死を。

 もう少し時間が早く流れればいいのに。

 早江は喜ぶかな。もう一歩笑いそうになるかな。外にある店に働きかけをするなんて、アニメ様々だ。スカーもワウンドも傷だよね。どんな内容なんだろう。彼女が許すなら今度、一緒に観てみよう。その内容について話せるかな、まだ早いかな。

 あ。

 ぎゅっと絞れていたつぼみがほどけるように世界の色が青に戻る。紅は最初からいなかったかのように、何も残さずに消える。

 俺はすくりと立ち上がり、店員に礼を言う。

「大丈夫ですか?」

「はい。発作は、終わってしまえば普通の人です」

「それならいいですけど。汗がすごいですよ、ペーパータオル、使って下さい」

 小走りに店員が取って来たそれで頭と顔と掌を拭く。体の分まではなかった。

「ありがとうございます」

 捨てたら、店を出る。汗の残りだけじゃなく、心臓がまだ落ち着き切ってはいない。

「早江、待っていろ」

 新宿の夜の入りはしは、光に溢れている。昼間を引き延ばしたよりも、夜の中に輝く国を作ったような、昼よりも明るくて、それは地上のどこよりも、光の降り注ぐ楽園である極楽に近いのかも知れない。人工の天国の光は全てが欲望で灯っていて、美しい。もしかしたら人が作る全ての光は、夕陽の紅に抵抗するためのものなのかも知れない。溺れてみたら、変わるのかな。

 刹那に佇む、ヘッドフォンを外す。

 音が、俺を包み込むような雑踏と談笑の混じった音、車のエンジン、切り裂くように呼び込む声、方々から流れる音楽が、一つのうねりになって俺の中に流れ込んで来る。光と音、少しの匂い、でも早江が。

「帰ろう」

 踵を返して街に背を向けた。

「あれ? 広田くん?」

幸島ゆきしま先輩」

 彼女は俺よりも俺の持っているものに視線を固定して、笑う。違う、これは俺の趣味じゃない。

「その紙袋、広田くんもコスプレするんだ」

「これは、頼まれたもので、俺は取りに来ただけです。……も?」

「みんなそう言うけどね、私も他の人には。でも、仲間には違う」

 彼女は後ろ手に持っていた紙袋、俺が持っているそれと同じものを掲げて見せる。

「もしかして、尾けて来ました?」

「悪いとは思ったんだけど、話し掛けるチャンスがなくて、さ」

「店での俺、見ましたか?」

「ごめん、見ちゃった」

 頭を掻く手で髪の毛を引っ張り、項垂れさせる。

 みっともない姿は人には見られたくはなかった。俺にこう言う宿痾があることを誰にも知られなくなかった。

「他の人に、言わないでおいて貰えますか?」

 彼女はふふふ、と笑う。

「いいよ。でも、夕ご飯くらいは奢って欲しいな」

「後輩にたかるんですか」

「今は対等な同好の志だもん」

 俺は首を振る。

「それも違うんですって」

「まあ、食べながら聞くよ」

 早江には悪いけど数時間待って貰おう、明日からの俺の学校生活を中和と切り離したものに保ち続けるには、幸島先輩を説得しないといけない。一度は離れようとした喧騒の光の洪水の中へ、彼女の先導する船に乗って漕ぎ出す。どこへ連れて行かれるのか分からないけど、俺は早江のために離れようとしたその中に向かうことに、胸に跳ねるものを感じる。それは紅の後だからかも知れないし、街の光のせいかも知れないし、先輩のせいかも知れない。誰かに引っ張られて歩くなんて、ずっとなかった。手こそ握っていないけど、彼女の歩いたところにだけ道が出来ている。俺は今だけは迷わずに進んでいる。


 この小説の続きは冊子Flamingoで読めます』


「ライオンさん」

 空太が横に来る。

「俺、アキラからライオンさんを見付けて欲しいって頼まれたときに、技術的には簡単なんですけど、罪は罪じゃないですか」

「君がハッカー君なんですね」

 彼は頷く。

「ライオンさんの作品を見て決めたんです。する価値があるかどうか。でも、そのときは確信まで行かない、でもアキラが望むなら、いいか、くらいでした」

「ちょうど一年前ですね」

「でも、最近は、特にこの作品は、俺、やってよかったって思えます。アキラと比べたらひよっ子レベルですけど、俺もライオンさんの小説好きです。と言うか、同じ人間が、こんな文章書けることが、すごいです」

