7話
三咲ちゃんはココアを一口飲み、白い溜息を吐き「また質問するけど志悠さん、ロリコンなの?」と突飛な質問をしてきた。
ポーチから飲み物を取り出して口に含んだ瞬間だった為、吹き出しそうになりながら「違う、あれは」焦った顔で強く反射的な反論に対して「冗談よ」と親を揶揄う子供の様に笑いながら答えてきた。
「質問攻めして悪いわね、志悠さんの事ちょっと気になってね」気をそらす様に焦る私に告げ「そういえば志悠さんは私に何か聞きたいこと無い?」と先程の言葉に付け加えた。
聞きたい事と言われ、今日の出来事を一巡した。「名前を間違えた事、すまなかった。そこまで気にしているとは思わなかったんだ」と今朝の出来事について再度謝った。
真摯に謝ったつもりだが、当の三咲ちゃんはきょとんとした顔で私を見つめていた。「ああ今朝の」思い出すと同時に含み笑いをして「気にしてないわよ、話が長くなりそうだったから誤魔化しただけよ」
私は正に豆鉄砲を食らった鳩だった。そんな顔を数秒間していると「騙して悪かったわよ」と三咲ちゃんは含み笑いのまま答える。
それを聞いて安堵したが利用された様で落胆し、苦い顔をしていると「だから、悪かったわよ」と三咲ちゃんは先程の言葉を繰り返したが複雑な思いは拭えず、取り敢えず飲み込む。
それから暫く言葉を交わす事無く風で騒ぐ木々と共に数刻が過ぎる。心地良い雰囲気に呑まれそうになるが、先程は踏み込めなかった懸念が有った。
「添田さん、三咲ちゃんのお父さんとは仲悪いの?」
三咲ちゃんは少し暗い顔色を忍ばせ「別に」と冷たくあしらう。
力になりたいとは思うが、これ以上の関係はお互いにとって社会的な地位を揺るがすであろう事は明白だった。私は只、相槌を打つしか出来なかった。
なにより複雑な表情をする三咲ちゃんを見て安易に踏み込めないと悟ったのだ。
頃合いだと見て私は別れを告げようと口を開く、だが見計らった様にチャイムが昼だと言う。
お互いの目線は長い柱の時計に向いていた。12時を同時に指す針と元気に動き回る秒針は私を突き放すかのように冷静にしてくれた。
「もう行くよ」荷物を纏め、スポーツ飲料を飲み干し、ベンチから立ち、再度別れの挨拶をし公園を後にしようと足を進める。
「この曜日のこの時間に私は此処に居るから何かあったら来なさい」三咲ちゃんはそう言って手を振る。答える様に短く手を振り別れる。
きっと私は此処に来てしまう。三咲ちゃんと美樹を混同してしまう。そうして又同じ過ちを繰り返すだろう。
分かっていて尚、此処で三咲ちゃんと共に居る自分を容易に想像できてしまう。
美樹を殺した私が誰かの人生に関わって良いはずが無いのに。
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