8話

 冬の風に煽られながら駅への並木道を通り抜け、何時もの道とは違う階段を上れば、駅前によくあるショッピングモールに着く。

 その間の時間は三咲ちゃんの言葉を反芻するには有意義だった。結論が「また会いたい」と言っているなどの短絡的であったとしないのであれば。

 ショッピングモールの奥のスーパーでは袋麵を買うだけだった為に自然とそちらへ足が向く。

 陳列棚を通り抜けインスタントのコーナーへ行くと先客である子供が親に「シチュー食べたい」と駄々をこねていた。

 気まずくなり調味料を見ているとその間に親がさっさと連れて行った。

 袋麺で最も安い物をカゴに入れ、後ろのレトルト食品を見る。 物色しているとレトルトのシチューが目に留まり、そういえば美樹はシチュー好きだったなと思い出しカゴに入れる。

 家に帰ればもう夕暮れも間近で家ですることも無く、久しぶりの掃除を済ませ風呂に入る。

 夕食には少し早いが今日買って来たレトルトのシチューをレンジで温める。

 適当な皿に盛りつけ、スプーンを拵える。出来上がったシチューは香ばしく、普段袋麺ばかり食べている私にその匂いは受け入れ難かった。

 一口目は違和感が大きかったが次第に薄れていった。だが幾度か美樹の顔を思い出しては2度トイレに吐き出していた。

 美樹には悪いが最早シチューを今後口にしないだろう。君を思い出すのは辛い。

 きっと美樹も私などに覚えて欲しくはないだろう。だが明後日からは激務が待っていて、君を又思い出す事はないだろう。

 食器とゲロに塗れたトイレを洗い、満身創痍の儘ベットに横たわる。明日は社内会議に使う資料と契約先の査定書を作って次の資料のデータ収集して、コピーは会社で刷ろう。

 予定を立てていると心地良い疲れと眠気が横切る、今日は色々有った。会社以外でこれ程疲れたのはいつぶりだろうか。微睡みを忘れ眠れているのは終電真際まで続く激務のおかげだろうと今日の後腐れに蓋をして感謝する。

 ベットに寝ているのは美樹だ、その手をまるで吸い込まれる様に取る。瞬間に直感する、美樹の顔には布が敷かれていると。顔を上げても事実は変わらなかった。手に視線を戻すとそこに手は無く愛子さんが膝を付き泣いていた。雨音の方へ観ると美樹が居た。

 「あなたが居なければ私達は幸せだったのに」「あなたが殺したんだから、一緒に死んでよ」「貴方が奪った全部、もちろん私にくれるよね」

 悪夢に起こされ蹲り只泣いた。泣くしか、言い訳が出来なかった。

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不平不満を陳べていたもの者 勇者突撃型 @yuutotu

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