 ハッカーってもっと複雑な生き物かと思っていたけど、それこそが先入観でしかない、俺は彼と今日出会ったのだから、彼のことは今日知り始める、事前情報も余計な付加情報も、人にこそ要らない。

「まだまだですよ。富士山を登るなら、やっと布団から出たくらいです。布団から出してくれたのは、アキラさん」

「アキラの眼力はすごいです。その先も」

「俺も負けないですよ」

「はい。今日はよろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げたら空太は売り子の場所に収まる。俺はその付近で立つ。陽菜乃とアキラが壁の前に立つ。開始の合図はないけど、もう始まっている。

 だけど、視線をこっちに寄越す人は多いのに、誰も近付いて来ない。

 俺は立っている、時間だけが流れて行く。俺の小説もこんな風に流されているのかな。

 アキラは全然堪えていない顔をしていて、他の二人も余裕しゃくしゃくの表情。俺だけが焦っている。

 と、男性が近付いて来た。

「水玉さん、どうですか、イベントは?」

「店長、どうしたんですか?」

 ジュアの店長だ。私服姿だ、開店前に来てくれたよう。

「だってここに来たらFlamingoの二号が一日早く読めるって、告知に書いてあったから、もう、居ても立っても居られなくて」

「そんなに想ってくれているなんて。嬉しいです」

 アキラの耳が大きくなっている。

「しかし、閑古鳥が鳴いていますね。この壁なんて最高なのに」

「何かいい方法はありませんか?」

「サクラがいいでしょう。呼び込みは小説を読むことを邪魔するのでお勧めしません」

「もう人員はいっぱいいっぱいです」

「そうですね、でも、無理に広げなくてもいいと思いますよ。街の人は一定数Flamingoを知っている訳ですし、壁の小説の出来栄えは素晴らしいですから。自然発生的にサクラじゃないですけど、読者が始まれば連鎖しますよ」

 店長は二号を買うと、早く読みたいので、これで、といなくなった。

 その店長と交代するように若い女性が近付いて来た。読んでいる。壁の小説を確実に読んでいる。

 俺達四人は声に出さないで、その様への感嘆を視線で渡し合って、彼女が途中でドロップアウトしないかを固唾を飲んで見守る。

「いいとこで、続く、くれるわね」

 彼女は悔しいのか嬉しいのか分からない顔をして、立ち読み用のFlamingo二号を手に取る。

 よっしゃ!

 四人のこころの声が有機的に反響したのが呼び寄せたのか、立ち読みをする彼女が発生したことを見てなのか、パラパラとイベントに人が近付いて来た。大半はそのまま壁小説を読むかその途中でやめて、行ってしまうけど、一人ずつ立ち読みが増えて行く。もし最後まで読んだら平均的な読書スピードで三時間は掛かる。それをここでするのももちろんアリだけど、街の読者はどう出るか。最初の女性はまだ読んでいる。読み切る感じだし、読むのが早い。他の人は短編を読んでいる人、長編を読んでいる人、立ち読みをするけどやめる人、それぞれの動き。

 俺は最初の彼女が俺のところに来ると構えていたのに、立ち読みをすぐやめたおじさんが冊子を買いに来た。

「君達、面白いことやっているじゃないか」

 空太を制して、俺が応じる。

「ありがとうございます。普段は向こうに書いてある喫茶店などにフリーペーパーと冊子を置いています。ホームページからも閲覧可能です」

「水玉ライオン、その人は今日はいるのかな?」

「私がそうです」

 おじさんは急に、眩しいものを見るような顔をする。

「取り敢えずサイン貰っていいかな。表紙の裏がいいな」

 もちろん受ける。

 俺は「水玉ライオン」のサインと日付け、おじさんの名前である「都築つづきさんへ」と書いた。おじさんはキューンと嬉しそうな顔をするから、サービスしたくなった。

「都築さんが、Flamingo二号のサイン第一号です」

「おおっ、そうか、俺が最初か、うん、いい響き、いい響きだ」

「喜んで頂けると嬉しいです」

「俺はさ、あの壁のね、壁の作品を読んで、夜の蛾が光に吸い寄せられるようにここに来ちゃったんだよ。続きを読み始めて、確信したね、これは腰を据えて読むべきものだって。しかも短編も付いて来る。だからまだ感想は熟してないけど、俺はあんたの小説が好きだ。これからも応援するからな」

