第5話 美織、絶体絶命!(5)

[5]

 でも、翌日、五島君は、結局、陸上部の練習には参加しませんでした。

 それどころではありませんでした。

 朋美と航と、陸上部顧問の北山先生までが、京都府警察署に呼び出されてしまったのです。

 警察に行くと、美織と悦子お姉さんまでが呼び出されている始末です。

 昨夜あれから、不良グループの2年生の1人が、親に連れられて警察に出頭して来て、そこから芋づる式にグループの少年たちは補導され、リーダー格の21歳の若者も逮捕されたのでした。

 そうして、五島君とお母さんも、警察に呼ばれて来ていました。

 と言っても、五島君は被害者です。

 事情を訊かれて、これまで何度もお金を取られた話をして、調書が取られただけでした。

 朋美はそうは行きませんでした。

 状況を細かく訊かれて、無茶をするとお巡りさんに叱られ、北山先生にも叱られ、後からやって来たママとパパにも叱られて、解放されたのは夜8時過ぎでした。

「なんで、うちが叱られなあかんのぉお!」

 鴨川沿いを帰る夜道で、朋美は、どうにも納得がいきませんでした。

「なんでて、堪忍してやあ、朋美ちゃん!」

 隣で愚痴っているのは悦子お姉さんです。

「あんたも、あんたや!」

と、美織の頭をぺしぺし叩きます。

「あんたの身に何かあってみい? 私、おかしなるで!」

「美織に『ハッタリ』を持たせたんは、悦子お姉さんなんやろう?」

と、朋美が文句を言うと、

「あんな使い方すると、思わんわ! 美織が大人しいから、ハッパかけるつもりで持たせたんや。ジョークや! ジョークの通じんロボットや!!」

と、嘆きまくります。

「そういえば」

 朋美は、お巡りさんから聞いた話を思い出しました。

「リーダー格やったあいつ、最初、美織をロボットやって気づかんかったって、本当やろか?」

「本当に分からんかったらしいよ」

 悦子お姉さんは答えました。

「まあ、暗かったいうのもあるんやろうけど、美織の事を知らんかったんやろうな」

「あいつ、やっぱり、アホやなあ!!」

 朋美は、あきれてしまいました。

「美織なんて、一目見れば、ロボットやって分かるのになあ?」

 新聞やテレビのニュースを見ないと、こうなります。

「アホで良かったわ!」

 悦子お姉さんが言いました。

「あの男が、あの場で美織に何もしなかったのは、やっぱり、美織を人間だと思ったからやと思うよ。

 どんな奴かて、悪事を人に見られた思えば、一瞬は焦るもんや。

 はじめから美織をロボットや思っとったら、何をしてたか分からへんかった思うよ。そうなっとったら、どうなっとったと思う?」

 そう言って、悦子お姉さんは、また、美織の頭をぺしぺし叩いて、愚痴を繰り返すのでした。

「まったく、あんたに何かあったら、私、おかしなるわ!」



「あ、そうや!」

 朋美は、ふと思い出して尋ねました。

「前から気になっとったんやけど、美織って“アンドロイド”でええの?」

「ん? そうやぁ。朋美ちゃん、よう知っとったなあ? 美織は“Android”や」

 悦子お姉さんは、ぺしぺしを止めて答えました。

「ふうん。そうなんや? やっぱり、そうかあ‥‥」

 実は、学校で、美織が“アンドロイド”か“ロボット”か、ちょっとした議論になっていたのでした。

 朋美は、一目見て機械と分かる美織は“アンドロイド”とは言わないだろうと考えていたのですが、でも、美織を作った近江工業の悦子お姉さんが言うのですから、これほど確かな話はありません。

 ところが、ふと気づくと、美織が、先ほどから何も言わずに黙りこくっています。

「ん? 美織、どうかしたん?」

 朋美が尋ねると、美織は、信じられないような低い声で、

「美織は、“Android”やありまへんんん」

と、言い出しました。

「え? 違うん?」

 朋美が尋ねると、

「美織は、“Android for Miori”ですぅ」

と言い出します。

「“アンドロイド・フォー・美織”ィ!?」

 朋美は、オウム返ししてしまいました。

「やかましい子やな!」

 悦子お姉さんが言いました。

「“Android”の拡張なんやから、“Android”でええやろ!」

 言うと、

「美織は、スマートフォンやありまへぇん!」

 言い返して来ます。

「はいはい、分かりました!」

 悦子お姉さんは言いました。

「あんたで電話はかけられへんな?」

 すると、美織は、頬をぷうぅと膨らまして、一人ですたすたと歩いて行ってしまいました。

「えええーっ!? 美織は、なんで怒っとんのぉお!?」

 訳の分からない朋美は、あわてて追い掛けて行きました。



(第5話 終り)

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アンドロイド美織 デリカテッセン38 @Delicatessen38

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