短編とは思えないほど、重厚感がある作品だった。磁器のと錬金術、そこに関わる人間関係。城の複雑な人間模様は、ミステリアスである。
磁器の美しさに魅せられた人々は、狂気の壺の中に落ちていく。
そして、一人の少年の存在が、狂気を生む。
どんなに美しい物を作り上げても、人の欲はさらに美しい物を求める。
この作者様の短編は以前にも拝読したことがあるが、どれもレベルが高いと感じていました。ここでもその手腕が十分に発揮されていて、読むことが出来て良かったです。しかも、知識豊富で、思わず唸る場面もいくつもありました。磁器をテーマにこれだけ書けるとは、さすがでした。
是非、是非、ご一読ください。
不勉強から、この小説がある程度は史実をなぞっていることに最後まで気づきませんでした。
本作は18世紀、神聖ローマ帝国ザクセン選帝侯兼ポーランド王のアウグスト2世が、錬金術師であるヨハン・フリードリッヒ・ベトガーを幽閉して陶磁器を製作させた史実をベースとしたファンタジーです。
東洋から輸入されてきた美しい陶磁器。それと同じものを作ろうとして、しかし作ることができず、焦燥と神経衰弱のなかに身をやつしてゆく錬金術師・ベドガー。そんな彼の前に現れたのは、陶磁器のように透ける白い肌を持った東洋人の少年・影青でした。
喋ることもなく、不気味な佇まいを見せる美しい少年・影青――彼は何者なのか。
史実をベースとしつつ、それを幻想的かつ、青白磁のように落ち着いた、そして冷たい手触りのある美しいファンタジーに仕上げた著者は、まさに黄金の代わりに白磁を作り上げた錬金術師のような存在であると思います。
時は18世紀欧州、ザクセン王アウグスト二世に磁器製作を命じられた錬金術師ベットガーは、秘密保持のため、マイセンの城で幽閉生活を送っていた。
自身の知的好奇心から製作に取り掛かるベットガーだが、徐々に精神を病んでいく。彼を案じる医師や友人達は、王が彼に助手として与えた東洋人の少年・影青に、その理由があると疑うが……。
美しい磁器を追い求め、美しい少年に魅せられる主人公の幻想が、巧みな筆致で描きだされ、読者を眩惑します。ミステリー調の展開と、東洋と西洋二つの文化が織りなす世界の拡がりに、息を詰めて拝読しました。
故事「破甕救児」と、新しい文化の創造が重なる瞬間の感動に、立ち会わせて頂きました。素晴らしいです。
美術品を前にしてため息をつく時に近い感動を覚えました。
いうなればオパール色の霧のような、しっとりと水気を帯びた深いものに包まれる気分でした。
上のほうに青い色が見えたので、海の底に沈んだ幻を感じているのかと思いきや、物語の終盤に向かうにつれ、見えたはずの青い色が、染料の色だったのだと気づきました。
きっと私は、物語を読むうちに、ベットガーと同じように磁器の魅力に翻弄され、白い磁器の内部に取り込まれたのだと思います。
このような内容が、物語に出てくるわけではありません。
不勉強でこの物語の舞台のことはよく知らないのですが、知らない私でもその世界に没頭できるように、磁器の生成に懸ける男の生き様が、細部まで丁寧に描かれています。
つまり、この作者は、表面上の出来事を描きながら、同時に、並行した宇宙のように物語の真髄を伝い這わすことができる稀有な方なのだと思います。
読み手の心の奥底深いところまで揺り動かしてくる、美の魔性にとりつかれた男の物語です。