5話

 「所で、ここで何してるの」

 静かに詰め寄る様に発された質問は、明らかに違う意図を含んでいた。

 「たまたま三咲ちゃんを公園で見かけて、でも話しかけるのは気まずいだろうとおもってな」

 「政人が泣いているのがそんなに気まずいの」

 三咲ちゃんの言葉は先と同じく静かに鋭く、他意など隠さずに核心を突いてくる。

 反対するように私は取り繕おうとして口を開くが、それと同時に後ろめたさが尾を引いて言葉が出なくなった。

 情けなかった、たった一人の子供に手を差し伸べる事すらできず、それについて謝罪も懺悔も言い訳より先に考えなかったのだ。

 「その、すまん」と頭を下げた。静かになった空間で子供達の笑い声や木々の騒めきが主張する。

 「別に、謝らなくていいわよ」と私の謝罪を一蹴する。

 「貴方が泣かせた訳でもないでしょ、只あの子を理由に逃げようとしたのが気に食わないだけよ」三咲ちゃんは表情を緩ませて続けた「だけど政人を助けようとしてくれてた事は謝らないで頂戴、あなたは十分立派よ」

 私は年端も行かない少女に慰められている事実よりも、美樹が私を許してくれている様で涙しそうになっていた。俯き、目頭を押さえる姿は余程大人には見えないだろう。

 「ここでは話辛いでしょうし、場所を変えましょ」と言いゆっくりと歩きだした。

 涙が収まった所で背を追う。後ろから見る三咲ちゃんの小さな背中に、美樹を重ねてしまう。

 先程の公園を通り過ぎた所で「三咲ちゃん」と呼ぶ声が聞こえた。声の主は地元の主婦数名であった。

 「お帰りなさい」と三咲ちゃんが呼応する。

 「ごめんね町内会で子供達任せちゃって、変な事なかった?」

 「政人くんが転んだだけで大事ありませんでしたよ」

 「政人はすぐ泣くけど丈夫だから三咲ちゃんは気にしなくていいわよ」

 地元の主婦数名は三咲ちゃんを囲む用にして談笑をしている。

 「あら三咲ちゃんの知り合い?」いきなりの事で混乱している最中、一人の主婦が矛先を向けてくる。

 「あ、はいそんなところです」と歯切れ悪く言葉を返す。

 「三咲ちゃんとはどんな関係なの」と深堀してくる。

 「父の同じ会社の社員ですよ、近くでばったり会ったので少し話してただけです」と三咲ちゃんが付け加える。その言葉が主婦の火蓋を切り、私も主婦の輪に巻き込まれた。

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