 俺は頭を下げて、一番欲しかったものがあっさり与えられて、それでも体の深部にある湖が激震に揺れて、跳ねるように言葉が出る。

「ありがとうございます!」

 おじさんは去り、交代で背の低い初老の女の人が来た。最初の女性はまだ読んでいる。

「著者の方ですか?」

「はい、そうです」

「分かり易いように、張り紙などをした方がいいと思います」

 俺はなるほどと、アキラを呼ぶ。

「著者って分かるように何かして欲しい」

「分かりました。すぐに対応します」

 アキラがいなくなって、その女性に、すいません、まだ慣れなくて、と声を掛け返す。

「久しぶりにいい小説を読みました。長編の方はまだ途中ですけど、本の中の短編が実に美味しかったです。特に『までの溝』がよかったです」

 女性はじっと俺を見詰めてから言葉を継ぐ。

「彼我は別である、単純な真理です。そしてこころが関係性がそれを越える橋になる。当たり前のようなことがそうではない、そしてそれを達成すること。ああ何て言えばいいのでしょう。言葉にするだけ受けたものの豊穣さが失われるような、不思議です、言葉で書いてあるもので得たものが言葉にすることで損ねられる、こう言うのを二次的な読書体験と言えばいいのでしょうか」

 彼女は一人で完結してくるくる回っているよう。介助すれば介助するだけ回りそう。

「そうですね」

 だから最低限にする。

「もしもっと読んだら、もっと感じてしまうのでしょうか? 感じていいのでしょうか?」

「感じて下さい。過去作も読んで下さい」

「読ませて頂きます」

 そのとき、彼女の後ろに二人並んだ。彼女はそれに気付いて、では、と冊子を買って帰った。二人はカップルのようで、口々に作品のことを喋った。

 アキラが持ってきた手のひら大の白いシールに太字で「著者」と書いて胸と背中に貼る。

 しばらく時間が空いたり、読み終えた最初の女性と話したり、数人の列が出来たりしながらイベントは進行して行き、順番に昼休みを十分ずつ取って、アキラが用意したコンビニおにぎりとお茶を急いで食べる。午後になって、人の流れは変わったけど、イベントに来る数はそんなに増えない。減りもしない。そして、今のところ一見の、イベントで俺達を知ったと言う人しか、ジュアの店長を除けば、いない。

「期待していたよりも俺の同人誌は読まれてないのかも」

 隙間の時間に呟いたら、アキラがつかつかとやって来て、何かを言おうとして、やめた。

「何?」

「まだ、結論を出すのは早いです」

 多分もっと、そのためのイベントだ、とか、読んでいる人はわざわざ来ない、とか、たくさんの言葉が彼女の中で渦巻いて、でもそれを今言ってもしょうがないから、そう言った。

「ごめん。俺も愚痴るのは今じゃないよな」

「そうです。目の前にお客さんがいます」

 真剣な眼差しが、ふ、と緩んで、るー、とイベント全体を見渡すから、俺も同じように眺めた。俺の小説を読みに、今日だけでもたくさんの人が来てくれて、今も、壁の小説を読んでいる人、立ち読みをしている人、冊子を買う人、そしてそれを支えるアキラ、空太、陽菜乃。

