第二章 王都フレスタ

第38話


 ウンディーネちゃんをイルガーナに返した後、俺達は次の目的地の確認をしていた。


「さて、レミアムはフレスタへ向かうっつってたか」

「そうだね。元は宮廷魔術師候補だったらしいし、そっちの知り合いにでも会いに行ってるんじゃないかな」

「宮廷魔術師ですか……」


 メデューサが苦虫を嚙み潰したように顔を歪める。

 宮廷魔術師と言えば、アレイスタ王国が誇る魔王軍への対抗手段の一角だ。メデューサからしてみれば忌々しい相手なのかもしれない。


「ベルには悪いが、すぐにフレスタへ向かうってことでいいか?」

「うん、構わないよ」

「なんじゃ、観光はしていかんのか?」


 少し残念そうにするインフェルノちゃん。


「観光はまた今度でいいだろ。また戻ってくるんだし」

「……そうじゃな」


 インフェルノちゃんが若干不服そうな色をはらみながらも納得を示す。そんなに観光が楽しみだったのだろうか。


「それで、どうやって行くつもりなんだい?」

「まあ、普通に考えれば馬車だよな」

「てことは、何か秘策でもあるんですか?」


 メデューサが期待の眼差しを向けてくる。


「うん?ないけど?」

「へ?」

「普通に馬車だろ」


 いったい何を期待しているのか。もはやSランクパーティーという肩書もなくなったし、俺達はただの冒険者なのだ。


「えー……あ、なら魔王軍の転移門使います?」

「いやいやいや」


 妙案とばかりに言うメデューサだが、それはどう考えてもアウトなやつだ。


「つーかお前の常識はどうなってんだよ。魔王軍に顔向けできるのか?」

「別にできますよ?人間と共にいるスパイも結構いますし、私も経験者ですし」

「ええ……そんなもんなのか?」

「むしろこちらとしては、魔王軍にスパイを送ってこない人間たちの方が馬鹿正直だなと思いますけど」

「ふむ……」


 たしかにそれも一理あるのかもしれない。

 魔王軍に下った人間もいるし、そのふりをして潜り込めばあるいは……


「いや、やっぱないわ」


 フリにしても、人を襲うなんて無理な話だ。少なくとも俺には。


「とにかく、馬車でぼちぼち移動って感じでいいよな?」

「うん」

「はーい」

「そうじゃの」


 三人の返事を聞いた俺は、早速馬車を運行している施設へと足を進めることにした。

 フレスタへ向かって、まずはレミアムに合う。協力をこぎつけること自体は、これまでのよしみもあるしそう難しくはないだろう。問題はきちんと魔道具を作れるかどうかだ。

 しかし、そんなことは今考えても仕方ないだろう。俺は魔道具に関してはほとんど知識はないし、ベルだって同じだったはずだ。実際レミアムに聞いてみないと見当もつかないし、勢いでさんか月なんて言ってしまったが、それもどうなるのかわからない。


(前途は多難か……でも、悪くない)


 無計画で馬鹿な奴と思われるかもしれないが、俺は今までにない喜びを感じていた。

 誰かのために全力を尽くせる。それは、俺に期待をしてくれているやつがいるからだ。その気持ちに応えるべく行動できることこそが前を向いて走れる理由なのだと、改めて実感したのだった。

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所属していたSランクパーティーが解散したんだが、スローライフ……というわけにはいかないようだ @YA07

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