3話

 「駅の方に用事がありますので」

 添田さんに警戒され、離れるべきだと悟り、遠慮に聞こえるであろう否定で場を退こうとするが。

 「いいじゃない、辺りを見ながら歩いてるってことは急いでないんでしょ」

 その鋭い質問は本人の顔と等しく否定を受け付けない素振りであった、だがここに私が居る事を良しとしていない添田さんが間に入っては「無理に勧めるのは良くないぞ」と開口し、気まずいながらも安堵する。

 「何か不味い理由でもあるわけ?」

 疑問なのか詰問なのか、どちらにせよ私はたじろぐばかりであった。だが添田さんは私が居る限り退くことが出来ずにいた。

 「散歩のついでに買い物を済ませようと言っただろう」

 「手伝うなんて言ってないわ」

 「今日だけ手伝わないなんて言うのか!?」

 「手伝ってるのが特別なのよ、今日は散歩したい気分なの」

 その後も何度か、言葉の応酬が繰り返され次第にお互いの言動に熱が帯び始める。その言い合いの中には現状に合っていない話が幾らか挙がりそのたびにお互いの熱量が増す。

 立ち去るにも制止するにも三咲ちゃんと添田さんの気迫に押され、ただ話の終わりを待つのみであった。

 「もういいわよ!」三咲ちゃんは耐えかねた様に来た道へと踵を返し歩き出す。添田さんは制止するよう声を上げるがそれ以上は止めなかった。

 添田さんは少しの間寂しそうに見送り、私に向き直り「すみません、娘の我が儘に付き合わせてしまって」といつもと同じ様子で話し出す。

先刻の事もあり顔色を窺いながら話しを流す。

 「寺田さんは三咲と会ったことがあるんですか?」と質問以上の意味を含む質問を投げかけてきた。

 「いえ」と否定から入ったものの単純な嘘すら思いつかず「姪に似ていたもので」と、遅れてぎこちなく嘘を吐く。「結構似ていて驚きました」と続けるが不自然さを取り戻すどころか更に不自然になる。

 「そうですか」と半ば納得がいかない様子ではあったがこの場は取り繕えたのだろうと胸を撫で下ろす。

 添田さんは「私は買い物の用事がありますので」と切り上げるが「娘さんは放っておいて大丈夫なんですか?」と私はそのままの疑問を訊く。

 「いつもあんな感じですから、多分近くの公園で友達と遊んでると思いますよ」

 それからお互いに挨拶を交わしその場を後にする。

 三咲ちゃんが放って置かれているのは信頼されているのか、追っても無駄だと思われているのか、どちらにせよ親としての行動に疑問を持つ。

 私が三咲ちゃんの心配をするのは美樹に似ている前提があるからだろうと薄々感ずいていた。

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