2話

 意味もなく駅へと進むその道沿いに、この町の数少ない子供たちの為の公園があるが、横目で眺めても影も気配もない。

 公園内に設置された自動販売機が、ふと気になり近づくが只の住宅街ということもあり目に付く物は無い。それでも少し乾いた喉を潤す為に金を投入しスポーツ飲料へと変換する。肌寒い冬には自動販売機から出てきたばかりのスポーツ飲料は数分と持つ気にはならず、少し口に含んだ所で腰のポーチに入れた。

 駅以外の目的も思いつかずただ呆然と駅に歩みを続け並木道に差し掛かる、普段は出勤や通学などで人が行きかって居るがこの時期この時間帯の様子は普段の並木道とは、別世界の様に見えた。

 そうして通勤時と違う通勤路の辺りを眺めながら歩いていると、前から親子であろう2人組が歩いてきて、キョロキョロしているのでは不審がられるのでは、と思い前に向き直す。

 そうしてその親子と交差しようとする少し前で父親であろう人が何かに気付いたように声を上げる。いや私に向かって声を上げているようだ、そうして反射的に顔を向ける。

 「やっぱり、寺田さんじゃないですか、あなたも散歩で?」

どうやら前から歩いて来たのは会社で横のデスクに居る添田さんのようだ。

 「添田さんこんにちは少し気が向いたので駅まで散歩をと、お子さんと仲いいんですね」

 横目で私を覘く添田さんの娘に目を向ける。微かな穏やかさと懐かしさがその横顔に秘められているような気がして見つめ返す。

 「三咲、挨拶しなさい」

 添田さんの娘は促され私に顔を向け、「こんにちは、三咲です」とため息混じりの挨拶をする。

 怪訝そうに発せられたその声はあの人に似ていた、それだけではない顔も容姿も彼女にそっくりだった。

 「美樹?」夢か幻かそれともあの世か、私の時間が経つことすら理解できない脳とは対に激情に揺られる心だけが思考を止める事はなかった。

 「寺田さん?」と、呼応する添田さんは明らかに心配よりも警戒に近い声色が含まれていた。

 現実に引き戻され自分の立場を危惧するが、場の空気は気まずくなる一方だった。だが空気など気にせぬが如く一歩前に出て「私、三咲なんですけど」と叱咤する。娘さんが私へ向けて放ったその言葉と怒りとも呆れとも取れる表情に添田さんは等しく呆気に取らる。

 「すみません」と謝るが、「私の名前は?」と叱咤の続きであろうその問は私を平静といかずとも現実に戻してくれた、少なくとも彼女が美樹ではなく三咲であることを実感できた。

 先程と同じ問いかけをする三咲ちゃんに「三咲ちゃん」と、困惑しながらも返答する。

 「まぁ、いいわ」不満気ではあるが「所であなたも散歩に来たのよね?一緒に行きましょ」と許してくれたようだ。だがその話に同意するにはあまりにも不審過ぎた。


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