五逆

アスキ

五逆

 一つ、掬っては捨て、掬っては捨てた。それを続けて幾星霜。

棄てた手足は、やがて埋めきれずに、日の目を浴びることとなった。

さすれば、あとは目に付いて、警報が殷々と鳴り響くのみである。

彼は、快楽的な殺人者ではなかった。

だから、不愉快だった。


 気まぐれに頭上を通過する雨雲は、積乱雲の名に恥じぬ、大きな魔人を形成し、嵐を呼んだ。

久遠の時を流れた空はいつか無想と化して、ただ傍観するだけだった。

さすれば、血縁や叫声などはかき消されて、雷鳴に葬り去られた。

彼は、刹那的な殺人者ではなかった。

だから、偶然だった。


 蝶はひらひらと舞い、蟷螂に捕食された。

ここでは木々も同じように、一つ、また一つと刈り取られていた。

見知らぬ無数の木は、誰に知られることもなく、閑疎に沈んでいくだけであった。

さすれば、やがてそれは輪廻を迎え、次の命の糧になっていくだろう。

彼は、欺瞞的な殺人者ではなかった。

だから、情け深かった。


 誰かに踏まれた砂は足跡となり、僅かに、確かな歴史を刻んだ。

幾千の粒にとって、小波に消える情操などは、気に留めるほどのものではなかった。

さすれば、波及した勢いは生命の飛沫を散らし、次の命を包み込んで、形跡をほどいていった。

彼は、衝動的な殺人者ではなかった。

だから、必然だった。


 旅路を終えた旅人は、ただの人間になった。

それから、いくつもの業を積み上げて、屍人の山を築いた。

そして人間は燃え盛る屍の火に涅槃を覚え、彼らに再逢するため、仕上げに人間をくべた。

彼は、独占的な殺人者ではなかった。

だから、愉快だった。


けれど、彼が涅槃にたどり着くことはなかった。

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五逆 アスキ @13106

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