 俺は自分の目前のことしか捉えられてなかった。急に、今やっていることがとてつもなく大切なこと、腑に落ちるの逆回しのように腹の底から胸の内側を蹴って、俺に満ちる。

「アキラさん、もう大丈夫」

「そのようですね」

 一瞬視線を交差させて、それぞれの持ち場に戻る。


 陽が暮れたら照明のないこのイベントは終わる。傾き始めた太陽が今日を終えるまであと数時間。客はやはり増えも減りもしないで、俺は相手に応じて話をし続ける。

 今年最初の蝉が鳴いた。

 俺は空いていて、立ち読みの客をぼうっと見ていた。だからすぐ側に来るまで気付かなかった。

「晴一、何やっているの!?」

 耳許の声に驚いたのはその音量のせいじゃない、声が示すその主の存在にだ。

「春子」

 スタッフ三人が臨戦態勢になったのが分かる。同時に今いる客への対応も続けている。

「小説。小説。こんなものを人様に晒して、小説、どうかしているわ」

「お前にはもう関係のないことだろ」

「別れたのは事実よ。だけど、晴一、あなたが私を捨てたせいで私は不幸になったのよ」

「違うだろ」

 春子はダン! と足踏みをする。イベントに向かうべき集中が春子に引っ張られる。

「一回だけチャンスをあげる。今ここで跪いて、小説をやめると誓えば、また付き合ってあげる」

 俺はゆっくりと首を振る。自分の眼に怨嗟が灯っているのが分かる。

「絶対に嫌だ。お前と付き合うのも、小説をやめるのも、死んだって嫌だ」

 春子の顔が赤く青く、眼に命がないのに敵意と軽蔑だけが宿る。

「晴一、あなたが小説を書くから私が不幸になるのよ」

「それとこれとは関係ない」

 俺を睨んで、検分するように俺の体を視線で舐め回す。

「『著者』なんて貼って。何様のつもり!」

「俺はこの小説の著者だ。ここにある全ての小説の著者だ」

 俺が全身で示したイベントに春子の視線が誘導されて、その眼に映ったものが、さっきも見ていた筈なのに、毒の光でも含んでいるかのような苦い顔をする。

「小説さえなければ、私は不幸にならなかった」

「だから関係ない」

「小説さえなければ。小説さえ」

 春子は壁の小説の方にゆらゆらと近寄って行く。多分嫌なことが起きると分かったのに、俺はその場を動かなかった。きっと動こうと思えば動けた、だけど、春子に近付きたくなかった、それ以上に、春子が現れたことで現実感が損なわれていた。

「小説がいけないのよ!」

 春子が壁の小説に到達して、両手を振り上げ、壁を叩く。ドン! と大きな音がして、広場中の人がそこに注目する。でも、壁は壊れなかった。春子は諦めない。もう一度腕を振り上げた。

「やめなさい!」

 アキラがその腕を掴む。すぐに空太達も駆け付けて、春子を取り押さえる。

 ギャー! と春子の金切り声が響く、おろおろしている俺に叫ぶ。

「小説が、私を不幸にした! お前が小説さえ書かなければ!」

 俺は首を振る。

「違う」

 アキラ達ともみ合いながら春子はなおも叫び続ける。

「みなさん! この小説を書いた男、あの男、そのせいで私は不幸になりました! あの男の不実を許さない!」

「違う」

「全く価値のない小説なんかに興じて私を不幸に、不幸にしたんです!」

「違う!」

「この男の小説は無価値です! 人を不幸にするだけの力しかありません!」

 俺が反論をしようとしたときに、知らない声が割って入った。

「お姉ちゃん。あんた、水玉ライオンの小説、読んだことないだろ」

「はぁ? どうして糞と分かっているものを読むんだよ?」

「なあ、読んだことないなら、その口を閉じな!」

 その男、知っている。ジュアで小説をいつも読んでいるおじさんだ。その剣幕に春子が黙った。

「俺は小説を読むことにかけては日本屈指と自負している。お前のこき下ろした小説で、俺は感動したんだ。お前が攻撃しているのは、彼の小説に動かされた全ての読者だ。だから、その全員からの反撃が始まるからな!」

 口を噤んでも、春子はまだ壁を叩こうとして、でも三人に抑えられて機能していない。

 おじさんは俺の方を向く。

「俺は君の小説を、フリーペーパーも冊子も読んでいる。少なくともここに一人、君の小説で幸せになった男がいる。あんな女に負けないでくれ」

 言葉に鳥肌が立つ。応じようとした、それより早く次の声が入った。若い女性。

「私も、読んでいるよ。次の号が出るの、楽しみなんだ。私も、幸せ一つ、だよ」

 別の女性が継ぐ。

「私にも幸せ一つ、くれています。全号取っています」

「俺は今日からファンだ。冊子は買ってくよ。ファンになった日こそ、幸せ一つだ」

「僕も今日から」

「私も」

 春子の周りを、俺の周りを、俺の小説で幸せを一つ得た人が囲む。

「水玉ライオンさん、負けないで!」

「あなたは小説を書くべき人です!」

「新作待っています」

 騒ぎが人を呼び、俺達を中心とした人垣が壁の前に出来る。俺と俺の小説を応援している、全世界が俺の味方をしている、俺がして来たことは正しい、小説は意味がある。入って来る声が俺の根源とぶつかって波紋を生む、それは愛のようで、勇気のようで、でも嬉しい、俺は無敵だ。

