6話

 程無くして主婦達は「もう昼だし解散しましょ」と言って子供達を連れて行った。

 子供達を見送り、三咲ちゃんは「昼には早いし、もう少し話しましょ」と静まり返った公園へ振り向き、ベンチにハンカチを下敷きにして座る。

 公園の隅に設置された自動販売機でココアを買い、三咲ちゃんの隣に座る。その間に三咲ちゃんは怪訝そうに「あなた、ココアすきなの?」と聞いてきた。

 笑いを堪え「いや、三咲ちゃんが好きかなと」と手渡し「そう、ありがとう」と三咲ちゃんが手を伸ばすが、熱い為かたじろぐ。

 ポーチに入れたスポーツ飲料はココアと対照的に冷たくなっていて、飲んだ後は体を冷やしていく。隣に座る三咲ちゃんはココアに指を這わせ温度を確かめている。その儚げな横顔は美樹と過ごした幸せを懐古させた。

 「あなた名前聞いていなかったわね」と質問してきた。

 「寺田志悠だよ、覚える必要はないだろうけど」私は次会う事も係わる事もないと意思を漏らした。

 対して三咲ちゃんは小さく相槌を打ち「所で、美樹って誰?」と付け加えた。

 「昔の知り合いだよ」言い訳も詭弁も通用しないだろうと事実の一部を告白する。

 「責めたい訳じゃないわ」と前置きして「ただ貴方が私を美樹と呼んだ時、酷く怯えていたから」私に見えなかった事実を話した。そして納得するまで時間はかからなかった。

 「何かあったの?」その問い掛けに気まずい表情で返す事しかできなかった。

 「それとも疚しいでもあったのかしら?」

 三咲ちゃんなりの励ましだと分かっていたが半ば当てつけかのように「あったさ」と小さく肯定する。

 「訊いても良いかしら」そう言って三咲ちゃんは少し冷めたココアの缶を両手で持ち上げた。

 「係わりの無い人には言えないよ」三咲ちゃんが美樹に似ているとしても簡単に言える話ではなかった。

 「そう、色々訊いて悪かったわね。所でこのココア開かないんだけど」三咲ちゃんはプルタブに人差し指を掛けて力んでいるが、プルタブは少し浮くだけだった。

 対して私は面食らう様に少し口籠る「え、あぁちょっと貸して」渡された缶のプルタブに中指を掛けて開ける。

 「何で中指で開けたの?」三咲ちゃんは不思議そうな顔をして、素朴な質問を投げかける。

 「開けやすいから、かな?」曖昧だが正直に答える。

 「へー、そうなの」以前として不思議そうな顔のままだった。

 私はこれが普通だと思っていたが、変なのか?

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