 春子から力が抜ける。それでもアキラは離さない。

「離して。もう壊したりしないわ」

「信用できない」

 アキラの眼が釣り上がって、汗がぽたぽた垂れている。

「本当よ」

「私は今からあなたを殺す。あの世で反省しなさい」

 アキラの顔を覗き見た春子が、目を見開いて、顔中を強張らせる。

「助けて」

 その声を合図に、俺は春子にゆっくりと近付く。彼女の高さに目線を合わせる。

「春子。お前の負けだよ。小説の勝ちだ。俺じゃない、俺の小説がお前を退けたんだ」

 ふん、と春子は横を向く。だけどそれは強がりにもならない、震えを伴うもの。

「もう二度と関わるな。俺にも、俺の仲間にも。約束出来ないならこのまま警察に突き出す」

「もういいわよ。十分よ。関わらないわ」

 アキラは手を離さない。春子が小さな声で「殺さないで」とアキラに言った。

 俺は春子から目を切って、人垣に向く。両手を挙げて、注目を呼ぶ。

「篤い声援、幸せの声、ありがとうございます! これからも俺は書き続けます。Flamingoをよろしくお願いします!」

 声が、「いいぞー!」「待っている!」と掛かる。

「今、トラブルになった女性は、もう何もしない、小説も否定しないと誓いました。恨みも怒りもなしです。どうぞ安全に帰しましょう」

 アキラにもう手を離していい、と伝え、空太に、安全なところまで送って欲しいと告げると、二人とも頷き、春子は空太に連行されて壁の端から退場した。俺ではなく、何度もアキラの方を春子は振り返った。

 皆に向かって深く一礼すると、人々から拍手が沸き起こり、感謝を何度も述べる間に徐々に冊子の販売とサインの時間になって、全部の客が掃けた頃には日が落ちていた。

「三人とも、今日は迷惑をかけました。すいません。それ以上に、ありがとう」

 アキラが春子を掴んでいたのと同じ人とは思えない、優しい顔で笑う。

「お陰で、ライオンさんに読者がいっぱいいることが分かったから、よしとします」

 後の二人も、ちょっと面白かった、くらいで、特に気にしていないよう。俺は胸を撫で下ろす。

「今日に懲りてもう関わっては来ないと思います。撃退出来たのは皆の力です」

 空太と陽菜乃が顔を見合わせてから、アキラを見る。二人の想いをアキラは受け取ったと手で示す。

「ライオンさん。これは全部ライオンさんの小説に端を発したことです。だから、彼女を撃退したのはあのときライオンさんが言った通り、小説の力が殆どです」

「殆ど?」

「あとちょっとだけは、私が脅しました。だって、許せなかったんです」

 俺は頷く。アキラが続ける。

「小説を、ライオンさんを破壊しようとすることが、許せなかった。だから思い切り脅しました。でも、もしライオンさんが帰さなかったら、私、やっちゃっていたかも知れません」

 アキラがカラカラと笑うから、俺も笑う。残りの二人も一緒に笑って、俺はアキラが自分の仲間なんだ、深く深くそれが届いて、きっと彼女のピンチには俺が助けよう。彼女がやり過ぎそうなときは俺が止めよう。笑い声の止むのを待ってアキラが号令を掛ける。

「さて、今日は撤収しましょう。また明日、がんばりましょう」


 次の日は、朝から盛況で、訊けば「昨日ここですごいことが起きたのが、拡散されていて、来た」とのこと。一日忙しく動いて、イベントを終えた。春子は二度と来なかった。


 ジュア、いつもの席。アキラと二人で座ったのを見計らって、店長がひょろりとした若い女性を連れて来た。

「club Flamingoに是非会いたいと言う方です。その情熱に私は打たれました。独断で紹介させて頂きます」

 ぺこりと頭を下げたその女性に見覚えがある。

「初めまして、半田はんだです。Flamingoを読んでファンになりました。それで、ご迷惑じゃなければ使って頂ければと思って作ったんです」

 アキラが不思議そうな顔で応じる。

「作ったんですか? 何をです?」

 半田は背負っていたリュックを下ろすと、「ここに出してもいいですか?」、返答をするより早くテーブルの上にコースターのようなものの束を置いた。

 俺達はその図案に釘付けになる。「Flamingoあります」の文字が二行にデザインされ、その背景には俺達の青いフラミンゴとピンクの背景がしっかり描かれている。俺はそれを手に取って、ステッカーになっている、ざっと五十枚はありそうだ。堪らずに問う。

「これ、どうしたんですか?」

「私デザインやっていて。大好きになっちゃったから何か出来ないかと思って、勝手に作っちゃいました。もし要らなかったら捨てるんで大丈夫です」

「店の入り口に貼るって想定ですよね」

 彼女はニコッと笑う。

「基本はそうですね。でも、ステッカーですから使い方は創意工夫次第です」

 アキラがステッカーから視線を上げる。

「ライオンさん、私はアリだと思います。ライオンさんはどうですか?」

「アリ」

「半田さん、このステッカー、使わせて貰っていいですか? 成約した店に配ります。場合によってはイベントとかで売ったりも出来ますし、イベントの告知にも使えます」

 半田はにんまりと笑う。傍の店長も嬉しそうだ。

「ありがとうございます。微力ですが応援させて下さい」

 アキラが刹那に思案する。

「代金はどうしましょう」

「私の趣味ですから、要りません」

「では、今後増刷をお願いするときからは払わせて下さい」

 どうしようかな、と天を見詰めてから、半田はうんうんと頷く。

「じゃあそう言うことでいいです。私としては使って貰えること自体がご褒美だから、それ以上は求めません。故に、言うことをききます」

「では、今あるステッカーは全部頂きます」

 アキラがテーブルの上のそれをひと所に纏めようとした、半田がリュックの中からさらにステッカーを出す。どんどん出す。テーブルに積み上げる。アキラが眼を瞬かせる。

「何枚あるんですか?」

「ちょっとオーダー間違えちゃって、五十の筈が五百枚刷っちゃったんです」

 ニコニコ笑いながら彼女はステッカーの山を築いた。

 アキラは半田に名刺を渡す。「営業」の名刺。

「半田さん、ありがとうございます。これからもいい小説が届けられるように、がんばります」

「期待しています。では」

 帰ろうとする彼女を俺が止める。

「ちょっと待って下さい。俺と半田さん、どこかで会っていますよね?」

「そんな過去のことはもう重要じゃないと思いますけど」

「気になります」

 半田は微かな溜め息を漏らす。

「ライオンさん、街で喧嘩売ろうとしていた日があったでしょ? そのときどうしてもあなたからアンケートを取らないといけなくなっちゃったんです」

 彼女は過去と現在を区切るように一瞬黙る。

「ステッカーはFlamingo時代のライオンさんから生じたものです。別でしょ?」

 言われるまで思い出さない、春子にまつわる記憶、それはもう今と断絶している。

「確かに、別です。重要じゃないですね」

「じゃあ今度こそ、さよなら」

 彼女はひらひらと階段を降りて、帰って行った。

「広がり始めましたね」

 店長は喜びを業務用の顔でグッと抑え込みながら漏らして、階下へ。

 ステッカーの山の前で二人に戻り、深呼吸をしてコーヒーを飲む。

 新作の短編の「one-dollar」「触れたものだけ」をアキラに見て貰う。愛と鞭が両方ともビシバシ飛ぶ。

 小説自体の打ち合わせを終えて、改めてアキラが始める。

「ライオンさん、前回のイベントから半年が近付いて来ています。Flamingo三号の刊行に合わせて、次のイベントをします」

 俺は身を乗り出す。

「今度はどんな?」

「3331って知っていますか?」

「廃校を改造して、教室跡でいろんなアーティストが活動しているところだよね、……まさか」

 アキラはニッと笑う。

「そのまさかです。一部屋を借りて、個展をします。史上初かも知れません。小説の展覧会」

「また、ヤバいの考えたね」

 アキラの眼と頬がキラリと光る。

「きっと成功しますよ」

「前回は大成功だったもんね」

「ラッキーもありました」

 二人とも小さく黙る。俺はラッキーの内訳を思い起こす、きっとアキラも。

「俺はあの事件のとき、書くことの意味とか、喜びとか、そう言う、また書こうと思える全てを感じた」

「私も、ライオンさんの作品を伝える意義を再確認しました」

 俺は新しく始めるように。

「その中でも、街の人達が、幸せ一つ、貰っていると伝えてくれたのが強烈だった」

「あのとき、私こそ、『私が一番幸せなんです!』って叫びたかったです」

 俺が笑うと、アキラも一緒になって笑う。

 その笑いを俺は収めて、静かに構えたらアキラの眼をじっと見る。

「俺の小説が最初に幸せにしたのはアキラさんだ」

 アキラは頷く。

「これからも、一番でいて欲しい」

「……はい!」

 俺達はイベントの打ち合わせをして、帰る。

 左右に分かれて歩くのに、背中に彼女の気配を感じる。

 俺は一人じゃなくて、夢の真ん中で。その夢を二人で見ていて。

 ふ、と笑いが込み上げる。

「俺こそ……」

 空に言葉を溶かしたら、次の短編の構想を練る。


                 (了)

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